第268話 サバイバル戦終了!

「まさかゼロス様が神様の使徒だとは思いませんでした。これまでの数々のご無礼をお許しください」


くそ…1番残してはいけない2人を残してしまった。なぜあの時、聖女に確実にトドメを刺さなかったんだ…。聖女さえ居なくなれば、ソフィがベクア達を抑える必要も無くなっていた。俺一人で4人を全員を倒す必要は無かった。



「ん?」


俺の後ろの方から魔法がやってきているのが分かった。その魔法は俺に吸い寄せられているので、直撃するだろうけど避けなかった。なぜなら、その魔法は雷魔法だったからだ。まあ、雷魔法じゃなければ俺に吸い寄せられることも無いんだけどさ。



「…ありがとう」


その魔法はソフィによって放たれたものだ。俺にはもう使える魔力は残っていない。それを見越してソフィが雷吸収させてくれたのだろう。



「使徒様、申し訳ありませんが、今回は勝たせてもらいます。ホーリーギフト、ホーリーロスト」


「精霊ジールエンチャント」


ソフィに魔力を貰ったが、そこまで余裕はない。雷電纏で雷吸収しながらでも、精霊ジールエンチャント1つが限界だ。



「かはっ…」


女に時間停止で腹を殴られた。雷電纏のほとんどを魔力補充のために雷吸収に当てているため防御が薄くなっている。だから殴られたダメージは前よりもでかい。



「雷縮」


俺は離れようとしている聖女の元へ雷縮で移動した。聖女の魔力が後どれほどあるかは分からないが、魔力切れを待つよりも仕留めた方が早いだろう。



「ここに来ると思いましたよ」


「ぐっ…」


聖女は俺の行動を先読みしてメイスを上から振ってきた。俺はそれを何とか受け流して距離を取った。



「落ち着け…」


俺は重大な判断ミスをしたことによって少し焦っている。その証拠に聖女への特攻を雷縮でしか行っていないにもかかわらず、また雷縮での特攻を繰り返した。あれでは読まれるのは納得だ。そして、今の少しの攻防で女と聖女のステータスが今の俺を上回ることもわかった。


どうすれば勝てる?どちらか片方と1対1なら今でも勝てるとは思う。だが、その状況を作れない。

多分俺が聖女を攻撃しようとしたら女勇者が時間停止を使うだろう。それで攻撃されて再び仕切り直しになるだけだ。

そして、女を攻撃しても時間停止のインターバル中に仕留めることは難しい。だから俺が時間停止で一方的に攻撃されてしまうだけだ。

どうにかして時間停止の攻撃を防ぐことが出来れば一気に流れは代わる。だが、そんなことはできな…いや、俺は攻撃を食らった瞬間に受け流したのをこの目で見たことがある。今回は刃物での攻撃ではないからあの老人がやった事よりも簡単だろう。



「雷縮」


俺は再び聖女の元へ移動した。聖女はこれを読んでいたようで、またメイスで攻撃してきた。俺はそれを受け流して、聖女に斬りかかった。さあ…これで来るだろう?


「がっ…」


俺の読み通り女に攻撃された。しかし、今回の攻撃は顔への蹴りだった。そうか…大きく分けても、攻撃場所は腹と顔の2通り、攻撃手段も殴りと蹴りの2通りがあるのか。それを完璧に読んで、さらに受け流さなければいけないのか…。俺の魔力とスタミナとHPがどれくらいまで持ってくれるかの勝負だ。



「雷縮」


俺は懲りず再び聖女の元へ移動した。周りからは同じ事を繰り返して攻撃され続ける俺は滑稽に見えるだろう。




「くぶっ…」


今回は完璧に読めていた。予想通り腹への蹴りだった。しかし、1発で受け流す事なんて出来る訳もなく、普通に蹴られた。

それからも同じ事を繰り返し続けた。その数は30を超えた。そしてついにその時がやってきた。





「ぐふっ…」


『お兄ちゃん!大丈夫ですよね!?』



俺の魔力が再び無くなったのだ。そして、HPも500を下回った。さらに、もう雷電纏を維持し続ける程のスタミナの余裕も無くなった。ソフィも俺が魔力を無くなったのに魔力感知で気付いたのか、心配して?魔導具で声をかけてきた。

