第154話 2ヶ月経過 後編

「はっ!せいっ!」


「いい感じになってきたな」


今の俺は森の奥深くでカブトムシとクワガタなどの虫の魔物を相手に戦っている。周りには全部で30匹弱ほどいるが、全て俺目掛けて向かって来ている。これは虫の好む煙を俺が近くで何度も浴びることで、虫達の意識を俺のみに集中させることができるのを発見したからだ。


「調子良さそうだからもっと重くするぞ」


「ゔっ…」


今はレベル89になっている。レベルというのは90になると、さらに上がりにくくなるらしい。レベルも上がったので、俺に負荷をかけるためにジュディーさんは精霊魔法で俺の体を重くしている。これはソフィがやっていた重力魔法と似てはいるが、少し違う。ソフィは俺近くの空間ごと重くしていた。しかし、ジュディーさんは俺という個人のみを重くしている。だから俺が虫達にする攻撃は魔法によって威力が増すことは無い。


「雷斬!」


「ギッ!」


「その調子だ」


そして週ごとに俺が魔物達に攻撃する手段、通称メニューは変わっている。初めての時から2週間は足のみだったが、その次の週のメニューは拳のみだった。剣を持っているのに拳のみだった。そして今回はカブトムシやクワガタの魔物の1番硬い角を精霊魔法で破壊してから、足と拳で倒すというメニューだ。これがまた厄介で、ついまだ角を破壊していない魔物を殴ったり、蹴ったりで討伐してしまいそうになる。間違えて討伐してしまうと、ペナルティとして俺にかけられている重さが増す。

ちなみに雷斬というのは、剣を振って斬撃として雷を飛ばすという精霊魔法だ。もちろん普通の雷魔法にはこんなのは無い。これはオリジナルと言ってもいい。まあ……エリーラがやっていた精霊魔法を丸パクリにしただけなんだけどな…。




「ラスト30分、自由に戦え」


「自由?」


「全てのスキルを自由に使え。メニューも無しだ」


「よっしゃ!雷ダブルエンチャント!雷電鎧!」


そして今日初めてラスト30分で禁止されているスキルも全部使ってもいい全力タイムが貰えた。もしかして俺が今日でレベル90になったからかな?でも自由の代わりなのか、俺にかけられているジュディーさんからの精霊魔法での重さは体感だと2倍近くになっている。ダブルエンチャントと雷電鎧を使ってもステータスが2倍まで増えないので、攻撃や敏捷的にはマイナスだ。しかし久しぶりに全力で戦うというのが楽しくて仕方がない。





「ふぅ…」


「残り15分…さすがゼロス様だな」


そう言いながらジュディーさんが上空から降りてきた。俺はどうやら15分でここにいた30匹近い魔物を全て討伐したようだ。ダブルエンチャントと雷電鎧のおかげでこの程度の魔物の攻撃なら食らってもそこまでダメージを受けないようになっている。だから攻撃は軽くガードするだけで済んだので、早く終わった。


「模擬戦をしてやる。こい」


「え?いいの?」


魔物の死骸の収納が全て終わると、ジュディーさんがそう言ってきた。しかし、俺にかけられていた重さも解いているし、魔力感知では精霊降臨してないように見える。そしてジュディーさんが持っている得物は普通の木刀だ。さすがにそれらで俺を相手にするのはジュディーさんでも難しいと思う。


「いいから」


「わかりましたよ!」


少し痛い目を見れば精霊降臨をしたりなんだりするだろう。そう思ったので、少し痛い目を見せるために全力で向かった。




「はっ!せいっ!はっ!雷斬!」


「どうした?当たらないぞ?」


一応俺は全力で攻撃している。さらに精霊魔法も使っている。なのに全く攻撃が当たらない。全部紙一重で避けられてしまう。




「へ…?」


「30分終了だ。帰るぞ」


気が付いたら俺が横になっていた。いや…木刀で俺の足を掬い上げられたんだ。それで俺がひっくり返ったから横になったんだ…。


「…何で全部避けられたの?」


「俺がどれだけゼロス様の戦いを上から見てると思ってんだ?ゼロス様の動きの癖は全部わかるぞ。ゼロス様の戦い方はそれくらい癖があって分かりやすい。これからはそれらも直していくぞ」


「は、はい!」


はぁ…少し強くなると天狗になるのは俺の悪い癖だ。でも毎回天狗になったタイミングで、誰かに伸びた鼻を折られている。これからも訓練頑張ろう。そう決意して走りながら帰っていくジュディーさんの後を追った。











「ゼロス様の癖は全部わかってたんだけどな…」


俺はそう言いながらゼロス様には気付かれないように頬から垂れてくる血を袖で拭いて、回復魔法で傷を治した。



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