第238話 精霊化

ガキンッ!


雷縮でベクアの後ろに回り込んで斬りかかったが、その攻撃はベクアの氷雪鎧に防がれた。



「やっと向かってきたな!待ってたぜ!」


ベクアは俺が攻撃したのに嬉しそうにしている。俺は期待に応えられるように攻撃を続けた。





「はぁ…はぁ…やっぱ、ゼロスに攻撃されると勝ち目がねぇよな」


ベクアの攻撃は当たらず、俺が攻撃し続けている。俺の攻撃は氷雪鎧に阻まれて直接ダメージは与えられていないが、それも少しづつ削れて薄くなっている。このまま同じことを続けていたら俺が勝つのは時間の問題だろう。



「お前を倒す方法を考えたらやっぱりこれが無難だわ」


ベクアはそう言うと、両手の氷雪鎧を巨大にした。それで俺を捕まえた。巨大過ぎて避けるところがなかった。無理やり鎧を壊して抜け出すことも考えたが、少し抵抗するだけで大人しく捕まった。このタイミングで俺は雷電エンチャントを全て回復エンチャントに切りかえた。魔力に疎いベクアはこの変化に気付けていない。




「お前を捕まえるのが1番効果的って分かってるからな」


俺の弱点は捕まえられたらどうしようもないところだ。動けなければ神速反射も意味が無い。それはソフィ、シャナ、エリーラで証明されている。特にソフィの空間魔法にはよく捕まっている。



「これも勝負だ。悪く思うなよ」


「ああ。もちろん」


そしてベクアは腕の鎧を縮め始めた。俺に近くなると蹴りを放ってきた。魔法を放ってもベクアは殴り消せる。だから魔法を使ってもガードはできない。



「精霊化」


「え?」


精霊化をすることができた。ブロスのおかげでさっきまでの苦労が何だったんだと思うほどすんなりとできた。そしてベクアの放った蹴りが俺の顔をすり抜けた。ついでに掴んでた腕もすり抜けて俺は抜け出した。ピコーン!と脳内で音がするが、とりあえず今は無視だ。そしてベクアは俺に触れた。実際には顔をすり抜けたのだが、ユグの精霊化状態で触れたのだ。ジールの精霊化だった場合はこの時に雷でダメージを負ったのだろうが、ユグの精霊化では全くダメージが無い。だからって弱い訳では無い。むしろ最強に近いとすら思う。




「HP強奪」


「あっ……」


俺がそう言って手をベクアに向けると、ベクアは倒れた。そしてそのまますぐに場外に転移した。俺がやったのは言葉通りHPを奪ったのだ。これはベクアの魔防が低いからできたことでもあるだろう。これはちょうど一年と少し前の園内戦の予選が始まる前日にジールから聞いていたユグの能力の1つだ。精霊化した時にそれができるとわかった。




「し、試合終了!勝者!ゼロス・アドルフォ!」


突然の事にアナウンスが少し遅れてかかった。観客も何が起こったのか分かっていないのか呆然としている。そんな中、観客席にいるソフィを見つけた。ソフィは俺と目が合うと、ニコッと可愛く笑った。俺は正直早く闘技場から下りたい。なぜなら頭がぐらんぐらんと揺さぶれている感じがあるからだ。今すぐ膝を着いて吐きそうだ。だが、ソフィを前に弱みは見せられない。俺は悠然と舞台から下りた。舞台から下りると今までの気持ち悪さがすっかり無くなった。



「ゼロス!俺に何をしたんだ!?」


舞台を下りるとすぐにベクアが駆け寄ってきた。聞いただけでは怒っているふうにも聞こえるセリフだが、ベクアの顔は笑顔だ。



「それは秘密だ」


「明日も今のを使うのか?」


秘密と言うと、がっかりした様子だった。しかし、どこか納得した様子だった。奥の手はあまり人に知らせるようなものでは無い。ただ、観客席でじっくりと見て何をしたのかを暴きたいのだろうか、明日も使うのかと質問してきた。



「使えたらいいな」


ベクアの質問に俺はそう答えた。多分使わせて貰えないだろう。ソフィには知る由も無いが、ソフィの魔防を考えたらHP強奪は難しいだろう。ただ、MP強奪は出来ると思う。それはともかく、あんな一撃必殺を使わせてくれるほどソフィは甘くない。初見だったらまだ可能性はあったかもしれない。





「よし!」


俺は闘技場出て歩き出した。今日はソフィの試合を見ない。というか見ている余裕が無い。精霊化を見せた以上絶対に精霊使いは封じられる。ならブロスとダーキと一緒に勝つしかない。




「闘技場を出てあんたはどこ行くのよ?」


「え?」


突然後ろから話しかけられた。誰かと振り返ると、そこにはエリーラが居た。



「今出ていくってことは特訓でもするつもり?さっき精霊王様とあんなのできたくせに?」


エリーラは俺が何をしたかはお見通しのようだ。エリーラなりの気遣いか、今のセリフは誰にも聞こえないように小声で言った。



「あれじゃあ多分ソフィには勝てない」


「はぁ…あんたの妹はどんだけ化け物なのよ」


エリーラは呆れるようにそう言った。確かに我が妹ながらかなりやばいと思う。



「王都から出るのでしょ?私も付き合うわよ」


「え!いや、いいって」


「私は試合終わってるからもう戦うことは無いわ。それにソフィアとは仲が良いってわけでもないからあんたの力を教えたりもしないわよ」


別にエリーラに俺が今からやる事を見られるのは問題ない。どうせ明日やって使う予定なのだ。見られるのが今日か明日の違いでしかない。だが、何が起きるか分からないから付き合わせられない。



「でも、…」


「うるさいわ。もう着いて行くって決めたから。王都の外に出て私に問題が起きたらどうするつもり?私はあんたと一緒に出たけど振り切られたって言うわよ?」


「それは…」


そう言われてしまったら俺が悪いみたいになってしまう。事実はどうであれ…。


「それに私をこれだけ遠ざけるってことはあんただって何が起こるか分からないのでしょう?あんたとはいえ外で無防備になるのはさすがに危険よ?」


「はぁ…俺の負けだよ。着いてきていいよ」


「最初から素直にそう言えば良いのよ」


そうして俺はエリーラと一緒に王都から出ていった。エリーラに言いくるめられる形にはなったが着いてきてもらって正解かもしれない。なぜなら精霊化であんな状態になったのに、契約してすぐのブロスとダーキで悪魔化、獣化なんてやったらどうなるか分からないからだ。だが、俺はどうしても今日でブロスとダーキを最低限使いこなせるようにならなければならない。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る