第100話 サバイバル戦5
「がはっ……」
俺はベクアに殴られて吹き飛んだ。剣を手放してからまだ10分程しか経っていない。しかしもう軽く2桁以上はベクアに殴られ、蹴られている。一撃でも食らったら終わりのグラデンのハンマーは絶対に避けている。そのためどうしてもタイミング的にベクアの攻撃が避けられない時がある。
「はぁ!」
「だから…効かねぇーよ!!」
「くそっ!」
そしてベクアは俺の攻撃を全く避けようとしない。魔法ですら防御しない。しかしそれでも良くて鎧に少しヒビが入る程度でダメージを負っていない。そしてそのヒビもすぐに修復してしまう。最初は氷の鎧は魔法なのかと思ったが魔法でここまで精密に鎧を作るとなると、最低でもソフィと同じくらい魔法を使えないと無理だろう。俺も真似したいが、俺の技術ではきっと関節とかまで覆って動けなくなるだろう。だからベクアのこれは魔法ではないのだろう。しかしそうなるとこれは一体なんなんだ?
「はぁ…はぁ…」
ベクアの氷の鎧が何なのか考えている場合ではない。やばい…多分どこかの骨にヒビが入り始めた。今は興奮状態なので痛みはあまり感じないが動きが鈍くなってきている。
「ゼロス…何を隠している?」
「なんのことだ?」
「こんな絶望的な状況なのにお前の目は死んでねぇ…何を企んでいる?」
「何ってそりゃ…勝つ方法だろ」
「お主はこの状況で儂ら2人を出し抜いてその球を持って帰れると思っているのか?」
「確信している」
「へぇ〜」
「ほう……」
勝つためにわざわざソフィに暗号を送ったのだ。そして魔力感知によるとそろそろソフィの準備は終わるだろう。正直、これは魔法に疎いこの2人だったから、ここまで上手く事が運んだ。エルフがいたら失敗していただろう。
『ゼロ兄様…できました』
「ふふっ……」
「何を笑っている?」
つい作戦が思っていた通りに進んでいるので、つい顔に出てしまった。しかし作戦はまだ終わっていない。気を引き締めないと。
「お前ら上を見ろ」
「は…?」
「む…?」
普通はこんな誘いに乗って上を素直に見ることは無いだろう。しかし魔法に疎いこの2人でも感じられるほどの何かが上にあったため素直に上を見た。
「さぁ!3人で仲良く場外に行こうじゃないか!」
「ゼロス!てめぇ!」
「そうくるか…」
そして上を見ると雷の槍が何百という単位で現れ、地面に降り注いだ。その槍は全て下に降り注ぐわけではなく、こちらに向かってきている。
「ちっ!」
「これは…無理じゃのう」
2人はそう言って俺から距離も取って急いで雷から逃げるように離れて行った。さすがのベクアでもこの量の雷を全て殴り消すことは無理だろう。
「光エンチャント!」
そして俺は火エンチャントを光エンチャントに変え、スピード重視の雷と光のダブルエンチャントにして自軍に向かって走り出した。
「あっ!」
「むっ!」
そしてそれを見たベクアとグラデンは急いで俺を追いかけようとしたが、全ての雷が俺の方向に向かっているのを見てそれをやめた。きっと俺がこの雷の中で生き残れないと思ったのだろう。
「何っ!?」
「これは…してやられたな」
しかしその雷は全て俺に当たっても吸収されるので無傷だ。今から俺を追うとしても俺の近くは雷が大量にあるし、トップスピードになった俺には追いつけないだろう。
「なんだ!あれは!?」
そして自軍が近くなると、雷を受けながら走ってきている俺を見て、俺達の球を取ろうと攻めていた人達は慌てだした。そして慌てて雷が当たらないように逃げた。雷魔法は珍しいので耐性は誰も持っていないだろう。そのため、この終盤近くにこれが当たってしまうと下手すると一撃退場だ。
『解除します』
俺達のチームの人は作戦を知っているので逃げはしなかった。そのためこのまま走っていくと雷が当たってしまう可能性がある。だからソフィの合図とともに雷は全て消え去った。しかしもう台座まで10数メートルのため誰も俺を止めることはできない。そして俺はそのままエルフの球を台座に置いた。
『試合終了!サバイバル戦1位!リンガリア王国!』
「「「や、やったー!!」」」
「はぁ…はぁ……」
俺はそのアナウンスと仲間が喜んでいるのを聞きながら倒れるように横になった。
「おつかれ…」
「お、おう…」
そして俺が倒れると何故か倒れる場所で正座していたシャナに膝枕をされた。
「ゼロ兄様、お疲れ様です」
「ソフィもシャナもおつかれ」
最初予定していた作戦通りには全くいかなかったが、何とか優勝することができた。
『では舞台内の人は場外に出てください』
「じゃあ…行くか…」
「はい」
「ん…」
落ち着いたら体のあちこちが痛くなってきたので早くこの舞台から出て傷を治したい。でも傷は治っても消費したスタミナは治らない。舞台を出たら回復魔法をエンチャントするか…。
「よお!ゼロス!」
「ベクアか…」
舞台を出ようと歩き出したら後ろから声をかけられて肩を組まれた。俺はベクアに気に入られてしまったのだろうか。
「サバイバル戦は俺達の完敗だ。歳の近いやつに負けるなんて初めてだぜ」
「そりゃどうも」
「ただな…」
おちゃらけてはいるが、ちゃんと負けを認めることに驚いた。そして今度は急に耳元で真面目なトーンで話し始めた。
「あれがお前の全力に近いってなら代表戦で俺には絶対に勝てないぞ?」
「え?」
「代表戦ではゼロスにだけは負けるわけにはいかない。だから本気でいくから覚悟しとけよ」
そう言うとベクアは舞台を出て行った。ベクアはあの氷の鎧以外にまだ隠していることがあるのか…?
「ゼロ兄様?」
「ごめん、今行く」
急に止まった俺にソフィが声をかけてきた。何かあったと悟らせないために普通を装ってソフィ達と一緒に舞台を出た。正直言うと精霊魔法を使ってはいないがあれがほぼ全力だ。そして欲を言うとエルフの前では精霊魔法を使いたくはない。そもそも精霊魔法を使ったところでベクアには勝てるのか…?
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