第133話 状況確認

「はぁ…はぁ…」


俺は今、自分の家に走って向かっている。街の人達はオーク達から避難する準備をしていて慌ただしい。だからといって街の人が混乱している訳では無い。しっかり街の全員が避難する準備をしている。準備が遅くなっている老人の準備を若者が手伝っている姿も見える。


「着いた…!」


街の人を避けながら走っていたので、全力で走ることが出来なかった。そのため、家に到着するのに少し時間がかかってしまった。そして俺は壊れるかもしれないほどの勢いでドアを開けて家の中に入って行った。


「…ん?」


玄関に割と近いリビングに人がおる気配があるのにも関わらず、全然声がしない。とりあえず状態をいち早く知りたいのでリビングに向かった。


「…ん?」


「ゼロか」


「ゼロ…どうしてここに?」


「………」


部屋に入ると、右目に眼帯をつけて右腕がない父様と、泣きそうになっている母様と、頭を抑えて蹲っている長男のアンドレイ兄様がいた。


「状況は!」


「それは……」


父様が眼帯をつけて腕がないことも気になったが、今はそれよりも状況を知る必要がある。父様から話された状況は想像よりも悲惨だった。一度目のオーク襲撃で冒険者と騎士は半壊状態。父はその時にアンドレイを庇って右目と右腕を無くしたらしい。それのショックでアンドレイは塞ぎ込んでいるらしい。そして次にオーク達が攻めて来たら避難を開始するらしい。


「攻めてきた時に避難を始めるんですか?」


「そうだ」


「え?それだと…」


それだと避難中の人がオークに襲われる危険が高い。だけど攻めてきた時に避難を始めるには理由があるらしい。それは先に逃げた時に先回りされて攻撃されるのを防ぐためらしい。だけどだからって普通に後ろから攻撃されたら意味がなくないか?


「言いたいことは分かる。でも大丈夫だ」


「?」


「俺が殿を務める」


「え!?」


「だからこれから街の人を率いるのはアンドレイ。お前に任せるぞ」


父様はもうこの場で死ぬつもりだろうと言うのが何となく分かった。だけどそんなことさせたら俺がここに来た意味がない。前世では何も親孝行出来ずに死んでしまった。だから今世では前世の分も親孝行しなければならないという使命感がある。そんなことをしても前世の両親には何も返せない…。だからこれは完全に俺の自己満足だ。


「…今のアンドレイ兄様に街の人を率いるなんて出来ると思う?」


「それは……」


父もそれが出来なさそうということは何となくわかっているのだろう。アンドレイ兄様は現在進行形で蹲っているからね。


「俺が殿をやるよ」


「……」


「…なっ!」


父様は俺がそれを言い出しそうなことはわかっていたのだろう。静かに俺の方を見ている。ただ、母様は驚いた様子で俺の方を見ている。そしてアンドレイ兄様はそれを聞いてやっと顔をあげた。


「ソフィのことはいいのか?」


「俺は死ぬつもりなんて全くないよ」


きっとソフィを残して先に死んでいいのか?ということを父は聞きたかったのだろう。だが、俺はこんなところで死ぬつもりはさらさらない。それにこんなところで死んだらソフィまで俺の事を追いかけて死んでしまう可能性が少しあるからな。


「俺が急にここに来れたのは魔道具のおかげなんだ。その魔道具はあと一回転移できるんだよ。だから1時間くらい時間を稼いだら、俺も転移で街から逃げるよ」


「そうか…」


それを聞いてアンドレイ兄様と母様の顔が少し明るくなった。しかし父の顔は逆に暗くなった。もしかすると、今のが嘘だと父様にはバレたかもしれない。だけどこのまま押し通すしかない。


「だからここは俺に任せて先に逃げてよ」


「……分かった」


父様は何とか俺が殿を務めることを認めてくれた。これはある程度実力を父様に認められたと言ってもいい。なぜなら俺が弱かったら殿を務めることなんてできなく、ただ街の人を危険に晒すだけになってしまうからだ。こんな場面だが父様に認められた気がして少し嬉しかった。



『ピコーン!』

『【称号】死亡フラグ一級建築士 を獲得しました』



おい待て。この嬉しい気持ちに水を差すな。これはどう考えても絶対にセットしてはいけない称号だろ。後で絶対効果確認しておこう。



カンカンカン!!



「オーク達が攻めてきたようだ」


「なら俺は行くよ」


「…ああ、俺達も行こうか」


そしてちょうどよく鐘が鳴り響いた。きっとオーク達が攻めてきたのだろう。


「…絶対に死ぬなよ」


「頑張るよ」


やはり父には転移する魔道具がないことがバレているみたいだ。街の様子はここに来る時が嘘のように人がいなかった。もしかすると父様は準備できた人はどこかに集まれなどの指示も出していたのだろうか?だとすると父様は俺が思っていた以上に有能なのかもしれない。俺は1人でオーク達がやってきている方へと向かって行った。



「あっ、今のうちに確認しよ…」


走りながらさっき獲得した称号を確認した。



【死亡フラグ一級建築士】

・死亡フラグを立てた時に獲得

[効果]

死亡フラグが立ちやすくなる。

死亡フラグが回収されやすくなる。

死亡フラグが折れにくくなる。



「最悪だ……」


本当に最悪な称号だ。それに回収されやすいと、折れにくいってほとんど同じ意味だろ…。つまりより効果アップってことなのか?初めて誰が見ても絶対に要らない称号を手に入れたな。あの神が称号に個数制限をつけたのを初めて感謝した。

この称号を確認したついでにスキル統合の称号を外して、オークキラーをセットした。



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