第266話 勇者の能力

「ホーリーギフト、ホーリーロスト」


「ん?」


聖女がそう呟くと、体が重く鈍くなった。


「あら?デバフを受けるのは初めてですか?クラウディアにはこんな芸当できないですからね。

私のバフはステータスを2倍にして、デバフはステータスを0.5倍にしますからね。もちろんこれは回復魔法なんかで解除はできませんよ」


これなら余程の自信があったのも納得だ。2倍のバフと0.5倍のデバフは少しきついな。



「雷縮」


だが、だったら先に聖女を殺れば良いだけの話だ。そうすればバフもデバフと解ける。俺は雷縮で聖女の真ん前まで移動した。そして、剣を聖女の首目掛けて振った。


「聖女様!」


「ちっ…」


Bが聖女を押して剣を避けさせた。もうBのエクストラスキルは未来を読む系の何かだと言うのが俺の中で確定した。そうでも無い限り今のは初見で防ぐのは無理だろう。

俺は勇者達がすぐ近くにいるこんなところにわざわざ雷縮でやってきたのは、もちろん聖女を斬るためだけではない。こんな状況なら他の勇者もBのようにエクストラスキルを使うだろう。俺は勇者に早くエクストラスキルを使わせたいのだ。




「痛!何この雷!?痺れたんだけど!」


「痛って…」


俺は俯瞰の目で勇者達のことはよく観察していた。それなのに、女に顔面を正面から殴られた。転移したのか?いや…俺は殴られるまで何も気が付かなかった。危機高速感知も反応がなかった。女は何をしたんだ?



「おらっ!」


今度はAが片手剣で斬りかかってきた。こいつは他の勇者と比べてシンプルに速い。だが、これがエクストラスキルでは無いな。エクストラスキルにしては弱い。


「ちっ…」


「なあ…お前は何でそんなに俺に触りたいんだ?」


Aは片手剣を振りながら、わざと隙を見せると剣を持っていない手を伸ばしてくる。こいつのエクストラスキルは触れることで発動するのは確定だな。



「おいカス!何をしてんだ!?さっさと手伝え!」


「俺を前によそ見かよ…!」


Aは精霊を探すために周りをキョロキョロし始めた。俺と戦っているというのに随分な余裕だな。俺は隙だらけのAに斬りかかった。これでまず1人退場だ!

ちなみに、こいつらの精霊達は俺が雷縮で注目を集めた時にユグ達が無理やりどこかに連れて行った。



「ぐっ…」


「痛っ…あんな役に立たない奴隷何て気にしなくて良いわよ。それより今はこいつに集中しなさいよ」


「あのカスが…ちっ…ああ、そうだな」


女が今度は俺の脇腹を蹴ってきた。そのせいで剣がAに当たらなかった。俺は一旦勇者達から下がって距離を取った。




「あの女の能力は何だ?」


今回も勇者達の様子は観察していた。相変わらず攻撃が当たるまで俺の近くまでやってきていたのすら見えなかった。瞬間移動のように移動して、不可避の攻撃を与えられる能力…もしかして時間停止か?それなら女の行動は全て納得できる。

ただ、時間停止はあまりにもチートだ。ずっと時間を止めていたら一方的に攻撃をし続けれる。でもそれをしていない。2回とも時間停止は俺に攻撃した瞬間に解除されている。誰かに触れたら強制解除されるのか?

これでBと女の能力は大体分かってきた。なら今度は別な方法で攻めてみよう。


「雷縮」


俺は三角形の形になっている勇者達のど真ん中に雷縮で移動した。こいつらの陣形は、Aが先頭で、Bと女が斜め後ろにいる。そして勇者達のさらに後方に聖女がぽつんといる。


「やっ!」


俺が雷縮で移動した瞬間にBが焦ったように攻撃してきた。Bはどうやら俺が何をしたいか理解しているようだ。俺はBの剣を弾き返した。


「雷爆」


「「ギィャァーー!!!!!」」


AとBが断末魔を上げながらもがき苦しんでいる。女は1人で聖女の所まで逃げたようだ。助けなかったところを見ると、仲間に触れても時間停止は解除されるのか?そして女は左腕を押さえている。どうやら雷爆を完全に避けられた訳では無いようだ。



「ホーリーヒール」


雷爆が終わった瞬間を見計らって聖女がAとBを回復させた。黒焦げ1歩手前だったAとBが完全回復した。ポジティブに考えると、回復してくれるなら何度でも勇者達を痛め付けられる。しかし、ネガティブに考えると、即死でなければ退場させられない。



「へ〜!お前は高速反射なんてスキルを持ってんのか!」


Aがニチャ〜っと気持ち悪い笑みを浮かべてそんなことを言ってきた。いや、そのスキルはもう持ってない。こいつは急に何を言ってるんだ?雷爆で頭までもおかしくなったか?



「はっ!」


とりあえず近かったし、うるさいし、顔が気持ち悪いからAに剣で斬りかかった。しかし、その攻撃は簡単に避けられた。さっきよりも格段に反射速度が上がっている。


「お前も気がついたようだな!俺は触れるか、魔法を食らうかでスキルをコピーできるだぜ!俺はお前の高速反射をコピーしたんだよ!」


「………」


「絶望で声も出ないか!?」


「黙れ」


Aは優位に立ったと思って自信満々に話している。そんなこと今はどうでもいい。こいつはなんて言った?コピーした?あれれ?おかしいな。俺はあの神にコピーのスキルは断られている。俺は駄目でこんな勇者には与えるのか…。絶対試合が終わったあとに神の元へ行こう。

だが、これでやっと勇者達全員の能力は完全に把握できたな。


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