第118話 選んだ物

「うーん…」


大剣のことを諦めて色々なものを見ているが中々これだ!というものに出会えない。なんと言うか大剣が印象に残り過ぎて他のものがあまり魅力的に見えない。


「ゼロ兄様は決めましたか?」


「ソフィは決めたの?」


「一応2つは決めましたが、他にもっといいのがないか探している途中です」


色々物色しながらぐるぐると回っているとソフィがいたので声をかけた。するとソフィは一応欲しいものを2つ決めたらしい。


「何にしたの?」


「エリクサーとマジックリングです」


「そうなんだ」


エリクサーは怪我を治す回復薬だ。エリクサーの効果ではちぎれた腕とかは元に戻らないが、それ以下の怪我ならどんな怪我でも治る。ただ綺麗にスパッと切れた状態かつ、その切れた先の腕があるならば、エリクサーをかける時にくっつけておくと治るらしい。ちなみにハイエリクサーというものもあり、それはどんな状態だろうとも生きていれさえすれば、全て元通りに完治するらしい。もしかしたら第1宝物庫にはあるのかもしれない。ハイエリクサーはエリクサーとは比較にならないほどのレア物らしい。それこそ何百年に1つしかできないほどに。


「因みにマジックリングの容量は?」


「えっと…説明書によると、50立方メートルらしいですね」


「わぁお!」


シャナが持っている10立方メートルよりもはるかに大きいみたいだ。これなら大抵の魔物ならしまうことができる。


「ちなみに時間遅延機能も付いているらしいです」


「すごいね!」


ちなみに時間の経過がこのマジックリングの中では10分の1になるそうだ。これなら少しの間この中に入れて置いても腐るなんてことは無いだろう。


「あの…ゼロ兄様…?」


「ソフィ…君は何も見ていない。そうだろ?」


「いえ…あの…」


「じゃあそういうことで」


何か言おうとしたソフィを遮って俺はまた別のものを探しに向かった。



ころころころ……



「…ゼロス?」


「シャナどうしたんだい?おかしなものは何も無いだろ?」


「…え?いや…」


「ちなみにシャナを選んだの?」


「…鎖と鎌」


「そうなのか」


「それで…後ろ…」


「何も無いよね?」


「……うん」


今度はシャナが俺に何か言おうとしたのを遮った。誰かに言われてしまうと俺はこれを認めなければならなくなる。俺は断じて認知しない。


ころころころころころ……


「皆さん、そろそろ決めましたか?あれ?ゼロス君?その後ろにある玉はなんですか?」


「え…あっ…」


ちくしょう!まさか扉から誰か入ってきて言われるとは思わなかった!知っていたよ?いつの間にか俺の後ろをビー玉くらいの大きさの錆色2つの玉が付きまとっていたことは!だけどそんなもの触った覚えは無いし、俯瞰の目があるのに気付かないうちに付いてきたんだよ!普通に怖いよ!


「みんな決めたようだね」


「はい」


「うん」


「いや…すいません。俺はもう少し…」


「え?手に2つ持っているそれじゃないの?」


「えっ…」


何を第2宝物庫から渡したかを記録する係員のような人がもう1人新しく宝物庫の中に入ってきてそう言った。言われた時に初めて俺の右手に何か2つの硬い玉の感触に気が付いた。恐る恐る手を開いて中を見ているとそこには確かに付き纏っていた2つの玉があった。というか玉は握ってる状態なのに気付くの普通にすごくね?観察眼凄いね。


「すいません。もう少し探させてください」


「全然構いませんよ」


もう少し時間を貰って俺は他のものを探す振りをした。俺は誰にも見えないところに行くと2つの玉を思いっきり投げ飛ばした。本当はこんなことしてはいけないのだろうが宝物庫の外には出ないのでいいだろう。投げた後は急いでその場から立ち去ることにした。



ころころ…



「……どうしよう」


知ってたよ!投げたのに急に玉が消えたんだもん!見ないように背を向けたのに俯瞰の目には急に転移したかのように現れる2つの玉が見えたよ!なんなのこの玉…。しかもなぜ2つ?俺が二刀流だから?契約している精霊が2人いるから?兄が2人いるから?それとも人生が2回あったから…?もうわかんないよ……。




「…この2つの玉にします。これをください……」


「あ、うん…」


もう2人は何を貰うかを決めて係員に報告していた。俺も同じように報告しに行った。なんか落ち込んだ様子で報告してきた俺に係員は少し引いていた。だってもっと欲しかったのあったんだもん…。俺が今使っている剣より丈夫そうで良さそうな剣もあったし……。





「…ん?」


落ち込んでいる間に何やら少し騒がしくなってきた。何か問題でもあったのだろうか?


「ねえ…ゼロス君」


「はい?」


「その玉はこの第2宝物庫にあったってことでいいんだよね?」


「はい」


係員が変なことを言ってきた。確かにこの第2宝物庫にあった。と言っても俺はこの玉がどこにあったかも知らないけど。


「おかしいな……」


「どうかしたんですか?」


「いやー、その玉は何度探してもこの第2宝物庫の一覧にないんだよ」


「え……」


「ちなみに他の宝物庫の物が誤って…ということも考えて他の宝物庫の一覧を見てもどこにもないんだよ。その玉は…」


「………」


空いた口が塞がらなくなった。もしかしたら報告した時にこの玉の正体を聞けるかな?とか思っていた。しかしそんな次元の話じゃなくて、この玉の存在自体誰も知らないようだ。


「だからゼロス君、その玉は1度こちらに預けてもらって、他のものを探してきてくれるかい?」


「わかりました!」


やった!これで俺は他のものを選べる!なら俺は剣を2つ選ぶことにしよう。そう思いながら手を広げて2つの玉を渡すことにした。


「あ…あれ?」


「ん?」


しかし俺の手からその玉が離れない。しかも係員は玉を思いっきり引っ張られているのにその感覚は俺の手にはない。どうなっているんだ?


「君はその玉が欲しいのかね?」


「は、はい」


国王様が急に話しかけてきた。つい、はいと答えてしまったが、もう一周回ってこの玉が欲しくなってきた。というかどっちにしろこの玉が俺から離れてくれない時点で貰うしかない気がする。


「ならその玉をやろう」


「国王様いいんですか?」


「良い」


「畏まりました」


結局俺はこの玉を貰うことになった。そしてその後は普通に感謝の言葉を言って解散となった。大剣、玉と今日は色々あり過ぎて疲れてしまった…。今日はゆっくり寝て明日この玉の性能実験をすることにしよう……。というか今日くらい現実逃避していないとやってられない…。



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