第186話 蛾の実力

「せいっ!」


「キィーー!?」


「やぁっ!」


「キィピィー!!」


あれ?思ったよりエンペラーモスって強くない?飛ばれて一方的に攻撃されたら厄介だが、羽を切ったので飛ぶことも無い。こいつの攻撃手段は毒とレーザーと羽で叩くくらいしかない。それくらいなら躱したり、防いだりするのは苦では無い。


「キィ!!!」


足を6本全て斬り落として動きを取れないようにすると、羽を地面に叩き付けて10mほど宙に浮いた。足を全て斬って下手に追い込まない方が良かったかもしれない。


「キィーーー!!!」


そして羽を羽ばたかせてこちらに風の刃を無数に放ってきた。これが全部俺の方へと向かってきていたとしたら厄介だったが、全方位に放っている。だから分散されたせいで俺のところに来るのは、1度の羽ばたきで多くても10程度だ。その程度なら簡単に斬ることができた。


「キィ………」


頑張って飛ぼうとしているが、欠けた羽では飛べていない。ゆっくりと着実に落ちてきている。

俺は風の刃が途切れたタイミングを見計らって、首を落として止めを刺すために飛び上がった。



「ゼロ兄様!謎の魔物が消えました!!」


ソフィのその声とほぼ同時に真上から危機高速感知が反応した。ソフィはよく何百メートルも先を魔力感知できるな…。そんなことよりも今すぐこの場から離れたいが、空中にいるので身動きが取れない。直感的に縮地の進化先である雷縮を使った。これは縮地と違い、空中でも移動することができた。急いで地上に戻って距離を取ろうとしたが、危機高速感知の反応からして、完全に避けるには時間が足りない。だから防御力を上げるために急いで雷電纏を使った。



「ミーーーン!!!!!」


そして真上に突如として現れた謎の魔物からの不可視な攻撃をエンペラーモスと一緒に受けた。



「ゼロ兄様!!」


吹き飛ばされたが、受身を取ってすぐに立つことができた。ちょうど謎の魔物と俺との直線上にエンペラーモスがいてくれたので、攻撃の威力を緩和できた。そのためか、危機高速感知の強い反応にしてはダメージが少ない。まあ、だからといってあの場から動かなかったらエンペラーモスと謎の魔物の下敷きになっていたのだが…。ちなみに俺の盾となってくれたエンペラーモスは地面に潰れかかっている。


「大丈夫ですか!?」


「ああ、問題ない」


俺の場所にいち早くソフィがやって来た。改めて謎の魔物を見てみると、見た目は黒いセミのようだ。だが、大きさは20mほどある。


「今の攻撃は?」


「衝撃波だと思われます」


さすがソフィだ。念の為に聞いただけなのに答えが返ってきた。


「キィーーー…!!」


「え?」


何か断末魔のような声が聞こえてきたと思ったらエンペラーモスがセミに喰われていた。あれ?セミにあんな獰猛な牙ってあったっけ?というかそもそもそんなちゃんとした口あった?


「……」


セミは巨大なエンペラーモスを5口ほどで全て食べ終えた。どうするのか様子を伺っていると、精霊樹の方を見ながら姿が透明になっていった。


「雷縮!」


「ゼロ兄様!待って!」


ソフィの俺を止める言葉を聞きながら、無視してセミの近くへ雷縮で向かった。今こいつの姿が見えなくなったらまずい。精霊樹の近くでは無いので見失ってしまう。俺は危機高速感知があるからいいが、エルフ達は一方的に攻撃され放題だ。


「雷電ダブルエンチャント」


急いで光エンチャントを雷電エンチャントに変えた。すると、セミは透明化を解除した。


「はっ…?」


そしてセミはエンペラーモスと全く同じの毒を放ってきた。それを全て防ぐと、今度は触覚からレーザーを放ってきた。その次は風の刃を無数に放ってきた。


「おい…!」


その後は何ともなかったかのように再び透明化しようとしていた。


「おい!てめぇ!待てっ!!」


こいつはあろうことか…俺が欲しがっていた…いや!現在進行形で欲しい略奪系スキルを持っていやがる!なんで俺はダメで、セミが取得できているんだよ!?俺はセミ以下だとでもいうのか!こいつは絶対にぶっ殺してやる!!そしてそのスキルを俺に献上しろ!!


「くそっ!」


しかし思っていたよりも透明化のスピードが早く、完全に消えてしまい、見失ってしまった。ため息を吐きながら、振り上げた剣を八つ当たりをするかのように勢いよく振り下ろした。


「ミッ…」


「ん?」


すると、目の前に透明化を解除したセミが現れた。ちなみに振り下ろした剣はセミには当たっていない。セミと俺は2人で固まって数秒見つめ合った。


「ミー…」


そしてセミは何事も無かったかのように再び透明化をし始めた。


「させるか!」


さっきと同じように剣を振ると透明化が解除された。どうやらこの透明化は魔法かどうかは分からないが、魔力を使ってやっているようだ。だから俺の魔法斬りが進化した魔力斬りで解除できるんだ!

そういえば、なぜセミは透明化をしてすぐに飛ばなかったのだろうか?そうすれば、こうして強制的に解除されることもなかった。そして落ちてきた時も、エンペラーモスを食べている時も、エンペラーモスの魔法を使った時も透明化を使っていなかった。どうやら透明化には弱点があるみたいだな…。




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