第217話 報告

「よし!これで完璧に溶けたから今日はもういいぞ。予定より時間がかかって悪かったな」


「大丈夫ですよ」


結局魔力は6時間ほど注いだ。何でもグラデンの想定していたよりも剣達が頑丈であったらしい。だからといって溶かしている途中で辞めるわけにもいかなかったのでこんなに時間がかかった。


「後は固まるのを待つだけ一旦帰ってもいいぞ」


「分かっ……一旦?」


分かったと言ってソフィと帰ろうとしたが、一旦という言葉が気になった。


「ああ。明日からは休む暇なく泊まり込みだから帰れるうちに帰った方がいいだろ」


「…泊まり込み?」


「ああ。言ってなかったか?」


「聞いてねぇよ!」


そんな話は全く聞いてない。一応念の為ソフィの方に視線を移して確認しても首を横に振った。ソフィも聞いていないようだ。



「でも、注ぎ続けるのは3時間以上だって…」


「ああ。その後は剣を打つから30分ぐらいは休憩できるぞ」


「そ、そうか…」


まあそうだよな。剣を1から作るのに1日3時間魔力を注ぐだけで済まないよな…。エルフと獣人のことはシャナとクラウディアに任せっきりになってしまう。それの報告と謝罪に行かないとな。後、体と服は魔法で綺麗にできるが、一応泊まるなら着替えとかは欲しい。一旦小屋から出て帰ることにした。



「えっと…ソフィ」


「はい?」


「ごめんね」


帰っている途中で1週間も拘束してしまうのはさすがに迷惑をかけたと思って謝ったが、ソフィはきょとん?としている。


「前にも言いましたが、お兄ちゃんのためなら私はたった1週間なんて全然問題ないですよ。ですが、1週間もお兄ちゃんと密着しているので、癖になってしまったら責任取ってくださいね」


「責任って……」


「具体的に言うと、結婚してくれるか、好きなだけ私と密着してくれるかですね。私は前者を希望します!」


「具体的に言わんでいいわ!それと、ちゃっかり希望まで言うな!はぁ…ありがと」


多分ソフィは俺が気にし過ぎないように冗談で責任がどうのこうのと言ったのだろう。…そうだよね?

俺達は一旦家に帰って着替えなどをマジックリングに入れた。そしてその後はシャナ達がいる学園の練習場に向かった。




「はぁっ!」


「や、やあ!」


「腰が入ってないぞ!もっと思いっきり打ち込んでこい!」


練習場に入ると、ベクアを相手に弟のウルザと妹のキャリナが模擬戦をやっていた。そして俺達が来たことに気付いたからか模擬戦は止めた。



「シャナとクラウディアには悪いけど明日から1週間くらいはここに来れないと思う」


シャナとクラウディアに俺達がここに来れない具体的な事情を説明した。



「じゃあ剣が完成したら、ゼロスが私達と模擬戦してくれるなら許す」


「私達って事は2対1?」


「そう」


「分かったよ」


別に模擬戦くらいならなんら問題ない。逆にそれで許されていいのかと思うほどだ。でも、2対1で模擬戦か…それでも勝てるよな?



「ベクア達も悪いな」


「問題ない!1週間後にゼロスよりも強くなって見返してやるぜ!」


俺が1週間ここに来ないで怠けていた事を後悔するほどベクアは強くなってやると意気込んでいる。



「え、えと…」


「どうしたの?」


キャリナが俺の袖を掴んで何か言いたそうにしている。だから俺は少し屈んで目線を合わせて威圧しないようにできるだけ優しく声をかけた。



「ま、また私とも模擬戦してくれる?」


「いくらでもしてあげるよ」


「あ、ありがとうっ!」


キャリナはそれだけ言うと、恥ずかしなったのか顔を赤らめてベクアの後ろに隠れてしまった。



「エリーラも悪いな」


俺は少し端の方にいるエリーラにもそう声をかけた。



「なら剣が完成したらこれに付き合いなさい」


「ん?」


エリーラはそう言いながら近付いて来て紙を俺に見せてきた。その内容は、

《エルフの女王であるエミリー・ジャネットの名において、エリーラ・アルメレクとゼロス・アドルフォが共に王都外へ出た場合は、王都外で起きたことは全てエリーラの自己責任とし、エルフはこれを咎めない》

と書いてあった。



「つまり?」


「私と魔物を狩りに行きましょう」


もしかしてエリーラはわざわざエミリーさんにこの許可証を貰ってきたのか?


「もちろん大勢を引き連れていくと迷惑かけるから着いてくるのはゼロスだけでいいわよ」


これはエミリーさんが俺を信用しているから俺と共にという条件なのか?それとも何か別の意図があるのか?さっぱりわからん。



「なら私も着いていきましょう」


「私一人に対してそんなに人員を割くのは迷惑になるならゼロスだけでいいわよ」


ソフィの着いていくという言葉にエリーラが反論した。そして2人は少し睨み合って、エリーラが再び俺の方を向いた。



「もちろん毎日行くとは言わないわよ。週2でいいわよ」


「まあ、週2ならいいかな」


「お兄ちゃん!」


「ふふっ、なら決まりね」


週2くらいなら他の時間てわベクア達の相手もできるし問題ないだろう。それに俺も魔物を狩って早くレベルを上げたい。いつまでもレベル1は嫌だ。

エリーラは満足そうに再び俺達から離れていった。そして俺と不機嫌のソフィは練習場から出てグラデン達の小屋へと向かった。



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