第201話 翌朝

「ゼロくん!なんで悪魔王が来ているのに、昨日は起こさなかったの!」


「ごめんなさい…」


ユグとジールは朝になったらちゃんと目が覚めた。強制的に眠らされたような感じに違和感があったらしく、俺に何かあったのかと聞いてきた。だから素直に悪魔王が来たと話した。その結果、怒られている。寝ずに朝まで話していたソフィは、未だにベッドの上にいる。しかし、俺の背に寄っかかっているだけで、話に介入して助けてくれる様子はない。




「でも悪そうな悪魔では無かったよ?」


シスコンを除けば、むしろ良いそうな悪魔だった。シスコンが無かったら完璧だった。




「悪魔王はこの世界に契約者が居ないにも関わらず、強引に来れていたんだよ?ならもしかしたら、強引に契約させられてたかもしれないんだよ?」


「でも俺には契約者がユグとジールの2人で枠は埋まってるから無理なんでしょ?」


精霊や悪魔や獣と契約できる枠数は決まっていると言っていた。それはその三属で共有しているとも言っていた。その枠は俺やソフィのような転生者は2枠、普通の人達なら1枠なのだろう。そして俺とソフィの枠は全て埋まっている。だから無理やり契約させられる心配は特にしていなかった。



「ゼロくん…枠は埋まってたら開ければいいんだよ」


「え?契約って他人が強引に解除とかできるの?」


ユグやジールに契約解除方法を聞いた時は、俺とユグ達の契約者同士で契約解除を納得するか、ユグ達から一方的に契約破棄するの2通りしか言われていない。他人、それも悪魔が強引に解除する方法があるとは思えない。




「契約者の私達が死んだら、強制的に枠は開いちゃうんだよ」


「え…精霊って死ぬの…?」


「寿命とかは無いよ。ただ殺すことはできるよ」


精霊は超次元的存在だから死ぬことは無いと思い込んでいた。でも、なら精霊は延々と数が増え続けるのではないか?と思った。でもそれを聞くのはやめた。なぜなら今のユグとジールはとても寂しそうで悲しそうな顔をしているからだ。

そういえば、ユグの父親は元精霊王だと言っていた。しかし、母親の話は聞いたことがない。もしかしたら、何か関係しているのかもしれない。


「ごめん、もっと気を付けるよ」


「うん…」


何か湿っぽい雰囲気になってしまった。だからと言って代わりの話題も見つからない。どうしよう…。




「ゼロス!お兄様はもう居らんか!?」


そんな雰囲気を払拭するかのようにディアがソフィの中から飛び出してきた。ディアは目測誤ってか、少し空中に現れたので、床に転びそうになった。そしてそんなディアに続いて、シファは優雅に現れた。



「私のお兄ちゃんに対してその口の利き方は何?」


「ず、ずまながっだのじゃ……」


「ソフィ、まあまあ…」


ソフィは俺を呼び捨てで呼んだディアの胸ぐらを掴んで持ち上げた。そして何か魔法の準備も始めたのですぐに止めた。


「ならなんと呼べばいいんじゃ…あっ!こう呼べばいいんじゃ!お兄ちゃんっ!」


「ッッ!!!?!」


全身にゾワッという悪寒が走った。ほんの一瞬だが、危機高速感知も発動した。反射的に急いで後ろを振り返っても、もちろん何も無かった。首に鎌を当てられたかと錯覚するほどの悪寒だった。これは絶対にどっかのシスコン悪魔王のせいだ。

周りはそんな俺の反応を不思議そうに見ている。だが、シファだけは、あー…という納得したような顔をしている。もしかしてシファさんは悪魔王がシスコンだと知っているのか?



「…できれば違う呼び方にして欲しいな…」


「ソフィアのお兄ちゃんだからお兄ちゃんと呼ぶのはいけないのか?」


「ごめん、命に関わるからできればやめて欲しいかな…」


毎回ディアに呼ばれる度に悪寒が走るのは心臓に悪い。それにソフィの顔が怖くなっている。どうやらお兄ちゃん呼びはソフィのお気にも召さないようだ。



「んー…なら兄さんはどうじゃ?」


「………大丈夫だよ」


「なんじゃその間は…」


兄さん呼びなら悪寒は走らなかった。兄さん呼びならセーフのようだ。それ確認してからディアに許可を出した。もしかしてだが、悪魔王はディアにお兄ちゃんと呼ばれたいのか?




「そ、それで……お兄様は何か言っておったか…?例えば…妾を殺すとか……」


「いや、ソフィとの契約は大丈夫的なことを言ってたよ」


あのシスコンがディアを殺すことはありえないだろう。そんな事は言えないから言っても大丈夫な所を何とか言った。



「良かったのじゃ…。その他にお兄様は何か言っておったか?」


「枠さえ空いてれば俺と契約しても良かったって言ってたよ」


「何じゃと!?」


ディアが驚いて固まってしまった。シファも相変わらず無表情だが、少し驚いているのか、口がほんの少し空いている。


「お兄様は条件に合うかなりの実力者がおらん限り俺の契約者は現れないと言っておったのじゃ…。兄さんはその条件を知っておるのか!?」


「ご、ごめん…俺にもわかんないや」



悪魔王の中でかなりの実力者に入ったのは嬉しいが、絶対に条件っていうのはシスコンということだろう。だが、今ここで、「条件はシスコンだよ!だからシスコンの俺は条件に当てはまったのさ!」とか言えるわけがない。




「精霊2人居るのじゃから、1人をお兄様に取り替えてはどうじゃ?」


「俺はこの2人と契約解除してまで新しい契約者が欲しいとは思わないよ」


「そうか…」


これはディアが冗談で言っていたというのが分かった。俺が2人のうち片方と契約解除してまで悪魔王と契約するとは思っていなかったのだろう。

俺は今まで沢山お世話になったジールとユグを切り捨ててまで強くなりたいとは思わない。というか、現時点でも2人の力を全然活かせていないのに、契約解除して新しい契約とか調子に乗っているとしか言えない。


そんな話を俺たち6人でしていると、朝食の準備が出来たとドアをノックされて声をかけられた。俺達は精霊と悪魔をそれぞれ自分の中に戻して朝食に向かった。





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