第155話 また模擬戦

「じゃあ今日から精霊降臨やってくよ」


「よろしくお願いします」


一昨日は初めてあの訓練が成功したし、昨日でレベル90にもなった。精霊降臨の訓練を本格的に始めるにはうってつけの場面だ。


「…だけどその前に」


「ん?」


早速始まるかと思ったが、そうでは無いらしい。


「昨日ジュディーと模擬戦したらしいね?」


「はい」


昨日は実力差を強制的に分からされた。でもそのおかげでもっと精進できる。天狗にならずに済んだ。


「ならティヤともやるよ」


「え?何で?」


「いいから」


やる意味がわからなかったから思わず何でと聞いてしまった。しかし、理由は話してくれないが、絶対やるという意思は伝わってきた。俺は貸してもらっているマジックリングから、貸してもらっている2本の剣を出した。マジックリングの容量はソフィと同じくらいある。間違ってもこのまま付けているのを忘れて帰らないようにしよう。


「じゃあジュディーと一緒でティヤも精霊魔法は使わないから」


「わ、わかった」


ティヤさんは物理攻撃苦手で魔法攻撃特化だと聞いているが大丈夫だろうか?もちろん魔法攻撃のみだったら何も出来ず負けるのだろうが、今回は何でもありだ。ティヤさんは武器を取り出す素振りはない。


「始め」


「雷ダブルエンチャント、雷電鎧」


そして俺はいつもの3点セットを使ってもティヤさんに向かって行きたかった……。


「ががが……」


「ふふっ…抜け出せない?」


俺はティヤさんへと1歩踏み出した瞬間に体の動きが止まった。ついでに身体中が凄く冷たい。顔も動かせないので、目線だけで俺の様子を見てみると、どうやら氷の塊に埋まっているようだ。魔力感知で詳しくこの氷を見てみると、この氷の塊は数十メートルある。しかしご丁寧に顔だけは外に出ている。


「インフェルノ!」


どうもがいてもこの氷が壊れる気配がなかったので、魔法で溶かすことにした。


「と、溶けない?」


「ほら、がんばって?」


しかし、俺の魔法では全く溶けていない。のんびり歩きながらそんなこと言ってくるティヤさんに、虫達の魔物との戦闘で取得した無詠唱で雷魔法を放った。


「ばればれ」


しかし俺の雷魔法はティヤさんの全く同じ雷魔法で相殺されてしまった。


「口に出さないだけの遅い無詠唱なんて価値ない」


「…はい」


魔力感知はある程度まで成長すると、相手がなんの魔法を準備しているかまでわかる。俺は戦闘中に相手が何をしているかをわかるほど熟練度は高くない。ただ、ゆっくり魔法を準備してくれれば、どの属性の魔法かくらいはわかる。








「参りました…。寒い…出して」


「出してあげる」


俺の降参を聞いたティヤさんは嬉しそうにこちらに歩いてきた。結局何を試してもティヤさんの氷は砕けなかった。精霊魔法でも砕けなかったのにはびっくりした。ティヤさんがパチンと指を鳴らすと、俺の動きを封じていた氷が消えてなくなった。氷は消えたが、依然として寒さは継続している。


「よしよし、寒かったね」


そして頭を撫でられた。すると、撫でられている頭から体全体が温まっていく。


「氷魔法得意なの?」


俺は撫でられながら質問した。あの氷魔法はちょっと練習したくらいでは無理なレベルだ。これが無詠唱でやったなんて未だに信じられない。


「土、氷、火、光の魔法は得意。水、雷はそこそこ。風は苦手」


「え!そうなんだ…」


何か勝手なイメージだが、ソフィみたいに全ての魔法が得意だと思っていた。苦手な魔法があることにびっくりした。


「精霊魔法を活かせる魔法は得意にした」


「え?」


詳しく聞くと、ティヤさんの精霊魔法と相性がいい魔法は頑張って練習したらしい。ティヤさんは、何も無い所と、夜の時には精霊魔法だけだとほとんど役に立たないらしい。ティヤさんの精霊魔法の属性は影である。そもそも影がある前提の魔法なので、影がなかったらほとんど何も出来ないらしい。そんな影がない状況だから精霊魔法が使えません!となりたくないから自分で影を作れるよう努力したらしい。土や氷の魔法で射影物を作って、火と光の魔法で光源を作るらしい。それで影を生み出すのだ。水と雷の魔法は、何らかの原因で土、氷、火、光の魔法が使えなかった時の代わりらしい。そして風は何も活かせなかったらほぼ練習していないらしい。

こう言っては悪く聞こえそうだが、ここまで考えて魔法の練習をしているとは思わなかった。俺は何でもかんでもただひたすらに伸ばそうとしているけど、それでいいのか不安になってしまう。



「じゃあこれから精霊降臨やろうか」


「はい!」


とりあえず今はまだできることは何でもやろう。ユグがなんでもできるのだから、俺も何でもできて損は無いはずだ!もし何かを特化して育てるとしても、それはまだ先でいいだろう。



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