第101話 変化+別視点×2

「ふぅ…」


「「「わぁぁーーー!」」」


「うおっ!」


舞台から場外へと出ると大きな歓声が響いてきた。その事に驚いて一瞬ビクッ!としてしまった。


「リンガリア王国がサバイバル戦1位って初めてじゃないか!?」


「留学生に引けを取らない強さだぞ!」


「このままだとリンガリアの大将が有言実行するんじゃないか!」


客席から聞こえてくるのはどれも俺達の話題だった。しかも聞こえてくる限りでは全て褒め言葉だった。誰も期待してない状況からここまで変化があると頑張って良かったと思える。


「改めて発表します!1位!リンガリア王国!!」


「「「わぁーーー!!」」」


「同率2位!武国ガラテイン!アナタイト鉱国!神聖タグリオン!」


「「「わぁーーー!!」」」


「この勢いで明後日からの代表戦の対戦表も発表します!!」


「「「おぉーーー!」」」


観客はずっと盛り上がっている。代表戦は一日おきに計5日かけて行われる。試合後一日は休む時間が与えられるということだ。その休んでいる一日の間に学園長などが代表者のメンバー表を対校戦係員に提出する。もしトラブルか何かがあってメンバー表を出せなかったとしてもそこで不戦敗とはならない。なので勝つためにメンバー表を提出させないというのはできない。そして空中に対戦表がでかでかと現れた。やはり対校戦は良い魔道具を大量に使っているみたいだ。



《1日目》

【午前】武国ガラテインvsアナタイト鉱国

【午後】神聖タグリオンvsリンガリア王国


《3日目》

【午前】リンガリア王国vsアナタイト鉱国

【午後】神聖タグリオンvs武国ガラテイン


《5日目》

【午前】神聖タグリオンvsアナタイト鉱国

【午後】武国ガラテインvsリンガリア王国



「おう…」


ベクアとやるのは1番最後となった。だからと言って最終日までにそこまで急激に強くなることは無理だろう。どうしようか…。


「選手の皆様!お疲れ様でした!明後日に万全な状態でいるために今日と明日はゆっくり休んでください!」


そのアナウンスがかかって今日は解散となった。ただ闘技場から退場する時にすれ違った、すごい目付きで睨みつけていたエリーラが気になってしまった…。






◇◆◇◆◇◆◇

ベクア視点


「聞こえているか?」


「ああ。聞こえてるぜ」


「今日のサバイバル戦…人間に負けたと聞いたぞ」


「無駄に耳が早いな」


今日のサバイバル戦が終わったタイミングでわざわざ親父から連絡が来た時点で察していたがめんどくせぇな。


「なぜ本気を出さなかった」


「本気を出してなかったとなんでわかる?」


「本気を出せばお前が負けるわけが無い」


「へいへい。そーですかい」


確かに俺は本気を出していない。だが、こうやってわかったように話されるのが俺は嫌いだ。


「お前の相手を観察して少しずつ本気を出していく癖は直せと言っただろう?」


「それは強者である俺だけに許された特権だとも言ったはずだぜ?」


「それが負けたやつのセリフか?」


「ちっ!」


痛いところを付かれた。確かに今回は久しぶりに戦いが楽しくなって、終わらせたくないと思ってしまった。それでつい観察時間が長くなった。それがミスで負けたというのは素直に認めよう。


「お前は『王族最強』の称号を持っているのだ。代表戦で負けることは許されn…」


「安心しろ。代表戦では初っ端からある程度飛ばしていく」


「最初から本気を出すと言って欲しかったが…まあいい。ただ何としても勝て」


それだけ言うと一方的に連絡を切りやがった。全く誰の心配をしてやがる?俺は王族最強だ。こんなところで負けるはずがない。







◆◇◆◇◆◇◆

エリーラ視点


「申し訳ありません!」


「………」


私はいの一番に謝った。サバイバル戦終了後に闘技場から退場して一直線で自室に戻ると、すぐに女王様から連絡があった。女王様も最上位精霊と契約している。そして私なんかと比べ物にならないほど強い…。今生きているエルフの中で最強だ。


「最上位精霊と契約している者がなんと情けない」


「申し訳ありません…で、でも!」


「言い訳なんか言わせないよ。どうやって負けたかも聞いているよ。人間の男に剣で負けたらしいわね?津波で魔力が無くなったからとでも言うのかい?そもそもあの津波で人間1人逃したことを恥じなさい!」


違う!そうじゃない!私は特にあいつを仕留める気だった!でも…でも!!


「お願いします!聞いてください!」


「…くだらないことを言ったら許さないからね」


「っ!は、はい…」


もしこれでくだらないと判断されたら……でも!言わなければならない!あれは私のせいじゃない!


「あ、あいつ…あいつにだけは精霊魔法が使えなかったのです」


「……なんだと?」


「いくらあいつ目掛けて精霊魔法を使おうとしてもディーネが無理だって言うんです!!」


「………」


女王様が黙られてしまった。どうしよう…嘘だとでも思われてしまったのだろうか…。女王様が再び言葉を話す数分間は何時間にも感じるほどの苦痛だった。


「……そのお方は雷魔法をよくお使いになられていたか?」


「っ!そ、そうです!!」


なんで女王様がそんなこと分かっているかはどうでも良かった。私はただただやっと話してくれたのが嬉しかった。


「今回の無様な敗北は無かったことにしよう…」


「あ、ありがとうございます!!」


奇跡が起こったかと思った。いや!これは奇跡だ!あの完璧主義の女王様が許してくださるなんて思っていなかった。


「ただし条件がある」


「え…条件?」


やはり奇跡なんて無かった。女王様のその一言で急に現実に帰ってきた。


「そのお方を私らのエルフの里にご案内しろ」


「な!何を言うんですか!寄りにもよって人間!それも男なんて!そんなのありえまs」


「お前はいつからこの私に意見できるほど偉くなったのか?」


「え…あっ…す、すいません…」


エルフの里は絶対王政だ。王が黒と言ったら白でも黒になり、右と言ったら左も右となる。それほど王の力は凄まじい。


「で、でも…急に来いと言っても…」


「私もすぐに連れて来いと言うほど鬼畜では無いわ。1年以内にお越しいただけるようにすればいいわ」


1年以内でも十分に鬼畜である。でもそんなことを言ったら最悪私の首が飛ぶ…。


「しかし…理由も無しに来るでしょうか…?」


「ふむ…ならお前がそのお方のことを分不相応ながら好きになってしまったとでもすれば良い」


「なっ!」


私が例え演技だとしても人間なんかを好きになれだと…!私はつい文句を言いそうになった。なんとか口に出さずに止めたことを褒めてもらいたいほどに私は苛立った。


「いいか?必ずだぞ」


それだけ言うと一方的に連絡が切れた。

エルフ達は大昔に人間と戦争していた時期があった。ことの発端は容姿がいいからと男女問わずにエルフを攫って奴隷とした人間のせいだ。私達の先祖は奴隷となった仲間を取り戻そうとしただけだ。だがそれはもう何百年と前に人間とはお互い同意の上で和解した。しかし私はそれでも人間…特に人間の男が嫌いだ。



「私は…どうすればいいの…?」


私は怒涛の展開について行くので精一杯で、その男への女王の物言いが急に変わったことに気が付けなかった。

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