第200話 これから+ソフィア視点

「ところで、お兄ちゃんに聞きたいことがありました」


「何?」


ソフィは先程の話が無かったかのように明るくそう言い出した。



「お兄ちゃんはこれからどうするのですか?」


「どうするとは?」


「そろそろエルフの里から出て王都に帰らないんですか?」


あ、そうか。もう進化もしたし、魔族達の襲来も防いだからこの里に長居する必要も無いのか。




「シャナやクラウディアさんのことも気になるし帰らないとな」


「……私の告白のすぐ後なのにも関わらず、他の女の名前を出すなんてお兄ちゃんは恋心というものを理解していません」


「悪かった悪かった!だからそんなにじり寄ってくるな!何する気だ!」


「お兄ちゃんに私の気持ちを手取り足取り教えてあげようとしています」


今更だが、ソフィを同じベッドの上に座らせたのは間違いだったかもしれない。そしてシャナやクラウディアさんのことを他の女呼ばわりって…。



「まあ、安心してください。今日は手を出しませんよ」


「今後一生そうであって欲しいよ…」


ソフィは再び唇同士がくっつきそうな所まで近付くとすんなり離れた。それにしても、ソフィならこんな絶好のチャンスを逃すとは珍しい。今は2人っきりで邪魔も入らないのになぜだろう?



「なんで今日は手を出してこないんだ?」


「私のお兄ちゃんは私に手を出して欲しいの?」


「いや!普通に気になっただけの質問だから!他意は無いから!それと自然に俺をお前のにするな!」


確かに言い方が悪かった。あれではソフィに手を出して欲しいって言っているようなものだ。



「私はこれでも、お兄ちゃんに負けた事がとても悔しいんです」


「そうなの?」


「はい。今日の私は全力で勝ちにいきました。それでもお兄ちゃんに負けたんですから悔しいです」


あんまり悔しがっている様子が無いので気にしてないと思っていたが、ソフィは負けた事を悔しがっていたのか。まあ、確かに前世を含めてもソフィが負けたところを見た記憶はほぼ無い。だから負け慣れてないのだろう。



「だから今日は自分への戒めとしてお兄ちゃんに手を出しません。今日は」


「そうか。ちなみに、今日はというのを強調しなくていいぞ」


「あ、もちろんお兄ちゃんが手を出して欲しいなら出しますよ?」


「出さんでいいわ!」


それから俺とソフィはくだらない話を夜が開けるまでしていた。由美と久しぶりに話しているということに少し涙が出そうになった。ちなみに、くだらない話の中でも一応くだらなくない話もした。それは1週間後くらいにはエルフの里を出て王都に帰るなどの話だ。エルフの里にはとてもお世話になったな。このまま居たらここに居続ける訳にもいかないので、そろそろ王都に帰ることにする。









◆◇◆◇◆◇◆


ソフィア視点




お兄ちゃんが私の事を由美だと気付いてくれた。

その事がとても嬉しかった。気付いてくれるようにところどころヒントは出てきたが、あまりそういったことに鋭くないお兄ちゃんはなかなか気がついてくれなかった。前世の母には反抗期が終わった翌日の朝に、「世間体もあるから避妊だけは絶対にしなさいよ」と言われた。私の気持ちは父と母には気が付かれていたみたい。その両親の鋭さを少しでもいいからお兄ちゃんに受け継いで欲しかった。



私はお兄ちゃんに転生した経緯を咄嗟に嘘をついた。転生してお兄ちゃんと会うためだとはいえ、自殺したなんて言えるわけが無い。それこそお兄ちゃんはとても責任を感じてしまう。それに私が重いと思われてしまう。私は自己分析がしっかりできている。だから私が重いというのも理解している。だからお兄ちゃんが何を差し置いても私の事を選んでくれるようになるまでは、それを隠しているつもりだ。だけど、私だって普通の女の子。お兄ちゃんが私以外の女と話していると嫉妬してしまう。そんな時に少し邪魔をするくらいは許して欲しい。



あと、私はお兄ちゃんと戦って負けた。その事に驚いている自分に驚いた。どこか本気で戦えば反射神経で負けているとはいえ、お兄ちゃんに負けるとは思っていなかったらしい。私は誰よりもお兄ちゃんのことを知っていたのに、お兄ちゃんを軽んじていたようだ。だから目が覚めて負けたと知った時はとても悔しかった。私は大好きなお兄ちゃん相手でも負けたくないみたいだ。いや、大好きなお兄ちゃんだから負けたくないのだ。今のままだともし何かあった時には、お兄ちゃんに私が守られてしまう。それは絶対に許されない。私は強くならなければならない。やはり私がお兄ちゃんを守りたい。



それと同時に少し思ったこともある。

それは、お兄ちゃんと私が本気で殺し合いをしたらどっちが勝つのか…だ。今回の兄妹喧嘩はお互い致命傷を与えないように気を使っていた。だから私も複数ある即死級の魔法は全て使えなかった。もしそれを使えたら…いや、そんな考えは辞めよう。お兄ちゃんにそんな魔法を使う機会なんて今後もないのだから…。



でもお兄ちゃんが王都に帰ってくる気になってくれてよかった。正直、私は上位エルフの3人のことを好ましくは思っていない。逆に向こうも私の事は嫌いだろう。だからここに長居したいと思わない。それにお兄ちゃんとまた冒険者をやりたい。一緒に夜を過ごしたい。


今までは3人パーティだったけど、もしかしたら4人パーティになるかもしれない。なぜなら、お兄ちゃんと私がいない間にシャイナはクラウディアさんとパーティを組んで冒険者をしていたからだ。私は4人パーティになることを反対はしない。クラウディアさんの能力なら問題ない。お兄ちゃんの役に立つだろう。だけど余計な虫がお兄ちゃんにつかないように気を付けないといけない。それともう少しで人間の国に留学生が来る時期だろう。今回は獣人もドワーフも私達が住むリンガリア王国に来るという噂がある。きっとエルフ達はリンガリア王国に来るだろう。対校戦でリーダーだったお兄ちゃんと副リーダーだった私は留学生の面倒を見なければならないだろう。


お兄ちゃんと私とのラブラブ生活にはまだ少し時間がかかりそうだ。


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