今に思えば、全力で広範囲に魔法を放って女勇者を遠ざけて、その隙に聖女を殺れば良かったと思う。そうすれば、女勇者はソフィが倒してくれていただろう。


『お兄ちゃんが大丈夫なら…』



「はは…」


ソフィのその後の言葉を聞いて笑い声が出てしまった。それと共にその言葉はかなり力にもなった。



「…雷縮」


俺は今までと同じように雷縮で聖女の元へ行って、攻撃を受け流した。そして目を瞑った。一瞬だけだが、時間停止からの攻撃が当たる瞬間に危機高速感知が反応する。その瞬間に神速反射を使って受け流す。今回は今までの予想して勘で受け流すのではなく、全力でスキルに頼って受け流す。



「えっ…」


「はっ」


最初からこうすれば良かった。危機高速感知が顔に反応した瞬間に俺は仰け反りながら顔を振った。すると、いい感じに女の攻撃を受け流すことができた。これで留め刺すつもりだったのか、今までよりも力強く攻撃していた女は体勢を大きく崩した。俺はその隙に後ろから首を落とした。無防備だったからか、一撃で殺ることができた。



「なるほど、ずっとそれをしたかったんですね」


「はぁ…はぁ…」


「ですが、今の使徒様に私を倒せる余裕はありますか?」


さっきとは違って魔力が無く、スタミナも少ない今の俺が1対1で聖女を倒す余裕は残念ながら無い。

そう、1対1で倒す余裕は無いのだ。



『ソフィ』


『はい』


俺が魔導具でソフィに話しかけた。すると、上空から俺や聖女をらくらく飲み込むほどの大きな雷が落ちてきた。



「なんでそんなことが…」


「雷電エンチャント、雷縮」


聖女は結界を張って雷を防いだと共に、今の状況に気が付いたようだ。結界のおかげで確かにソフィの雷を防ぐことはできた。しかし、自身の周りに作った結界のせいで聖女は動けない。俺はソフィからの雷を吸収しながら雷縮で移動して、魔力斬りで結界を破壊した。ソフィの魔法はもう消えているから結界を壊しても聖女は無傷だ。



「インパク…」


「はっ!」


しかし、俺に接近されてしまった聖女ができることなんて無かった。俺は今度こそ聖女の首を斬った。



『試合終了!サバイバル戦1位!リンガリア王国!』



「ははっ…」


ソフィの手も借りながら何とか4人を倒すことができた。でも、ソフィは魔導具で無茶を言うものだ。


『お兄ちゃんが大丈夫なら、まず女勇者を殺ってください。今はお兄ちゃん達から距離が離れたおかげで、ベクア達の抵抗が少なくなりました。今ならただの広範囲の魔法くらいなら使えます。ただ、1度バレたら聖女はこっちにやって来るでしょう。そのために、邪魔な女勇者を早く消してください』


何てソフィは魔導具で言ってきたのだ。ソフィ達から離れた理由も考えたらすぐにわかった。


1.雷縮で移動して、聖女の攻撃を受け流す。

2.女から時間停止での攻撃を食らう。

3.その隙に聖女は再び俺から離れようとする。


このサイクルのおかげで俺達はソフィ達から離れ続けていたようだ。その事に俺も聖女も気が付いていなかった。

ソフィは俺が女勇者を倒せないなんて考えてもいなかったのだ。そして、少し隙を作れば、今の俺でも聖女すらも倒せると考えていてくれたのだ。それが弱っていた俺にはかなり嬉しかった。



「さて、いくか…」


今すぐ倒れ込みたいほど疲れているが、まだやることがある。というか、俺からすればこれからの方がメインだ。そのために魔力をユグ達に戦闘中も今も渡し続けているのだ。今は試合も終わったから舞台内の様子は外に映し出されない。退場させられる前に早くしなくては。俺はユグ達の元へ歩いて行った。



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