第181話 ソフィア視点1
「なんでゼロ兄様の護衛をあのエリーラというエルフに任せたんですか?」
今は私が起きてから3日後だ。気絶していたのは3時間程だったが、起きた時にはもう魔族の姿はなかった。そして傍でお兄ちゃんが倒れていた。私が起きたタイミングで上位エルフの3人はまだ起きていなかった。
この3日間で上位エルフの3人は里を纏めるために奮闘していた。今はそれが少し落ち着いたので話をしようと思った。
「なぜゼロ兄様の護衛をあなた達3人がしなかったのですか?少なくともあなた達ならドラゴン魔族相手に腕を切り落とされて足を引っ張ることは無かったですよね?」
私はこの3人のエルフが気に食わない。上辺は誰よりもお兄ちゃんのことを…いや、精霊王と契約している人を大事にしている。しかし、行動がそれに伴っていない。
「それは…」
「あっ、聞いといて悪いと思いますが、言わなくていいですよね?理由はゼロ兄様と共に、エルフの同世代でも群を抜いて強く、水の最上位精霊と契約していて、あと少しで進化できそうなエリーラを安全な場所に避難させたかったからですよね?」
「………」
魔族襲来日の作戦や行動などはもう聞いている。それとエリーラのステータスを見たが、この3人を除けば里のエルフの誰よりも高かった。もしかすると、この3人と同じ歳になったら、今のこの3人よりも強くなるかもしれない。だからエリーラは適当な理由をつけられて安全な場所に避難させようとしたのだろう。まあドラゴン魔族によって無意味、いや逆効果になったけど。
「あと、2人は転移させられたそうですね?それにも色々と文句を言いたいですが、一旦それはいいとしましょう。それで相手の魔族が弱いとわかった時点でその魔族を無視してゼロ兄様の元へ行くことはできましたよね?」
ティヤとジュディーが戦った魔族には手傷を全く負わずに勝てたそうだ。聞いた通りなら恐らく、ドラゴン魔族よりも弱いだろう。
「例え魔族が着いてきたとしてもそいつを相手にしながらゼロ兄様の援護くらいはできましたよね?それとも魔族を無視したことでエルフに被害が出ることを避けたかったのですか?」
こいつらはお兄ちゃんのことよりもエルフのことを優先した。エルフの長とその側近としては正しい判断だ。でもそんな判断をするくらいなら、お兄ちゃんよりエルフを優先するくらいなら上辺だけのお兄ちゃんへの敬いをやめろ。気持ち悪い…。
「もし、ティヤ達が魔族を無視してゼロス様の元へ行ったらエルフ達にも多くの死人が出た。その責任を感じるのは誰?ゼロス様だよ」
「結果として私が来たからゼロ兄様がドラゴン魔族に殺される前に助けられた。でも、もしゼロ兄様が死んでしまってもお前は同じことを言う?責任を感じて精神的にダメージを負うよりも死んでよかったって」
「それは…」
「ならゼロ兄様の元へ行くよりもエリーラの治療を優先したのはなぜ?」
こいつらは腕を切り落とされたエリーラを見て真っ先に治療していた。普通なら応急処置だけしてゼロ兄様の元へまず行くべきだ。だが、こいつらはエリーラを完治させることを優先した。ついでに言うと結界を割ろうともせずエミリーのサポートに向かった。
「それを言うならあんたの結界のせいで俺達はゼロス様の元へ行けなかった」
「結界はお前たちのような味方じゃない者をゼロ兄様の元へ近付けたくなくて張った」
「ティヤ達は味方…」
「知ってた?あの結界は精霊魔法ならどんな低威力でも壊せるように張ったんだよ?まあ…知らないよね?ゼロ兄様の元へ結界を壊してまで行こうとすら思ってなかったんだから」
「それは…」
「お前らはもしエミリーが人質に取られたとして、ゼロ兄様を殺せばエミリーは助ける…と言われたら誰を助ける?」
「………ゼr」
「そこですぐにゼロ兄様と答えられない時点で私の、私達の味方じゃない。私はゼロ兄様以外の全てが犠牲になってでもゼロ兄様を助けると即答する」
