第163話 開戦
「…その様子を見ると素直に僕の元に来てくれないのね?」
「ああ…俺は魔族にならない」
どこか冷えた目をしながらイムがそう問いかけてきた。声が震えそうになりながらもはっきりとそう答えた。
「なら仕方ないよね」
イムがそう言って、指をパチンッと鳴らした。すると、イムの後ろの魔族と。ティヤさんとジュディーさんが消えた。
「あっ、殺したわけじゃないから安心していいよ。さすがの僕でもあの2人を一瞬で殺す力はないからね。ただ邪魔になるから2人を周りの空間ごと、別の場所に転移させただけだよ」
転移させるだけにしても、あの2人を強引に転移させるのは難しいだろう。そして、このイムは一瞬でじゃなければ、ティヤさんとジュディーさんを殺せると言っている。
「まあ、ちゃんと私達の相性が良くなるようにしたからあの2人は死ぬかもn…」
「黙れ」
イムの話を遮るようにエミリーさんがそう答えた。エミリーさんの声は今までで聞いたことの無いほど低い声になっている。
「ここは私に任せてください。ゼロス様は作戦通りに行動してください」
「わ、わかった」
俺はすぐにエリーラと一緒に走り出した。俺が今から行くのはこの城の宝物庫だ。そこは1番頑丈に作ってあるし、場所も分かりにくくなっている。そこなら身を隠すにはちょうどいい。だから作戦では、魔族が現れたら俺はそこに移動することになっていた。魔族相手に足でまといの俺を守りながら戦うのはあの3人でも大変だろうから。
「あなたー!後でちゃんと迎えに行くからそれまでに死なないようにね!生きてさえいればどうにかするから!」
訓練所を出る時にそうなイムの声が聞こえてきたけど無視した。
「…あれが精霊樹…」
そして城の中を走っていると、窓から大樹が見えた。きっとあれが精霊樹だろう。結界が壊されたから俺でも見えるようになったのだろう。そして里全体も騒がしくなっている。もしかしたら魔物も来てしまったのだろうか。
「っ!?雷ダブルエンチャント!」
「え?きゃっ!」
窓から精霊樹を見ながら走っていると、急に危機感知が反応したので、急いでダブルエンチャントをした。そしてエリーラを抱き抱えて後ろに飛んだ。
バコンッ!
すると、俺達が元々居たところの真横の壁が勢いよく破壊された。
「ナンカゲツブリダ?」
「お前は…」
そして壊れた壁から羽を生やした魔族がやってきた。その魔族は羽以外はどう見ても俺が前に戦ったドラゴンの魔族と同じだ。
「アノトキハオレガカッテタ。イマカラソレヲショウメイスル」
片言だが、言葉を話している。話の内容からやはりこの魔族はあの時の魔族なのだろう。あの時の無力感を思い出して体が少し震えている。そんな俺を気にする訳もなく、魔族は俺達に向かってきた。
◆◇◆◇◆◇◆
ティヤ視点
「…ここは?」
どうやらティヤは転移させられたようだ。ここは…里近くの森の中かな。
「………」
そして目の前にいる半透明の白く濁った気持ち悪い人型?の魔族が私の相手のようだ。今すぐティヤはゼロス様の所へ向かってもいいのだが、この魔族も連れて行ってしまう。だからこいつをさっさと処理してゼロス様の所へ行く。
「え…」
精霊降臨をして影を操ろうとしたが、この魔族は浮いているのに影がなかった。どうやらこの魔族はレイスという幽霊のような魔物が元になっているのだろう。正直相性はこれ以上無いほど最悪。
「でも早く終わらせる」
でもティヤはこんなやつ相手に時間を取られている場合ではない。早くゼロス様の元へ……。
◆◇◆◇◆◇◆
ジュディー視点
「くそっ…油断した」
どうやら俺は転移させられてしまったみたいだな。そして目の前の2m以上のムキムキ魔族が俺の相手みたいだな。
「死ね」
俺はさっさとこいつを殺すために精霊降臨をして、魔族の重さを最大まで上げた。これで魔族は行動全てに逆向きの強い力が加わる。もうまともには動けないだろう。立っているだけでも褒めてもいいだろう。そんな魔族の首を落とすために、自分の重さをかるくして走って向かった。
ガキンッ!
「なっ!」
しかし、魔族は私の攻撃を大斧で防いだ。私の精霊魔法が効いてないのか?と確認したがちゃんと効いていた。
「おいおい…もっと重くならないのか?俺はミノタウロスの魔族だぞ?こんなのまだまだ軽過ぎるぞ」
そう言いながら魔族は大斧をブンブン振り回した。どうやらこいつは俺と相性が悪いゴリゴリのパワータイプのようだ。少しでも早く倒してゼロス様の元に行きたいのに……。
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