第174話 3対1
◆◇◆◇◆◇◆
エミリー視点
「3対1なんて卑怯だぞー!!」
「魔族が何を言っている…」
今はティヤとジュディーが合流して3対1になっている。本当なら2人にはゼロス様のところに行ってほしいのだが、謎の結界があっていけないそうだ。それを時間をかけて突破するよりも、3人でこの魔族を殺した方が解決が早いと判断したようだ。幸いにもゼロス様はドラゴンの魔族を倒されたようだ。ゼロス様の元に敵がいなくなったのならここに集中しても良いと私も判断した。正直に言うと、私1人では大変だった。どんな攻撃をしてもすぐに再生されてしまう。そして無駄に防御力も高い。だからか攻撃を避けもしない。ただ、再生している間は激しく動かない。しかし、再生していない時はゼロス様の元へ行こうとする。だからほぼ常に高火力の攻撃し続けなければならない。MPポーションも何十本も消費した。この魔族の攻撃は腕や足を伸ばしての単純な殴る蹴るだけだったのでそれは特に問題なかった。避けるのも簡単だった。
そんな魔族が2人が来る少し前から急に攻撃を避けるようになったのだ。おそらく魔力が残り少なくなったせいで、再生がままならなくなったのだろう。今がチャンスとばかりに攻めているのだが、殺すことは出来ていない。
「僕はもう無理!リュウちゃ〜ん!助けてー!」
急に魔族が訓練所の壁に向かって叫んだ。背中ががら空きだ。罠かと一瞬思ったが、そうでも無さそうだ。私たち3人はここで仕留めるとばかりに同時に精霊魔法を放った。しかし、訓練所の壁が壊されて、入ってきた誰かにその攻撃は防がれた。
「リュウちゃ〜ん…怖かったよ〜」
「なんでそんなに魔力がないんだよ」
砂煙が立ち込めるなら2人の会話が聞こえてくる。砂煙が晴れて姿が見えたら再び精霊魔法を放とうと私たち3人はアイコンタクトをして精霊魔法の準備を始めた。
「さすがに私達が魔族だからって3対1は卑怯だと思うよ?」
「っ!!」
砂煙が晴れたのにも関わらず、私たち3人は攻撃出来なかった。なぜなら、新しく現れた何者かに睨まれただけで動けなくなってしまったからだ。
「うっ…」
そして急に首に何やら強い衝撃が走った。薄れゆく意識の中で既に倒れている2人と、後ろに立っている者の姿が少し見えた。
「ゼロスさ…ま……」
そして私はそのまま気を失ってしまった。
◇◆◇◆◇◆◇
ゼロス視点
「ゼロ兄様は何の種族に進化したのですか?」
「…さあ?俺にもわからん…」
「?」
なんて事を話しながらソフィと2人で静まり返った訓練所へ向かって走っている。俺が進化して少し経ったくらいから音が急にしなくなった。俺が進化したことで魔族がもう用はないと帰ったのかもしれない。とりあえず状況を確認するためにも訓練所に行くしかない。
「ソフィ!」
「え…?」
危機感知が反応したので急いでソフィをお姫様抱っこして後ろに飛んだ。あれ?前にも似たようなことがあった気がする。そして今回は前よりも時間が無かったので、肩に担ごうとしたのに、気が付いたらお姫様抱っこになっていた。飛んだタイミングでガシャン!とドカン!という2つの音と共に廊下の壁が破壊された。あと、今回は後ろに飛んですぐにソフィを下ろした。なぜならまだ危機感知が続いているからだ。そして俺はユグとジールを再びエンチャントし、雷電鎧も発動した。危機感知の時からわかっていたが、進化を選択してもスキルは問題なく使えるようでよかった。
「そうか…危機感知は持ってるのか」
「っ!」
「っ!」
壁が破壊されたことによって立ち込めた砂煙の中から、何者かが歩いて現れた。その何者かに睨まれた瞬間に体が動かなくなってしまった。俯瞰の目で見ると、ソフィも動けなくなっているようだ。
「ほら!有望そうな子でしょ?」
「私にはそうは見えんな」
「うっそ〜!」
その何者かの後ろからイムが歩いてきたので、この新手は魔族なのだろう。そして未だに危機感知は今までにないほど激しく反応している。
「っふぐ……」
「なにっ!?」
一瞬だけ体が動いたので、危機感知が激しく反応しているうなじを剣で守った。高速反射がなかったら何も分からないまま気絶しただろう。しかし、剣の防御だけでは勢いが止められず、俺は地面に顔面から叩きつけられた。何とか立ち上がって倒れているソフィを抱えて新手の魔族から距離を取った。
「ねっ!凄いでしょ!」
「まだ進化を一度もしていなくてこれに反応できるのか…。ふふっ…さっきの発言は撤回しよう」
俺はソフィを優しく置いて、庇うように魔族たちの方へ数歩前に出て剣を構えた。さっき反射的に動いたせいで身体中に鈍い痛みがあるが、そんなこと言ってる場合じゃない。
「…こんなやつがいるなら最初から私も出向くべきだった…」
「そうだよ!僕に魔族3人しか使っちゃダメとか、幹部は出向くの禁止とか、リュウちゃんは上から見るだけとか言うせいでもう進化先を選択しちゃったんだよ!自分の目で確かめてもないのに勝手に決めつけるからこうなったんだよ!」
「その件は私が悪かった。謝罪しよう」
2人は無警戒そうに話しているが、危機感知は相変わらず反応している。下手に動くとその時点で殺されそうだ。だから動くに動けない。
「それで持ち帰るか?」
「もう進化しちゃったし、今日は負けってことで持ち帰らなくていいよ。それに今連れ帰っても魔族じゃないからってみんなにいじめられるだけでしょ?それに魔族に進化しても精霊との契約を残す方法も本格的に探さなくちゃいけないし」
「なら個人的に私が持ち帰ろうか?」
「ダメだよ!この子は僕のなの!」
「冗談だ。きっとな」
「もう!」
『ビゴ〜ン!』
『【称号】魔王に目をつけられた者 を獲得しました』
「っ!?」
何かこのまま見逃してくれる流れに安心してたら、なんかヤバめな称号が手に入ってしまった!それにアナウンスの音!お前どうした!そんなにダメな称号か!いや!名前的に絶対ダメだよな!そしてこの2人のどっちが魔王なんだ!やっぱり新手の方なのか?
「だが、これでただ引いたら私が負けたみたいになるから気絶はさせるがいいか?」
「絶対殺しちゃダメだよ?」
「一応気を付ける」
そして新手の魔族がこちらにゆっくり向かってきた。勝ち目が無さそうなので、気絶だけで済むなら素直に気絶させられてもいいだろう。しかし、危機感知の反応的に絶対に気絶程度で済む訳がない。気を付けるに一応って付けてるし…。どうにか生き残る方法を探さなければならないな…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます