第165話 2人なら
ごくっごくっ
俺は精霊魔法を放つと、MPポーションを飲みながら雷の中を移動してエリーラの元へと向かった。雷吸収を使っているので、魔力はほぼ満タンになった。
「死ぬかと思ったわ」
雷が消える前にエリーラの元に着くと、エリーラは水の中から声をかけてきた。エリーラはわざと精霊降臨で、魔力を無駄にして体から水を出している。その体を覆う水を電気を流さない純水にしているので、俺の雷は食らっていない。
「ガアアァァ……」
「ピンピンしてるわね」
「まあそうだろうな…」
魔族は水の中で痺れてはいそうだが、特に致命傷になってはいないようだ。まあ…正直これは想定していた。正直魔攻は前に戦った時の方が高かった。精霊魔法が上達したとはいえ、総合的に考えて魔法の威力は前の時より1.5倍から2倍高い程度だろう。その程度でこの魔族に致命傷を与えられるわけない。
「このまま水死してくれないかしら?」
「そうだな」
これは2人とも無理だとわかって言っている。魔族なら水の中でも1時間くらいは余裕で生きていそうだ。
「それであんたはあれをやりたいからこうやって時間稼ぎをしたのね?」
「よく分かったね」
そう。さっきの俺の魔法は時間稼ぎのためだけに使ったのだ。もちろんしっかりダメージを受けてくれることも期待していたが…。
「でもあれは1回も成功してないから賭けになるけど…」
俺がやりたいことが成功したら魔族に致命傷を与えられるかもしれない。しかし、それはティヤさんやジュディーさん相手に1回も成功したことがない。
「なら今回が初めての成功ってことね」
「ああ!そうだな」
今からやることは正直俺はそこまで難しいことではない。ただ、エリーラがしなければならないことはとてつもなく大変なことだ。息を合わせなければ絶対に成功しない。それなのにエリーラが俺よりも遥かに強気なのが嬉しいし、頼もしい。
「準備するから時間稼ぎよろしく」
「ああ…」
そして俺が歩き出すとほぼ同時に、魔族が水の中から出始めた。
「雷ダブルエンチャント…雷電鎧」
今回はさっきと違ってエリーラからの援護は受けられない。しかもエリーラが集中できるようにするために、魔族がエリーラに意識を向けさせないようにしなければならない。難易度はさっきよりも上がってるのに何だかできるような気がする。
「はぁっ!」
「ガア!」
今度は魔族の拳が届く攻撃可能範囲で戦った。少しでも距離をとると、炎を放ってくるかもしれないからだ。
「ソウダ!コレダ!」
「ぐふっ…」
しかし、気合いだけでどうにかできる訳もなく攻撃を腹に食らってしまった。
「そ、その程度か?」
「ガハハ!」
しかし、今回はもう攻撃は当たるつもりだ。避け続けたら、俺を後回しにしてエリーラに意識が向く可能性があるからだ。ただ、攻撃を食らうと想定していれば、雷電鎧をその部分に集中すればダメージは抑えられる。吐きそうなほど痛いけどこれなら少しの時間稼ぎくらいはできる。本当ならさっきのように安全に時間稼ぎをしたいのだが、同じ手は通じないだろう。
「ぐはっ……」
「コンナモンカ!」
しかし、何十と攻撃をくらっているとさすがにきつい。もう骨も何本が折れているだろう。そんな状態でも俺の心が折れることは無かった。なぜなら俺は1人で戦っている訳では無いから。
「…おまたせ。準備できたわ」
そんな時、エリーラから声がかかった。俯瞰の目でエリーラを見ると、顔からは疲労が見て取れる。そしてエリーラの周りには、空のMPポーションが10本近く転がっている。
「アッ!マテ!」
エリーラの声がかかった瞬間に俺は後ろに飛んだ。そしてマジックリングからMPポーションを3本取り出した。急な行動に魔族が一瞬止まったが、すぐに俺を追った。しかし、魔族が俺のところに来ることは無かった。
「ガァァァ!!!」
ドカンっ!という大きな音と共に廊下の壁を突き破って、巨大な水でできた龍が魔族に噛み付いた。それを見ると、すぐに俺はダブルエンチャントを解除して、MPポーションを飲んで精霊魔法の準備を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます