第182話 ソフィア視点2+別視点

「逃げずにちゃんと来たようね」


「それはこっちのセリフですよ?」


お兄ちゃんが目覚めてから1週間が経過した。つまり、私とエリーラとの模擬戦の日だ。今日までお兄ちゃんには絶対安静にしてもらっていた。私の目から見ても、目覚めてから3日くらいでもう完全に回復していた。でも万が一何かあったらいけないので、今日までは城の中で大人しくしてもらっていた。さすがにそろそろ動きたそうで、うずうずしていた。だからお兄ちゃんには今日の模擬戦の審判をしてもらっている。

ちなみにあの上位エルフの3人はお兄ちゃんへの態度を変えてないようだ。お兄ちゃんの反応から見て、今まで通り接しているようなのはわかった。どんな結論が出たかは知らないが、結局本当のことは言う気は無いようだ。


「2人とも準備はいい?」


「うん」


「いつでも大丈夫ですよ」


お兄ちゃんの声で私達2人はお互いに構えだした。この場には私達3人以外に、あの上位エルフの3人もいる。


「では初め!」


「精霊降臨!」


「時エンチャント」


エリーラが後ろに下がって距離を取りながら精霊降臨をした。魔法が得意な魔法使い同士の戦いは距離を取って先に魔法の準備できた方に軍配が上がることが多い。私はあえて時魔法をエンチャントして1m強のメイスを手に持ち、エリーラへ真っ直ぐ向かって行った。

エリーラは慌てて精霊魔法を放ってきたが、簡単に避けた。時魔法をエンチャントすると、自分の時間の加速度を好きにできる。とは言っても最大に加速してもお兄ちゃんの雷エンチャント程スピードアップはしていない。ただ、早くなったり遅くなったりと不規則な動きができる。他者から見たら私は気持ち悪い動き方をしているのだろう。


「がはっ……!」


そんな不規則な動きに全くなれないエリーラにメイスを当てるのは難しくなかった。もちろんお兄ちゃん相手ならこんな戦法は意味が無い。だって動き全く慣れなくても反射神経だけで全部躱されちゃうし。



「はぁ…はぁ…」


「まだ1発当てただけですよ?それでその程度ですか?」


エリーラは私の攻撃で数メートル後ろに吹っ飛んだ。そして腹を押えて疼くった。私から物理攻撃が来るとは思わず、防御を甘くしてたのだろう。


「この程度の強さで私のゼロ兄様の護衛をしてたんですね」


「私の……」


もちろんこの会話はお兄ちゃんには絶対に聞かれない声量で話している。エリーラは「私のゼロ兄様」という言葉に反応した。この模擬戦の結果がどうであれエリーラとはエルフの中で一番仲良くできると思っていたけど、もしかしたらそうじゃないみたい。


「なんでわざわざ私と模擬戦をしたの?魔物やあのクズ3人だったりと他にも手はあったでしょ?」


「あなたはこの辺にいる程度の魔物を倒したくらいじゃ納得しないわよね?」


「もちろん」


この辺で見かけるのは強くてもAランクだ。そのレベルをいくら倒しても評価はできない。


「それと、あの3人と模擬戦をして勝っても八百長だとか言われそうじゃない。ならあなたと直接戦った方が早いわよね?」


「そうね」


まあ、実際に八百長をして勝ってもあのエルフの3人が私の思っていた以上に雑魚だったって思うだけなんだけどね。


「それともう1つの理由は…」


腹の痛みが治まったのか、ゆっくりと立ち上がりながらそう言ってきた。そしてレイピアを抜いて私に向かってきた。


「私がお前のことを個人的にムカついたから」


「奇遇ね…私も」


レイピアの突きを掴んで止めた私にエリーラはそう言ってきた。レイピアを掴んでいる手をパッと離すと、魔法使い同士の接近戦が始まった。とはいってもエリーラは精霊魔法をじゃんじゃん使ってくるけど。


「まさかお前が接近戦をするとは思わなかったわ」


「そう?」


1人で魔物と戦っていると、どうしても接近戦をしなければならない場面がある。だから勝手に接近戦も鍛えられた。


「お前は接近戦も強い…。だが、普通に強いだけ」


その言葉と同時に私の頬をレイピアが掠った。顔に傷が着いたらお兄ちゃんに悪いので、すぐに無詠唱で治して一旦距離を取った。


「お前の兄の常識外れの反射神経ような特別なものが何もない。至って普通」


「それは比べる相手が悪いですよ?私のゼロ兄様は接近戦では最強です。そしてこれから遠距離戦でも最強になります」


また「私の」という言葉にピクっと反応した。さすがに時エンチャントの不規則な動きには慣れてきた様なのでエンチャントを変えようかな。あともう少しだし。


「空間エンチャント」


「くっ…」


空間魔法のエンチャントはステータスはほぼ上がらない。その代わりに3mくらい離れたところへなら好きに転移できる。魔力はごっそり持ってかれるけど。私はわざと攻撃を受け止めやすいように少しゆっくり攻撃を仕掛けたのでエリーラはレイピアでガードした。


「あと3」


私はエリーラにメイスを振りながらカウントダウンを始めた。


「2」


「1」


「…0」


0のカウントダウンと共にメイスを受け止めたレイピアが砕け去った。私のメイスをその細い剣で何度も受け止めてたらそうなる。お兄ちゃんのような反射神経は持ってないので雑に受け止めてたしね。そしてレイピアが壊れた隙に腹をメイスで殴った。吹っ飛ばないようにメイスを振り切らなかった。すると、頭が下がってきたので、顎をメイスで殴った。体が少し浮いて腹が無防備になったので、今度は腹にメイスを振り抜いた。



「がはっ…」


エリーラは膝を着いて血を吐いている。そんなエリーラの元まで私は悠々と歩いて向かった。そしてエリーラの元へ着くと、私の方を向けさせるようにメイスで顎をクイッと上げた。


「接近戦は私の勝ちね」


そして押すように数メートル優しく下がらした。


「オーバーヒール」


「え…?」


私はエリーラの傷を全て綺麗に治した。その事に困惑気味な表情をしている。模擬戦を終えようとしていたお兄ちゃんもきょとん?と可愛い顔をしている。




「じゃあ今度は魔法だけで相手してあげる」












◆◇◆◇◆◇◆


別視点



「イム」


「な〜に?リュウちゃん」


「何であんなん置いてったんだ?」


「だって〜進化後の僕のダーリンの力…見てみたいでしょ?」


「それは見てみたいな…」


「それに早くレベルを上げて進化してもらわないと困るしねっ!」


「そうだな」


「もしかしたらエルフ滅ぶけど特に問題ないよね?」


「ああ。問題ない」

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