ぺろっ…これは自動販売機のタネ…!

ちびまるフォイ

自動販売機の幸せのタネ

子供が土を盛っていたので気になり声をかけた。


「きみ、なにやってるの?」


「自動販売機のタネをうえたの」


子供は盛った土に水をかけている。


「そうかい。頑張りなよ」


子供らしい考えだなと微笑ましく思った。

数日後、土からは双葉が顔を出していた。


「やあ、おめでとう。芽が出たみたいんだね」


「うん。もっとちゃんとお世話すれば自販機になるよ」


「ははは。それは楽しみだ」


おおかた、自販機の下に落ちていたひまわりのタネとかを

自動販売機のタネなどと勘違いているのだろう。


実際に花が咲いたときには、その花がどういうものなのかレクチャーしてやろう。


数日がすぎると、見慣れない自動販売機が出来上がっていた。


「あ、おじさん。見て! 自動販売機ができたよ!」


「うそだろ……」


飲料会社のロゴもなく、形も整っていないし、「つめた~い」の文字も子供が書いたようにふにゃふにゃだ。

けれどそれは間違いなく自動販売機。


「飲み物は……まだお茶しかないんだね」


「まだつぼみだもん。これからもっと増えていくよ」


「まじか……!」


道端に咲いた自動販売機を見てもまだ信じられない。


「あのさ、自動販売機のタネってまだあるかな?」


「あるよ。おじさんも育ててみたいの?」


「うん。もらっていいかな?」

「いいよ! はい!」


見たことのない形状のタネだった。

さっそく家の近くに専用の土を準備し、大量の肥料と栄養剤とともにタネを植えた。


「さあ、育ってくれよ~~!」


ネットで自動販売機の育て方を調べまくって、最良の環境を与え続けた。

すくすくと自動販売機は育って気がつけば子供の育てていた自販機よりも豪華になっていた。


「見ておじさん。ぼくの自動販売機、お茶が出るようになったんだよ」


「ほうほう。それじゃおじさんの自販機も見てみるかい?」


「すごいね。なんかネオンに輝いている」


「はっはっは。そうだろう。品揃えも君よりずっといい。

 それに食べ物だって売っている。金を惜しまず注ぐのがコツだよ」


「でもぼくは自分の自販機のほうがいいや」


「むっ……」


ゲーミングPC以上にギラつく自販機に目もくれず、子供は自分の自販機に水をあげにいった。

子供らしい負け惜しみだと思ったが悔しい。

明らかに子供の自販機よりも性能も品揃えも勝っているのに。

もんもんとしながら自販機の育成を続けていた。


成長する自分の自動販売機にはついにお金と釣り銭投取り出し口ができた。


「これで通りかかった人からお金を回収できるようになったな。

 どちらがより稼げる自販機なのか証明してやる」


動作チェックもかねてお金を入れないで釣り銭返却レバーを下げた。

なぜか釣り銭取り出し口からジャラジャラとお金が出てきた。


勘違いかと思って何度もレバーを下げてみると、下げたぶんだけお金が出てくる。


「す、すごい……! 俺はとんでもない錬金装置を作ってしまったんじゃないか……!?」


もっと改良すればもっとまとまったお金が手に入るんじゃないか。

研究に研究を重ねて、自動販売機をよりお金に特化するように育てていった。


よりお金が取り出しやすいように。

何なら飲み物なんて二の次だ。


「できたぞ!! これで完成だ!!」


完成を誰よりも早く子供に見せつけたかった。

ごくごく普通の自販機に水をあげている子供を見つけると声をかけた。


「やあ、今日も水あげてるんだね」


「うん。自販機は水をあげないと飲み物作れないから」


「そんな凡庸な自販機なんか放っておいて、うちのを見においでよ」


「ええ……?」


乗り気ではなさそうな子供を強引に自分の家の方へと連れて行った。


「どうだい。これぞ完成形だ。君のようなごく普通の自販機とは違うだろう!」


「……何がちがうの?」


「全部だよ! 全部! ほら形から何もかも違う!

 ここを押すとお金を好きなだけ取り出せるんだ! 最高だろ!?」


「おじさんのなんかかっこよくない」


「また負け惜しみか。はいはい、これだから子供は……」


「だっておじさんのは自動販売機じゃなくて、ATMじゃん」


「なっ……!! あのな! これは最効率でお金を引き出せるように改良してこうなったんだ!

 今に見てろ! お前のような普通の自販機よりもずっと人気でるからな!!」


「人気が出るのがいいの?」


「当たり前だ! お前の貧乏くせぇ自販機よりも、

 俺の自販機の前にはいっっぱい行列できるからな! 今に見てろ!!」


自販機のタネを途中から強引にATMに近づけた結果、

さまざまな部分がいびつになってしまったのは自分でも気になった部分ではあった。

そこを指摘されたことが許せなかった。


「明日、どちらがたくさんの人に利用されたか比べっこするぞ!

 嘘の報告してもダメだからな!! ちゃんと自販機の前に行って集計してやる!」


「おじさんはそれでいいの?」


「当たり前だ! こっちのほうが人気ってのを見せつけてやる!!」


翌日、逃げないように自販機の前にいくとちょうど子供も来ていた。


「ふふん。逃げないで来たのは褒めてやろう」


「おじさんなんでそんなに必死なの?」


「黙ってろ。集計をはじめるぞ」


自販機のボタンを指定の順序でコマンド入力すると、

普段はあたりかどうかを映し出す電子パネルに1日の利用人数が表示された。


「50人? あっはっは! しょっっぼ!! やっぱりな!

 こんな貧乏くせぇ自動販売機の利用者なんてそんなもんだよな!!」


「おじさんのは?」


「まあ、余裕でボロ勝ちだろうな。

 お前のようなジュースしか出ないごく普通の自販機よりも、

 うちのは金をいくらでも引き出せるんだからな。大人気間違いなしさ」


子供を連れて自分の育てた自販機……というかATMの畑へと向かった。


「さあ、ついたぞ」


「おじさん」


「なんだ? やっぱり結果を知るのが怖くなって引き返すつもりか? そんなことさせないぞ?」


「自販機は?」


「えっ?」


振り返ると、自販機は跡形もなくなっていた。


「うそだろ!? なんで!? 昨日まではあったのに!!」


地面には複数人の足跡と、強引に自販機と地面とを引きちぎった痕跡があった。

いくらでも金を引き出せる魔法のATMに目をつけた盗人が持っていってしまったのだろう。


「ああ、そんな……なんてことだ……! 俺が勝ってるはずだったんだ!!」


「じゃあ、ぼく帰るね」


「待て! 勝負は俺が勝ってたんだ!! 多くの人に使われているはずなんだーー!!」




子供が育てた自販機はたくさんの人を幸せにし、

自分の自販機は盗人ただひとりだけを幸せにしていた。

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