第164話 2人で

「精霊降臨」


「グバッ!」


ドラゴンの魔族がやってきているのに、俺は棒立ちで動けなかった。その時は前に戦って何も出来なかったのを思い出していた。そして俺は逃げるか、戦うか決断できないでいた。そんな俺を助けるかのように抱き抱えているエリーラが精霊降臨をして、水の塊を魔族にぶつけて吹き飛ばした。魔族は攻撃の警戒をしていなかったのか、廊下の端の方まで吹っ飛んだ。


「あ、ありが…いてっ!」


「お礼なんかより早くおろしなさい」


「あ、ああ…」


ありがとうと言おうとしている途中で頭を軽く叩かれた。確かに今はおろすことが先だ。


「あれが前にあんたが負けた魔族?」


「…そう」


きっとエリーラは、エミリーさんがドラゴンの魔族に殺されそうになっている俺を助けたのを聞いていたのだろう。だから今吹き飛んだ魔族が俺と戦った魔族だとすぐにわかったのかな。


「それで何であんたは怯えてるの?」


「だって…」


まだ負けてから半年も経っていない。それにあの時は称号の一騎当千の効果でステータスが2倍になっていた。今はそれがない。いくら精霊降臨ができるようになったからって勝てるわけが無いから怯えて当然だろう。そんなことを言おうとしたが、頬を両手で挟まれて言わせてもらえなかった。


「前に負けた時、その場に私はいた?いないよね?なのになんで今回も負けると決めつけてるの?あんたの中の私はそんなに弱い?それともそもそも私をいないものとしてるの?あんたの中の私ってそんな小さいものなんだ?」


図星をつかれたような気がして黙ってしまった。何とか返答しようとした時に、吹き飛んだ魔族が瓦礫から出てくる音が微かに聞こえてきた。


「さっき私を助けた時みたいに私ができないことをあんたがやって、あんたができないことを私がやればいいのよ。2人で一緒に戦うわよ。来るわよ!」


エリーラは来るわよと言うのと同時に、俺の両頬をパチンっと少し痛くなる程度にビンタした。そして俺の肩を持って、くるっと半回転させて魔族の方に向けた。その後は、行ってこい!と言うように背中を両手で軽く押してきた。


「雷電鎧!精霊降臨!」


まだこの魔族に勝てる!と言いきれるほど俺のメンタルが回復した訳では無いが、エリーラとなら勝てるかもしれないと思えた。俺は…いや、俺達はこの魔族と戦うと決めた。そもそもこいつ相手に、そう簡単に逃げれるわけもなかった。最初から戦う以外の選択肢は無いも同然だ。


「はっ!」


「オラッ!」


この魔族と前と同じく接近戦を始めた。前とは違い、攻撃が大振りだけではなくなっている。他の魔族にでも戦い方を教わったのだろうか。正直、このまま接近戦を続けたら3分後くらいには攻撃を数発はもらってしまうだろう。だから俺は魔族の攻撃がギリギリ届かないくらいの距離で戦うことにした。


「ソレウザイ!」


俺は精霊降臨したことによって早く発動できる精霊魔法を使ってちょこちょこと攻撃している。実際にダメージはほぼ入っていないだろう。しかし、魔族の動きを一瞬止めるくらいの威力はある。そして後ろからエリーラの精霊魔法での援護も飛んできている。ちなみに精霊降臨で漏れる雷の有効活用方法はは一応形になった。その方法とは、漏れる雷を雷電鎧に追加するという方法だ。雷電鎧は元々帯電と雷鎧というスキルだった。そのせいなのか、雷電鎧は雷を蓄える効果があったのだ。雷吸収のせいでなかなかそれに気が付かなかった。その雷電鎧に漏れた雷を蓄えておいて、ある程度溜まったら雷電鎧ごと雷吸収で魔力に戻す。これによってある程度はこうして戦闘ができるようになった。



「ガァァァ!!」


「せいっ!」


だんだん魔族が苛立ってきたのか、口から炎を放つようになってきた。俺に向かっての場合は避けて、エリーラに向けた場合は斬っていく。そしてだんだん俺の動きに慣れてきたのか、攻撃が当たりそうになってしまう。



「ガバボボ…」


そんなタイミングでエリーラが巨大な水の球の中に魔族を閉じ込めた。でもこの魔族なら15秒もしないうちにここから出て来れるだろう。でも10秒動きを止めてくれれば問題ない。


「はあっ!」


俺はダブルエンチャントを解除し、雷電鎧の雷を全て吸収した。そして魔力全てを消費して精霊魔法を放った。精霊降臨してるとはいえ、大量の魔力を使った少し複雑な精霊魔法は一瞬では発動できない。いや…ただ単にそれは俺の精霊降臨が下手だから一瞬で発動できないのかもしれないな。そして放った雷は俺やエリーラをも飲み込んで、廊下全体にまで広がった。




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