第175話 不可能

「お前、名前は?」


「ゼロス…ゼロス・アドルフォ」


「私はリュウだ。ゼロス、期待しているぞ」


「え…?」


ゆっくり歩きながら名前を聞かれたので素直に答えた。答えなかったから予定を変更して殺すと言われても拒否できない立場なので、何か不利益があったとしても教えるしかない。そしてゆっくり歩いていたリュウは急に消えた。


「っぶな!」


そして消えたリュウは俺の目の前に現れた。殴ってきたのを何とか2本の剣で防ぐことができた。わざと俺の前に止まってから攻撃したな…。防ぎはしたが、ソフィの真上を通り過ぎて吹き飛ばされてしまった。受け流したのに腕が痺れて剣を今にも落としそうだ。ガード無しなら普通に死んでただろう。


「ほう…今の速度でも受け流すことができるか」


「……」


吹っ飛ばされた後に体勢を整えた時に、真後ろから声がした。全身に鳥肌がたっている。本能が今すぐに逃げろと言ってくる。


「がっ…」


「油断すると死ぬぞ?」


そして後ろから脇を蹴られた。俯瞰の目で見ていたので、一応剣でガードすることはできた。しかし、受け流すことはできず、また吹き飛ばされて今度は壁にぶつかった。その壁を破壊して、どこかの部屋の中まで転がった。


「ぐぐっ…」


脇腹付近の骨が何本か折れたのか、すぐに立ち上がれない。部屋はどこかの客室のようだ。ここで何か起死回生できる武器とかがあればよかったが、そこまでご都合主義にはいかないようだ。


「呑気に寝ている場合か?妹を忘れたのか?」


「…え?」


下を向いていた顔をリュウの方へ向けると、ソフィの方に腕を伸ばして、白い炎の球を放とうとしているのが見えた。俺は急いでソフィとリュウの間に入った。本当ならソフィを抱えて攻撃を避けたかったが、そこまで行く時間は与えてくれなさそうだ。


「ほらっ、これをどうする?」


俺が防ぎに来るタイミングを待っていたかのようにその炎の球を放った。俺は魔法斬りでその炎の球を斬り消した。


「まさか…私の魔法を斬るとは思わなかったぞ」


「はぁ…はぁ…」


俺は膝を着きながらリュウを睨んでいた。怪我と魔力不足はエリクサーを飲めば解消される。しかし、その程度は焼石に水だ。俺が倒れるのが少し先になるだけだ。


「本格的にゼロスが欲しくなってきた…」


「ダメだよ!この子は僕の伴侶なんだから!」


『ビゴ〜ン!』

『魔王の伴侶(仮)』


またいらない称号を獲得してしまった。称号獲得と会話の流れから判断して、やはりリュウが魔王なのか?でも、イムは自分で魔族の長だと言っていた。魔王はどっちなのだろうか…。


「2人の物ではだめなのか?」


「もう既に僕を含めて2人の物だから…」


「あと1人は誰だ?」


「そこに寝てる妹だよ」


「その妹は確かに攻撃を防ぐことはできなかったが、私の動きを目で追うことは出来ていたな。妹もなかなか見込みがあるな。だが、ゼロスと比べたら目移りするがな。妹は人間から無理やり魔族にしてまで欲しいとは思わないくらいのレベルだな」


「まあ、それは比べる相手が悪いよ」


「そうだな。ゼロスの反射速度は唯一無二だからな。幹部や私達でもここまで反射速度が速いやつはまずいないからな」


そう言って2人が笑っている。妹のソフィよりも上だと言われて嬉しいが、素直に喜んでいいか分からない。


「だが、そこの妹を殺せばお前だけのものになるのではないか?」


それを聞いて俺はリュウへの警戒を強めた。そしていつでもエリクサーをマジックリングから出せるように準備した。


「それは殺した程度じゃ死なないの。…執着が強過ぎる」


「なるほどな…」


一瞬、イムがソフィのことを化け物を見るような目をしていたのが気になったが、ソフィが狙われないようで安心した。


「それはともかく、ゼロスは惜しいな…」


「がっ…」


再び後ろに回り込んでうなじを攻撃されそうになった。今度はさっきよりもスピードが早く、少し背中の方にポイントをズラすことで精一杯だった。ガードする暇なんてなかった。


「やはり反射ができてもステータスに大差があったら防御も回避も間に合わないのだな…。逆に言えばステータスがほぼ同じなら誰の攻撃だとしても、当たらないということにもなるのだがな…」


背骨が折れたのか、なかなか立ち上がれない。今の無防備なところに下手に攻撃されたら死んでしまう。動けるようにするために、エリクサーを取り出そうとした。しかし、その瞬間に今度こそ首に強い衝撃が走った。そして俺はそのまま気を失った。







「本当に持ち帰らなくていいのか?」


「うん!僕達と一緒にいるより、強くなろうって頑張ってた方がより強くなりそうだしね」


「まあ、時間は沢山あるからな」


「怠けてたらちょっかい出しに行けばいいしねっ!あっ!そういえばこの子は称号をセットしないようにできるみたいだよ!」


「相変わらず普通ではないのだな。なら称号をロックして外させないようにしないといけないな」


「そうだよね!せっかくの僕達からの贈り物だから使って欲しいもんね」


「ああ。ではその呪いをかけてから帰るぞ」


「はーい」


もちろん意識を失った後にイムとリュウでこんな会話があったことを俺は知る由もない……。




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