第187話 対立

「ミ!!」


「行かせるか!」


どう攻めるか考えていると、急にセミが飛んだ。急いで魔法を準備して放った。ちなみに放った魔法はお馴染みのサンダーバーストだ。だが、雷電魔法に変化したことによって今までよりも倍以上の威力になっていた。その分魔力は消費したが…。


「ミ……」


セミは魔法を食らって落ちてきた。しかし、体から煙が少し出ているだけで特にダメージが入った様子はない。これは魔法にびっくりして飛ばずに降りてきたという感じかな。もしかして魔防もエンペラーモスから受け継いでいるのか…?


「はっ!」


地上にいるうちにエンペラーモス同様に羽を斬り落として飛べなくしなくてはならない。魔法が効かないなら剣で飛べなくするしかない。俺は2本の剣でセミを斬りかかった。


「ミーーーン!!!!!」


「がはっ…」


しかしあの衝撃波を放たれてしまった。今度は盾となる魔物もいないので、直接食らってしまった。


「うっ!」


そして俺はそのまま吹っ飛んで精霊樹にぶつかって止まった。やべっ…精霊樹凹んだ。



「ちょっ!大丈夫!?」


「だ、大丈夫……」


エリーラに強がってそう言ったが、正直大丈夫だとは言えない。咄嗟に雷電纏のできる限り出力を高めた。そしてそれを剣にも纏わせて、剣を盾にして防いだ。それでもここまで内臓を揺さぶれるかのような衝撃があった。多分だが、さっきの衝撃波よりも強い気がする。ついでに腕の骨も折れてる気がする。でも、エリクサーが必要なほどの怪我でもない。HPポーションを飲んでおいた。骨が折れたくらいならこれでも治る。


「ゼロ兄様!」


ソフィが俺のところに慌ててやって来た。


「ソフィ、これからあのセミを倒す作戦を…」


「早く一緒に逃げましょう」


「は?」


あの衝撃波を何とか出来れば…と思ってソフィに作戦を聞こうとしたら思いもよらなかった返答がきてしまった。


「私達の相手はエンペラーモスです。それが殺されたので、私達の役目はもう終わりです」


「おい…」


「あれはエンペラーモスよりも確実に強いです。能力を奪ったので、完全にエンペラーモスの上位互換です。そんな相手を無理に私達が相手する必要は無いです」


「…あのセミには精霊魔法が効かない可能性があるんだぞ?」


エンペラーモスの精霊魔法無効の特性も奪っている可能性は高いだろう。


「だからなんですか?」


「…俺達が逃げてもエルフが勝てると思っているのか?」


俺には気付いていないが、俺達がいるせいで不利になる条件があったりすると信じたかった。エルフ達だけなら勝てると言ってほしかった。エルフ達が勝つために俺達が逃げるということであれと願った。






「勝てるかなんてそんなこと知りませんよ」


「ソフィ!!」


2本の剣を地面に放り捨ててソフィの肩を掴んだ。


「私は間違ったことは言っていません。命の危険がある魔物から逃げる…それは当たり前のことです。何も間違ったことは言っていませんよね?」


「確かにそれは間違ってない…のかもしれない!でも絶対に正解でもない!」


冒険者としてはその答えは間違っていないのかもしれない。だが、今この状況では間違っている。


「わ…私だってこの考えが普通じゃないことくらい分かってますよ!でも!お兄ちゃんが死んじゃうかもしれないくらいならエルフなんかがどうなろうと知ったことじゃない!」


「エルフなんか…だと?」


「そうですよ!お兄ちゃんの事を精霊王の器としか見ていないエルフなんかいくら死んでも…」



パンッ!



「…え?」


「俺が死ぬよりはエルフの方が…っていうのはまだ許せる。それは個人の考え方だから…。でもエルフなんかいくら死んでも…っていうのはソフィでもさすがに許せない」


俺はソフィの言葉を遮るようにビンタした。もちろんエンチャントや雷電纏を使っているのでかなり手加減はした。でもソフィの頬は赤くなっている。


「し、知らないでしょ?お兄ちゃんは精霊王と契約してるから助けられて、保護されて、鍛えてくれたんだよ?契約してなかったら…」


「そんなこと知ってるよ」


「え…?」


進化前から俺にはスキルの読心術と称号の以心伝心があるからそんなことくらい分かる。分かってしまう。


「ユグもジールも俺の一部だ。自分の能力を買われて面倒見てくれただけ。ただそれだけの事だ」


この世界では力を買われて育てられるなんてどこでもよくある事だ。俺もその一例というだけだ。


「で、でも…!」


「心の奥底にどんな思惑があって、死にかけていた俺を助けて、里に連れてきて鍛えて、魔族の襲撃からまた助けてくれたのかは分からない。でも、せめて最低限くらいは助けてくれたことに対する恩返しをするべきだとは思う。その恩返しの機会に我が身可愛さで逃げるなんてことはありえない」


「あ、ああ…」


ソフィは涙を瞳に溜めながらゆっくりと膝を着いて座り込んだ。


「エリーラ、エミリーさん、ティヤさん、ジュディーさん、俺1人じゃ無理そうだからセミ退治手伝ってくれない?」


「あんたが逃げろって言っても勝手に手伝うわよ」


「是非お手伝いさせてください!」


「ティヤに任せて」


「俺達で倒すぞ!」


そう言って4人は飛ぼうとし始めたセミへ向かって行った。セミは俺がソフィと話している間に歩いてはいたが、飛んだり攻撃したりはしてこなかった。最初の衝撃波の後もエンペラーモスを食べるだけで動かなかった。安全な場所に運んでから食べたり、掴んで空中で食べた方が安全なのにも関わらず。衝撃波の後は反動でもあるのだろうか?


「……ソフィ、出来れば俺はソフィとも一緒に戦いたい」


「………」


ソフィに声をかけたが、座りながら俯いた状態から全く変化はない。


「一緒に戦えないとしても安全な場所に避難しててほしい」


それを言うと俺も剣を拾ってから、4人がいるセミの方へ向かって行った。









「…お兄ちゃんに拒絶された…ならもう…………」



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