第115話 パーティー2
「………」
「………」
ベクアは俺から話すのを待っているのか何も話さない。そして俺は何を言えばいいか分からないので話さない。お互い無言の時間が数分過ぎた。
「…悪かったな。お前にも何か言えない事情がきっとあるのだろう」
「ありがとう」
そしてベクアから話し始めた。
確かにこれは言えない事情だ。これを一から話すとなると俺はエクストラスキルのことまで説明しなければならない。
「でも一つだけ聞かせてくれ」
そしてベクアにしては珍しい真剣な顔をして俺の目を見てきた。
「ゼロスは人間か?それとも獣人か?」
「俺は人間だよ」
俺は生まれた時からソフィと同じ人間だ。あれ?でもユグやジールが言うにはそのうち人間ではなくなるのか?
「ありがとう、今のところはその答えで満足しておくわ」
「出来れば一生満足してほしいね」
そう言ってベクアはバルコニーから出て行こうとした。
「あ、そうだ1つ言っておきたいことがある」
「…なんだよ?」
エリーラもそうだったが、出て行こうとしている時に止まって何かを言おうとしないでほしい。どうせ良くないことだから。
「すまん…と先に言っておく。…じゃあな」
「ちょっ!?」
それだけ言い残すとベクアは今度こそバルコニーから出ていった。なんでいきなり謝るんだよ!俺は一体何に巻き込まれているんだよ!!
「はぁ……」
「ため息をついているところすまんが話があるぞ」
「あっ」
今度はベクアと交代でグラデンがバルコニーに入って来た。そう言えばグラデンも何か話があるみたいだったな。あの2人のことで頭がいっぱいだったから忘れていた。
「お主の最後の試合で折れた剣はどこで買った?」
「普通に売ってる武器屋だけど」
「オーダーメイドでもない普通のやつか?」
「そうだけど」
「はぁ…」
今度はグラデンにため息をつかれてしまった。
「ならちょっとこの2つの剣で素振りをしてくれんか?」
「ん?あー、いいよ」
そしてグラデンは付けている指輪から剣を2本取りだして渡してきた。
「出来ればあの試合でやっていたエンチャント?だったか?それをしてもらえるか?」
「わかったよ」
注文が多い。だがここまでくると鈍感系主人公では無い俺は何がしたいかわかる。多分俺のために武器を作ってくれるのだろう。
「精霊ジールエンチャント」
そして俺は数度グラデンから借りた剣で素振りした。折れた時はこれに雷エンチャントを追加したダブルエンチャントだったが、それをすると疲れ果ててパーティーどころではなくなるのでそれは許してほしい。
「もういいぞ」
「ほい」
「ありがとな」
そして剣を返すと何事も無かったかのようにバルコニーから出ていった。あれ?止まって何か俺に言わなくていいの?本当に俺に剣を打ってくれるんだよね?
「はぁ………」
パーティーが始まってまだ30分ほどなのに、もうだいぶ疲れてしまった。美味しいものをいっぱい食べて疲れを癒すために俺もバルコニーから出ていった。
「あなた様はとても人気者のようですね」
「ん?あ、いえ。それほどではありませんよ」
そして美味しそうなものから順に色々と食べていると急に後ろから話しかけられた。最初は食事中に声をかけられたので適当に返事をしたが、その相手が聖女様だったのでちゃんと対応した。
「ぜひ私とも2人っきりでバルコニーに行きませんか?」
「い、いや…」
バルコニーに誘われたが、相変わらずなんかこの聖女は薄気味悪いのでどうにかやんわりと断ろうとした。
「私と2人っきりは嫌ですか…?」
「あ、えっと……」
なまじ顔が整っているので上目遣いで目を涙で少し潤させると困ってしまう。だがやはりはっきり言うと2人っきりになりたくない。
「ゼロ兄様!私たちを放置してどこ行ってたのですか!」
「大変だった」
「あっ…ソフィ、シャナ…」
どう断るか懸命に考えているとソフィとシャナに声をかけられた。
「放置した分まで、今からボディガードよろしくお願いしますよ?」
「離れちゃダメ」
「わかったわかった」
そう言われてソフィとシャナに引っ張れて移動した。正直とても助かった。
「あの聖女にはあまり近寄らないでください」
「え?」
ソフィが小声でそう言ってきた。
「ステータスが全く見えません」
「感情も全く読めない」
「うん。わかった」
俺も何か気持ち悪さを感じていたので2人の言うことにすぐ納得した。それにしてもやはりソフィは鑑定系のスキルを持っているのだろうか?そしてシャナは俺と似た相手の気持ちを読むスキルがあるのだろうか?
でも何も言わずに離れてしまったのは少し悪いなと思って聖女の方をチラッと見た。
「っ!」
すると俺とソフィとシャナを人を見る目とは思えない目で睨みつけている聖女を見てしまった。一体なんなんだ…。
その後は特に何事も無くパーティーは終了した。
そしてそのパーティーから次の日には神聖タグリオンを出てリンガリア王国に帰るために馬車に乗って移動を始めた。まあ…色々あったが対校戦はとても楽しかった。俺もまだまだ強くなりたいな。
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