第216話 疑い
「ソフィ…」
「何でしょう?」
「もしかしてこの状況は俺を壁にするための意味も含まれているのか?」
「……たまたまですよ」
「間があったぞ」
この会話を始めたのは魔力を注ぎ始めてから1時間程だった。取っ手自体は熱くないのでいいのだが、溶鉱炉本体が凄い熱を持っている。その熱気が俺に直接当たる。すぐにくっ付いているソフィによって冷やされる。だから暑くはないけど熱い。
「全くしょうがないですね」
ソフィがそう言うと俺に当たっていた熱さは無くなった。
「薄いバリアを張ったのでもう大丈夫ですよ」
「…できるなら最初からして欲しかったよ」
魔力高速感知によってソフィのその魔法は光魔法だと分かった。
「好きな人には意地悪したくなるんですよ」
「小学生の男の子かよ……」
俺はグラデン達に聞こえないようにぼそっとそう言った。
「火耐性のスキルレベルが上がったかもしれませんよ?」
「はぁ…」
俺はため息を着いた。まさか火耐性のスキルレベルを上げるためにわざと…ん?少し気になることがあるぞ。
「…ソフィは熱くないの?」
「はい。私の火耐性のスキルレベルは4ですけど全く熱くは無いですよ」
一応ソフィも取っ手を掴んでいるので、片腕は溶鉱炉のすぐ側にある。
「さて、進化前のお兄ちゃんの火耐性のスキルレベルは8でしたよね?なぜ熱いのでしょうか?」
「…それ絶対答え出てるだろ」
「はい。スキルレベルが下がった…いや、熱がり方から見て1になったのでしょう」
何で進化前のスキルレベルを知っているかは置いておいて、ソフィは俺のスキルレベルが下がった事を疑っていたのか。
「いつから疑ってたの?」
「スキルレベルが色々と下がったことですか?それは兄妹喧嘩をした時の氷魔法と雷電魔法?での氷の比率が少な過ぎた時からおかしいなと思ってましたね」
「疑うタイミング早いな…」
俺は思ったよりも早くソフィにスキルレベルが下がったことがバレていたようだ。
「ちなみに進化前のお兄ちゃんの氷魔法のスキルレベルなら今も自分で冷やすことぐらいは出来てますよ」
「まじかよ……」
俺はそこから鎌をかけられていたようだ。もうここまでくると、兄妹喧嘩の時に疑われなくてもバレるのは時間の問題だっただろう。
「別に私はスキルレベルが下がった事は神に文句を言いたいだけでそこまで重要視はしてませんよ」
「あ、そうなの?」
まあ、別にスキルレベルが下がった事くらいは別にバレてもいいと思ってはいたが、ソフィもそう思っていたとは思わなかった。でも、なら何で鎌をかけてまで知ろうとしたんだ?
「これはあくまで私の推測ですが聞いてください。お兄ちゃんが変な種族に進化させた事はスキルレベルを1にするほど大変では無かったでしょう。何故なら種族を無理やり合わせるだけで良いのですから。そこまで重労働では無いはずです。ただ、もしも進化したスキルや雷獣精人王の種族特性であるスキル以外にエクストラスキルなんかを取得していたとしたらスキルレベルを下げる程のコストが必要になると思うんですよ」
「はぁ…」
そこまで聞くと、さすがにソフィが何を確かめたいのか分かった。あ、俺の種族のことを変な種族とか言わなかった?
「つまり、ソフィはあのエンチャントのスキルを暴きたいわけだ」
「はい!お兄ちゃんは教えてくれないみたいなので自力で暴こうと思いました」
「何でそこまで暴きたいのさ……」
確かにソフィは神雷のせいで負けたかも知れない。でもそこまでして知りたいと思うかな?あ、普通に思うか……ソフィだしな。いや、ソフィじゃなくても自分が負けた原因は知りたいと思うか。
「お兄ちゃんが進化する前は鑑定で全てのスキルが見えてました」
「…マジで?」
「マジです」
どうやら俺のステータスは筒抜けだったようだ。
「それなのにお兄ちゃんが進化するとステータスは見えなくなりました。多分偽装が進化したんですよね?ちなみに私が進化した時は偽装は進化しませんでした。つまり、わざわざお兄ちゃんの偽装を進化させてまであの神はそのスキルを私から隠そうとしたのです。つまり、あの神はお兄ちゃんと2人だけの秘密を持っているんですよ。そんなの気に食わないじゃないですか」
「つまり、簡潔に言うと?」
「私以外の誰かがお兄ちゃんの秘密を私抜きで共有していることが嫌だったってことです」
なるほど。とてもソフィらしい理由だ。この理由なら負けた原因であるスキルの正体を暴きたいからと言われるよりも説得力がある。
「でも、スキル名は大体予想できますよ。エンチャントが雷で、神からの授かり物。だからスキル名は「雷神」、「神雷」、「神の雷」といったところでしょうか?」
やっば…1個正解があるんですけど…。ソフィの洞察力はかなり凄い。
「スキル名が神雷という事は分かりましたし、今日はそれで許しましょう。いつか詳しくそのスキルを教えて下さいね」
「な、何で神雷だと思ったの?」
「神雷と言った時だけお兄ちゃんの身体が一瞬だけ硬直しましたよ?私はお兄ちゃんの事なら何でもお見通しです」
「ソフィに隠し事は出来ないな……」
そもそも俺がソフィに隠し事をしようとしたところから間違っていたのかもしれない。でも、ソフィの良い所は無理やり秘密を聞き出さないことだ。メンヘラとかみたいに言わないなら自殺する!とか言われたら教えざるを得ない。
ちなみにここまでバレてるなら神雷を詳しく説明しようかと思ったが、止めておいた。ソフィは洞察力が鋭過ぎるので、詳しく説明してしまうと、前世で俺を殺したものだと気付くかも知れない。ソフィに余計な心配はかけたくないからしばらくは黙っていよう。
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