第166話 複合魔法

「グフッ」


エリーラの精霊魔法は魔族にダメージを与えている。水の龍が噛み付いた場所からは血が出ているのが見える。魔法から逃れようと暴れる魔族を水の龍は巻き付いた。


「早く!」


「……」


エリーらの声が聞こえてくるが返事はしない。いや、するほど余裕はない。俺も魔法のイメージで忙しい。そして40秒ほどで俺の精霊魔法の準備が出来た。俺の周りには3本の空のMPポーションが転がっている。


「エリーラいくぞ!」


俺が精霊魔法で作りだしたのは雷の龍だ。雑で作った部分があるので、エリーラの水の龍程精密ではない。これで魔族に噛み付いてもダメージはないだろう。でもそれでいい。その言葉とほぼ同時に、俺の雷の龍は、エリーラの水の龍に噛み付いた。そして俺の龍は少しずつエリーラの龍に溶け込んでいった。


「「雷水龍!」」


「グガァァァァァ!!!」


そして完全に俺の龍がエリーラの龍に溶け込んだ時に魔族の叫び声が廊下全体に響いた。さらにそれと同時に『ピコーン!』と脳内でなったけどそんなことは無視する。魔族は暴れて両腕ごと胴体を噛んでいる龍を離そうとしている。しかし、龍は魔族を離さない。魔族の胴体を噛みちぎるつもりだ。


「ぐっ…」


エリーラの苦しそうな声が聞こえる。そりゃそうだ。1人でも複合魔法というのはとても大変だ。それを他人とやろうとしているのだ。しかも本来合わさることがない精霊魔法でだ。そしてこの魔法の制御はほとんどエリーラがやっている。俺がやっていることは雷を龍全体に広げるくらいだ。しかし、エリーラは、龍の動きの操作をしている。何より、俺の雷が好き勝手に龍の中で動き回っていることで龍が破裂してしまうことを無理やり押さえ込んでいるのだ。さっきの水の玉の時は雷が廊下まで漏れたが、今回はさっきよりの魔力を込めているのに、雷が龍の中から出てこない。つまりエリーラが俺の雷を全て龍の中に閉じ込めているだ。



「ガァァ…!」


もう魔族の両腕が半分ちぎれかかっている。そして魔族は俺の雷で痺れているので大きく動けない。抵抗も少なくなってきた。



「ガハッ!」


そんな中、魔族は一瞬笑った気がした。ドラゴン顔なので、はっきり分からないが何か嫌な予感がする。しかし今の魔族に何ができる…。


「ガフ…」


魔族は何とか体を噛みちぎられないようにと込めていた腕の力を抜いた。するとすぐに魔族の腕2本がちぎれた。しかし、そのせいで龍の牙が一瞬魔族から離れた。だが、依然として龍は魔族に巻き付いている。だから動くことは出来ないはずだ。


「ガア!」


「ぁっ……」


「エリーラ!」


魔族は叫んだ時から開けっ放しだった口から炎のレーザーを放った。そして動く範囲で小さく首を振った。そのレーザーは龍を貫通してエリーラの左腕を切り落とした。その瞬間に水の龍はただの水へと変わってしまった。


「っ!!」


まだ魔族のレーザーは出ている。これ以上エリーラに傷を負わせないために、水の龍が解除されたことで再び出てきた雷を魔族の顎の下から口を閉ざさせるようにぶつけた。


「エリーラ!」


俯瞰の目で見ると、エリーラはレーザーで脇腹も少し切られている。痛みと複合魔法の酷使の疲労で気絶している。レーザーによって綺麗に切れているので、今すぐ腕をくっつけてエリクサーをかければ元通りになる。俺はエミリーさんからエリクサーを3本強引に渡されたからエリーラを助けられる。急いでエリーラの元へ行こうとしたが、それは叶わなかった。




「良かった…まだちゃんと生きてた」


「な、なんで…お前が……こ、ここに……」


エリーラのすぐ側にあのイムという魔族が立っていた。


「なんでって?そんな分かりきってる事わざわざ聞かなくて良くない?」


「ぇ……」


まさかエミリーさんがもう負けたってこと?負けただけならまだいい。まさか殺したりなんかは…。


「これ邪魔だね」


「エリーラ!」


エミリーさんの心配を遮るかのように、イムはエリーラを切れた腕ごと壊れた壁へと蹴り落とした。つまり、この3階の廊下からエリーラは気絶したまま落ちていった。


「あ、人質にした方が良かったかな?まあいっか」


「おい…お前…」


「ドラゴン君!酷い怪我だね。治してあげるよ」


そしてイムはドロっと腕を伸ばしてドラゴン魔族の怪我を治そうとした。急いで腕を切り落としに向かったが間に合わなかった。


「ナオッタゼ…」


エリクサーを使ったのか、魔族の両腕ごと体の怪我は綺麗に治った。これならもっとぐちゃぐちゃに両腕をちぎっておくんだった。


「僕に着いてきてくれる気になった?」


わざとなのかエリーラが落ちていった壊れた壁に移動してそんなことを言ってきた。こいつは2人を撒いてエリーラの治療をしに行くのは無理だとでも言いたいのか…。でも俺がすることは決まっている。


「殺す…」


「あちゃー逆効果だったかな?」


俺に全回復した魔族が向かってきた。俺はMPポーションを2本飲んでから迎え撃つ。さっさとこいつらを片付けてエリーラの元へ行かないと。絶対にエリーラは死なせない。



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