さらに続けて私が話そうとしたのをエミリーが手を挙げて止めた。
「確かに彼女らはゼロス様よりもエルフ達大勢の命を優先した。だが、私はその判断を間違いとは思わない。民があっての王だ。民がいなければ王は産まれない」
「なら結界を放置してお前を助けに行ったのをどう説明する?まだ精霊王を使える見込みがないゼロ兄様よりもお前を優先したんだよ。お前らは精霊王と契約しているということにしか興味が無い。もしゼロ兄様が契約を破棄したらお前らは手のひらを返したようにゼロ兄様に対する敬意も関心も無くなる」
「そんな事はない!私は精霊王の契約者であるゼロス様のことも敬愛している!」
「お前が言っているのは精霊王を使いこなす契約者だろ?」
「…っ!」
「聞いたよ?ゼロ兄様のことを鍛えてくれたのね。それの側近の2人ともありがとう。それでお前はその時何をしていた?」
「里の業m…」
「業務をしてたなんて言わせないわよ?この3日間で色々見てきたけど、今ならまだしも、前にそんな毎日欠かさずやらなければいけないことは無いよね?もしあったとしても側近に任せることもできたよね?エルフの中ではお前が一番強いんでしょ?ならなんでお前が鍛えなかった?」
「それは…」
「私の予想だと精霊王を使えるようになったら毎日付きっきりで教えようとしてたんじゃない?でも何ヶ月経っても使えない。だからお前はゼロ兄様への興味をだんだんと無くしていった」
「……もしゼロス様が精霊王との契約を破棄しても私達は手のひら返したりはしない」
「再び契約して使いこなすようになったら困るもんね?」
「………」
3人は言い返せなくなった。こいつらはゼロ兄様のことを見ていない。精霊王の契約者しか見ていない。最悪別にそこはどうでもいい。精霊王もゼロ兄様の力の一部だ。力に崇拝するのは、この弱肉強食の世界ならある事だ。私はそこに怒っているんじゃない。
「なんでお前らはそれをゼロ兄様に言っていない?精霊王と契約しているから守っていると。精霊王さえ居なければゼロ兄様に興味はないとなぜ言わない?なんでゼロ兄様自身を敬うように行動している?精霊王との契約だけが大事なのに。なんで…お兄ちゃんを騙している!」
「それは…」
「あ、里のエルフから聞いたわよ?お前は雷の最上位精霊が嫌いそうね?精霊王を使えない。お前が嫌いな雷の最上位精霊しか使わない、使えないゼロ兄様のことをお前はどう思っているんでしょうね?」
「………」
はぁ…完全に黙っちゃった。これらのことをティヤ、ジュディーは半分無自覚、エミリーは完全に無自覚だったように見えた。追求して精霊王か、お兄ちゃんかせめてどっちかを選べたらマシだった。うだうだしていて馬鹿らしい。もうこいつら見切りをつけていいだろう。
「ちょっと待って」
部屋の扉がバンっと勢いよく開いた。そしてエリーラが入ってきた。もちろん最初から部屋の前で聞いていたのは知っていた。いや、聞かせていたという方が近いかな。
「そもそもの話しは私が弱いのにも関わらずあいつの護衛になっているのが気に食わないって話だったわよね?」
「そうね」
あの3人よりはこのエルフの方がメンタルが強いみたい。それか精霊王を抜きにお兄ちゃん個人を見ていたのかも。
「なら私がお前よりも強いってなったら話の根底は覆る。違う?」
「ふふ…そうね」
まさか私と戦うと言い出すとは思わなかった。強さを魔物とかで見せつけると思っていた。でも…それはさすがに調子に乗り過ぎだ。
「模擬戦はゼロ兄様が目覚めてから1週間でいいかしら?」
「それで構わないわ」
「実力差を見せつけてあげる」
私はこのセリフを黙りこくる3人を見ながら言って部屋から出た。そして私はお兄ちゃんの寝ている部屋へ向かった。
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