第239話 ソフィア視点

「これより第2試合を開始します!」


午後になって私の試合が始まろうとしていた。私は観客席を見てお兄ちゃんが居ないことにすぐ気が付いた。



「第2試合!クラウディア・アレオーラ対ソフィア・アドルフォ始め!」



きっとお兄ちゃんはあの新しい剣を使って何かやっているだろう。昨日はずっと剣を傍に置いていた。剣をよく見てみると、あのよく分からない追尾する玉が装着されていた。嵌めて取れなくなったのか、わざと付けたままにしているのかどっちかだ。私は取れなくなったのだろうと予測している。なぜなら私の前でわざわざその玉を嵌めているところを見せるメリットがないからだ。


あと、多分お兄ちゃんは気が付いていないけど、明日の試合で不利なのは私だ。まだ今日の試合を見る前はそこまで不利という訳では無かった。でも、今日の試合で一気に不利になった。もちろん理由はお兄ちゃんが精霊王でした何かのせいだ。

あれは物理攻撃を完全にすり抜けていた。お兄ちゃんに纏っている魔力から見て多分魔法もすり抜けると思う。そして何よりも厄介だと思うのがあのHPを奪った何かだ。原理は私のドレインと似ている気がするが、私のドレインではHPを奪うのは無理だ。私の予想ではあれの発動条件は触れることだと思う。そして、あの状態のお兄ちゃんなら精霊王を使って転移もできると思う。私はお兄ちゃんのような反射神経は無いから転移してきた相手を避けれない。そうして触れられたらもうそこで終わりだ。HPを奪うやつに魔防が関係してたら無事かもしれないが、そんな博打はできない。


そうなってくると、私はお兄ちゃんの精霊使いを封じなければならない。発動されたら即終わりの可能性のあるやつを使わせる訳にはいかない。もし、精霊使いよりも強いスキルをお兄ちゃんが取得してたとしてもだ。つまり、私はお兄ちゃんの精霊使いを封じる代わりに後手に回らざるを得ないのだ。


それに対して私の見せていない手札はシファの特殊能力だけだ。それと、お兄ちゃんが絶対に知らないであろう悪魔化も一応できる。ただ、あれは少し理性が無くなるので好きな人の前では見せたくない。理性が無くなったくらいでお兄ちゃんが私の事を避けるなんてことは無いけど、乙女的に嫌だ。でも、負けそうになるほど追い込まれたら使うしかない。


そして私が分かっていないお兄ちゃんの手札があの2本の剣だ。玉を付けて取り外せなくなったのなら何らかの能力はあると考えられる。そしてそれはまだ完全に使いこなせないのだろう。私の勝機はそこを狙うことだ。使いこなせていて今日は温存したという線はない。もしそうなら1度グリップを握った動作は必要ない。あの後に精霊王を使ったところを見ると、魔力を操作しやすくなる効果でもあるのかも。

さらに、分かっているけど対処出来ないのが、あの神の雷だ。こんな大勢の前で使うかは分からないけど、あれを防ぐのは難しい。ただ、あれをやりながら新しい剣の能力を使う余裕は無いと思うからそれはあまり警戒をしなくてもいいだろう。


このように隠し持った手札の数はほぼ同じなのに私は後手に回る。だから不利なのだ。お兄ちゃんは私に対して後出しジャンケンをするようなものだ。私の行動に合わせて対処される。



「はぁ…はぁ…全く当たらない…」


「ん?」


私はある事が気になって観客席をもう一度見渡した。



「いない…!」


あのエルフが居ない!考えられるのはお兄ちゃんと一緒に居るということだ。それは絶対にダメだ。この前教会に行った時にあの神に会う事はできなかったが、忠告はされた。前に1度あの神の言うことが当たったから今回も無視はできない。お兄ちゃんには勇者のみに集中して欲しいからと黙っていたことが裏目に出てしまった。お兄ちゃんのためにもこの試合はさっさと終わらせよう。



「聖なれホー…」


私は何かしようとしているクラウディアの首を空間魔法で空間ごと切断した。そしてクラウディアは舞台の外に転移した。これと同じことをお兄ちゃんにやったら確実に避けられる。さすが私のお兄ちゃんだ。



「し…試合終了!勝者!ソフィア・アドルフォ!」


私はこのアナウンスを聞いて急いで闘技場の外に出た。誰かが話しかけてきたが、申し訳ないけど無視した。当たり前だけどお兄ちゃんが第一優先。



「……」


私は闘技場の外に出て一旦止まった。私がお兄ちゃんのところに行くのはダメだ。明日の試合のために訓練しているお兄ちゃんを私だけは絶対に見てはいけない。だからって今のお兄ちゃんを無視することはできない。そして他の人に頼むのも本末転倒だ。



「お兄ちゃん、ごめんね」


聞こえてないと思うけど先に謝った。本当ならまだ1、2時間は訓練できたと思うけど、私はそれを邪魔をする。まず、称号のストーカーでお兄ちゃんの位置を割り出した。そしてお兄ちゃんの真上からお兄ちゃんの十八番のサンダーバーストを落とした。お兄ちゃんの称号の避雷針でエリーラに当たることは無いと思う。もし当たっても重症にはならない威力にしてあるから大丈夫。そしてお兄ちゃんなら私の魔法だと魔力で分かるだろう。私が急に魔法を放ったので、私に何かあったのかとお兄ちゃんは急いで戻ってくるだろう。私はお兄ちゃんの優しさを利用してしまった。




『2人とも今日の最終調整は無し』


『分かったのじゃ』


『分かりました』


お兄ちゃんの特訓を邪魔しておいて、私は特訓するなんて許されない。今日の内に少しでも悪魔化を使えるようにしておきたかったけど仕方ない。

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