第183話 緊急事態 ソフィア視点3
「魔法だけ…?」
「あっ!確か精霊は水だったよね?なら水魔法だけで相手してあげる」
魔法だけだとしても、私が本気を出したら一瞬で模擬戦が終わってしまう。私は別にエリーラを煽りたいわけじゃない。ただ、超えることが出来ない力の差を教えてあげたいだけ。私を差し置いてお兄ちゃんの隣りに居たいと思わないほどに。
「それで負けても言い訳しないわよね?」
「もちろん」
これで私が負けたり、他の属性を使ったとなれば、エリーラのこと認めなければならない。もちろんそんなことにはならないけど。
「後悔しないでよ!」
そう言って水の刃を放ってきた。それに対して私は水の壁を作って防いだ。
「お返し」
私はエリーラが放ってきた魔法に似た物を10数発放った。それらは全て躱された。そこからはお互い魔法の打ち合いになった。
「くっそ…」
「あら?もうおつかれ?」
もうと言っても魔法の打ち合いを30分弱はやっている。エリーラの魔力がだいぶ減って辛そうだ。正直に言うと、この打ち合いで最低でも私はエリーラの消費魔力の5倍の魔力を使っている。同じ魔力量なら負けていた。水の魔法という一点だけに関してはエリーラの方が私より優れている。
「これで最後よ!」
そう言いながらエリーラは水の龍を作った。さすがにあれの対処は難しい。強引に魔力のゴリ押しの水魔法なら防げるかもしれないけど、私の魔法とぶつかった時に周りにも多少の影響が出る。それは近くで審判をしているお兄ちゃんにも。もちろんその程度の被害なら私のお兄ちゃんなら当たり前のように避けるだろう。でも、お兄ちゃんに被害が出る可能性が少しでもあることを私からしたくない。もちろん魔法以外のスキルでもこれを防げるのは何個もある。でもそれにしても水魔法以外を使ったということになる。
「はぁ…ウォーターボム」
私は通常の何倍もの魔力を込めて水の爆弾を何十と作った。これで少しづつあの水の龍を削ろう。それでダメそうなら……。
「行けっ!水ry」
「キュミィィィィィィィーーーー!!!!!!」
今まさにエリーラが水の龍を放とうとしたタイミングで大音量の甲高い何かの鳴き声が響いた。
「なんだっ!」
「失礼します!!」
上位エルフの3人も何が起きているのか分からないようだ。混乱している。そんな時にエルフが1人訓練場に入ってきた。そのエルフはとても慌てていた。しかも顔面蒼白で今にも倒れてしまいそうだった。
「エ、エンペラーモスが…出現しました…」
「鳴き声からして近い…。今すぐ討伐に向かおう。どこにいる?」
エンペラーモスというのはこの辺によくいる芋虫の魔物が蛾に成長した時の名前だ。お兄ちゃんが眠っている間にエルフの里で色々なことを調査していたので知っている。
「あ、あえっと…あの…」
「結界を破って里に入って来たら危険だ!早く言え!」
ダークエルフの方が歯をガチガチと震わせて上手く話せないエルフにキレている。上に立つ者としてはこういう時は落ち着かせた方がいいと思うが、まあ私には関係ないこと。
「せ、せせ、精霊樹に現れました…」
「なんだと!ありえない!」
エンペラーモスになる前に芋虫の魔物から蛹になる。その間は自分で動く事が出来ない。もちろんだから結界が張ってある里内に侵入することは不可能だ。
もし可能だとするなら、結界が破壊し、その間に羽化寸前の蛹を見つけて精霊樹にくっつけるしかない。つまり、ちょうど数週間前に絶好の機会があったわけだ。しかもその機会に上位エルフ達が揃って眠っていた。
「や、やられた……」
その事を察したのか、上位エルフの3人も顔面蒼白で膝をついた。そんな中、エリーラだけはお兄ちゃんの元へ走り出した。
「なんで今すぐあの3人は倒しに行かないの?」
しかし、そんなエリーラを遮るように立って質問した。私は色々と聞き回ってはいたが、全てを聞けた訳では無い。今すぐ倒しに行かない理由がわからない。これはお兄ちゃんも分からないようで右往左往している。
「いつもはエンペラーモスが出現しても里外だから精鋭で討伐することができるの」
「うん」
「でも、精霊樹の樹液を吸ったエンペラーモスには精霊魔法は効かない。しかも魔攻耐性が異常な程に高くなるのよ…」
「なるほどね」
いいことを聞いた。つまり、エルフは精霊降臨を使えない。接近戦がほかのエルフより得意でも、それは精霊降臨を元に戦術を組んでいるから。あのダークエルフも精霊降臨が使えなかったら、エンチャントすらしていないお兄ちゃんにも勝てないだろう。そして魔法も精霊魔法を活かす為の物であってそれ自体が強力な訳では無い。この様子だと普通の魔法では、エンペラーモスに致命傷を与えることは不可能のようだ。
エリーラに少し待っててもらうように話してから、私はエルフの族長の元へ向かった。
「提案がある」
そして膝をついている族長の耳の近くで小声でそう話した。
「提案…?」
「そのエンペラーモスは私とお兄ちゃんで殺す」
「えっ!」
族長はその手があったか!というような嬉しそうな表情をしながら顔を上げた。今すぐ殴りたくなった。お兄ちゃんにエンチャントがあることすらこいつは忘れていたようだ。というよりもこいつの頭の中ではそもそもお兄ちゃんを戦力として入れていなかったのか?
「ただし条件がある」
「条件?」
条件と聞いて驚いたような顔をした。無条件で助けてもらえるとでも思ったのだろうか?
「ゼロ兄様をドラゴン魔族から助けたこと、エルフの里で鍛えたこと、魔族が襲来した時のこと、それら全て帳消しにするなら私達であれを殺してやる」
「……それがなくてもゼロス様なら…」
「それが呑めないなら私とゼロ兄様は今すぐ転移でこの里から去る」
「なっ…!」
この状況でこいつはお兄ちゃんを利用しようとした。今すぐ転移でお兄ちゃんを逃がそうかと思った。同時に2人転移することは出来ないので、里の外で転移のインターバルが終わるのを待てばいい。幸い結界のせいでエンペラーモスは里内に閉じ込められている。こんなことなら横の側近に提案した方が早かった。
「それをしたらお前がゼロス様に恨まれ…」
「10、9、8、7、6、5」
私はゼロ兄様を助けてくれたという結果だけには感謝している。だからこの提案をしているのだ。別に私とお兄ちゃんがエンペラーモスを無視しても何ら不自由はない。ただ、エルフが滅ぶかもしれないだけだ。だから0までカウントして同じようなことを言い続けるなら助けない。あっ、エリーラだけは連れて行こう。水の魔法という一点だけだとしても私より優れているのだから役立つ時はきっとあるだろう。
「4、3、2、」
「…条件を呑む」
「わかった」
どうせそれしか結論は無いのだから早く決めて欲しかった。私はエリーラを連れてお兄ちゃんの元へ向かった。作戦を伝えるために…。
あっ、言ってはいないが、私はエルフの里付近でエンペラーモスは何度も見ているし、戦っている。私一人では相性が悪かったので致命傷を与える前に毎回飛んで逃げられた。今回は結界で逃げられる心配はないし、お兄ちゃんとも一緒だ。ならあんなデカいだけの蛾ごときに負けはしない。
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