第132話 ドラゴン討伐4

私は僕っ子が歩いているのを見ながら、いつでも魔法が放てる状態にしようとしている。僕っ子が何をしてもシャイナを助けられるようにする。お兄ちゃんならきっとこうするだろう。そんな私の考えなんて知らずに僕っ子はシャイナを押えている前足の所へと向かった。


「ねぇ…周り見えてないの?そこにそんなの打ったら僕にも当たるんだけど?」


「キャ……」


僕っ子がドラゴンの足元でそう言うと、ドラゴンは今まで聞いたことの無い声をあげて火球の準備をやめた。


「ついでにそれも上げてくれない?その下にいるの一応僕の知り合いなんだけど?」


「キャイ……」


ドラゴンは再び変な声をあげると足を上げてゆっくりと下がろうとした。


「僕は下がっていいなんて言ってないよ?勝手に行動しないでよ」


「キュ…ガァァ!!!」


僕っ子の声で後ろへ行くのをやめたかと思ったが、急に前足で僕っ子に攻撃を仕掛けた。


「はぁ…これだから知能の低いドラゴンは……殺したらダメだからね」


僕っ子が何かを小声で呟くと近くからドラゴンの足よりも巨大な何かの腕が出てきてドラゴンの顎を殴った。その巨大な手はゴツゴツとした漆黒の鱗に覆われていて、さらに鋭い爪があった。


「なら僕はこれで、また終わった頃にお話に来るからね。じゃあまたね」


気絶しているシャイナを私の横まで運ぶと、そう言って去っていった。追おうかと思ったが、まだドラゴンは生きている。顎を殴られた衝撃で頭がフラフラしているけど、数分と経たずに元の状態に戻るだろう。私の魔法の準備も完了したのでここで仕留めよう。


「砕き貫け!バーストランス!!」


「ガァ………」


ガンッッ!という爆発する音と逆鱗が砕ける音が聞こえるとほぼ同時にドラゴンの最後の鳴き声が聞こえた。私の魔法がドラゴンの逆鱗ごとドラゴン首を貫いた。私が放った魔法はパッと見はスピアの超巨大バージョンだ。その大きさは10m近くある。ランス本体は氷魔法で作っていて、その周りは殺傷力を高めるために雷魔法と風魔法で覆ってある。そして何かに衝突すると、ランスの後ろからジェット機のエンジンように火魔法が発動して貫通力を高める仕様だ。この魔法はドラゴンの逆鱗を貫くためだけに作ったと言ってもいい。威力を高めるために多くの魔法を複合したせいで魔力消費が激しかった。お兄ちゃんの所に行く転移分の魔力が無くなったので急いでMPポーションで魔力を回復した。そして私のMP量を越える余剰分は空間魔法で作ってある魔力貯蔵庫に入れて置いた。そして頭の中で何度もレベルアップが鳴り響いている。うるさいから後にして欲しい。




「うぉぉぉ!!!」


「若いもんにはまだまだ負けられん!」


そしてブレスの傷を癒した2人がワイバーン討伐に向かった。私も魔力が問題ないうちはワイバーンを討伐しよう。


「医療の人!シャイナをお願い!!」


「あ、はい!」


騎士団長とおじいちゃんの火傷を治した人をシャイナのために呼んで私は残り少ないワイバーンへと向かって行った。呼んだ医療の人がクラウディアだったけど話は面倒だから後にしよう。クラウディアなら治療の腕がいい事は分かっているので安心してシャイナを任せられる。










「これで最後だ!!」


「ギャッ…」


騎士団長の一撃がワイバーンに当たった。このワイバーンが最後で、全てワイバーンの討伐完了した。ワイバーン討伐完了にはドラゴン討伐完了から30分とかからなかった。


「我々の勝利だ!!」


「俺達の勝ちだ!!!」


「「「うぉぉぉーー!!!」」」


ギルド長と騎士団長がそれぞれ勝利宣言をすると、周りの冒険者と騎士から雄叫びが上がった。


「怪我人はみんな医療チームのところに向かって!怪我人以外はみんな帰って休んでいいわよ!後のことはこっちでやっておくから!だけど明日の15時にギルドに集合ね!報酬を分けるから!」


「お前らも明日と明後日は久しぶりに休みだ!!しっかり休めよ!」


「やったぞ!休みだ!」

「何ヶ月ぶりだ!?」

「休みなんてあったのか……」

「……休み?何それ?美味しいの?」


騎士達は休みということにとても驚いている。騎士達はブラック企業みたいね…。でもそんなことより、みんなはアドルフォ領のことはすっかり忘れてしまっているみたいだ。

周りの人は少なからず怪我をしているようで医療チームの方に向かっている。私は怪我をしていないので、ギルド長からMPポーションを10本ほど頂いて家に帰ることにした。




「それでお兄さんはどこにいるの?家でのんびり寝てるなんてことは無いよね?」


街の方へ歩いて行くと待ち構えていたであろう僕っ子に話しかけられた。


「ゼロ兄様はアドルフォ領にいます」


「…え、それ本当?」


一応貸しがあるので素直に答えてあげた。しかしそれを聞いて僕っ子が急に慌てだした。


「そんなの知らないよ…知ってたら僕はこんなところにいなかったよ…」


そして僕っ子はぶつぶつと私にはっきり何を言っているか聞こえないくらいの声で独り言を呟き始めた。


「お兄さんは無事なの?」


「きっと無事でしょう」


もう神の予言を回避することができたので、お兄ちゃんが誰かに負けるなんてことは無い。


「…それは確認したの?」


「はぁ…今確認します」


私は称号にストーカーというものを持っている。これの効果で1人だけマークをつけると、その人の現在位置とHP、MPの残りパーセントが分かる。アドルフォ領程度の距離ならお兄ちゃんのことが分かってしまう。一度マークをつけるとその対象を変えることができないけど、私はお兄ちゃんにマークをつけたことを後悔なんて全くしていない。ただ、この称号でその対象の確認をしている間は全てのスキルが使えないので戦闘中は使えなかった。今なら問題なく使えるだろう。






「…あれ?え?うそ…なんで?おかしいよ?」


「どうしたのよ!!」


僕っ子に勢いよく肩を揺さぶられて少し落ち着いた。だけどまだ全く冷静になれていない。


「………私のお兄ちゃんがどこにもいないの…」




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