Dream:22 天幻技巧
「うああああぁぁっ!!!」
「グゴアアアアァァァァッ!!!」
砕けた氷が散らばる白銀色の草原に一人と一匹の雄叫びが響く。
「くっ・・・、ふぅっ!ここだっ!」
全力を出して尚、アルプトサウラーには攻めも守りも追い付いてはいなかった。しかし、先とは違う、確かな光を目に宿したカナタはその身体能力で持ってアルプトサウラーの攻撃をすり抜け、頭上へと飛んだ。
「グオォッ!?・・・グァ?」
顔の前で剣を振り上げるカナタにアルプトサウラーが顔を守ろうと首を回す。だが、カナタは剣を振り下ろす事無く、怪物の頭上を飛び越していく。
(ヒントはあの時、メリアさんが言いかけていた事だったんだ・・・!)
『―――変形する
メリアの言葉を思い出しながらカナタは頭の中で強く自らの武器の変形する姿をイメージして集中する。
「これが新しいボクの
叫んだ瞬間、両手に握っていた
「
声と共に光を帯び、現れた青白い棒状の物をカナタはアルプトサウラーの背後に着地した瞬間、思い切り突き刺した!
「グッゴオオオァァァッ!?」
痛みに叫び声を上げるアルプトサウラー。その後ろでカナタが両手に握っていたのは赤い柄から長く伸びる青白い穂先の長槍だった。
『そうだよカナタ、それがその
「グオオオオオオアァッッ!!!」
「
ドッゴオオオオオォォッ!!!
重い打撃音が響き渡り、カナタが後方へと吹き飛ばされる。だがカナタは地面に叩き付けられる事無く、綺麗に受身を取ってみせた。
「つぅ・・・っ、でもこれなら何とか受け止められるっ・・・!!」
そして着地と共に呟くカナタの手には彼の身の丈程もある大きな大盾が握られていた。
『ふふふ・・・。さっそくその力を使いこなすなんてさすがだよ、カナタ』
それを見ていたボクは微笑を浮かべてそう言った。当然このボク、ムーニャの姿は彼等には見えていない。カナタはボクがいなくなったと思っているだろうけど、ボクとしてはこんな面白い場面を見逃す訳にはいかなかった。
「これならきっと・・・!絶対にお前を倒すっ!!」
(早くメリアさんを町に連れていくんだっ!!)
『なんてキミは真っ直ぐで・・・、そして歪んでるんだい?』
カナタの心の声すら聞こえているボクはそう呟く。確かにカナタにとってあのメリアという女性は師事を受けた大事な存在かもしれない。だが会って一週間だ。人の絆に時間など関係ないという言葉もある。だが、果たして会って一週間の相手に死力を尽くし、命を賭ける事が出来るだろうか。
『この世界に引けを取らないくらいキミも歪なんじゃないかな、カナタ?』
一体、何が彼を突き動かしているのか。果たしてそれはメリア個人に対する感情だけなのか。その答えはカナタ自身すら理解していないのかも知れない。
『―――だからこそ面白いんだけどね、ふふっ・・・』
「ハアァァァァーーッッ!!―――
アルプトサウラーの攻撃を前に大盾を槍に変形させたカナタが槍を地面へ突き刺して跳躍する。その動きでアルプトサウラーの剛腕をすり抜け、振り抜いた大槍で怪物の鼻先を勢い良く突き刺した!
「グゴアアアアァァァァッ!!?」
絶叫。メリアの攻撃では爪の先程の痛みすら感じなかったアルプトサウラーが苦悶の声を上げる。
『―――アルプトサウラーは肉体を夢魔と融合し、生命の変わりに夢道エネルギーを源にして動く怪物だよ。夢道の力を消滅させるキミの
「まだだぁっ!!!」
槍を剣と盾に、剣と盾を大盾に変え、カナタはとてつもない集中力でそれらを使いこなし、アルプトサウラーへ攻撃を次々に加えていく。
『やはりキミを選んで大正解だったよカナタ。一見、弱々しそうな態度の裏に秘めた強い意志、そして夢道の特性、そしてキミのどこか歪な本当の願いもね・・・!!』
しかし、痛みに苦しみ、叫びながらもアルプトサウラーの動きは止まらない。
「やっぱり致命傷にはならないっ・・・。あれを使わなきゃ・・・!!」
善戦をしているように見えたカナタだがその表情に焦りの色が浮かぶ。頭の中で思い浮かべていたのはムーニャに示されたもう一つの力。
『――――さあボクを退屈させないでよカナタ。キミのその想いが生み出す力とその先を見せてみてよ・・・!!』
〜♢〜
「やっぱり致命傷にはならないっ・・・。あれを使わなきゃ・・・!!」
歯を食いしばり、僕は叫んだ。自らの意志を鼓舞するような言葉。それは既に出血と体力の消耗、そして新たな力を行使するのにすり減らした精神力と集中力の大きさによって明滅する意識を保つ為の物だった。
―――――震える両手にもう一度力を込め、僕はアルプトサウラーを睨み付ける。
限界は近い・・・。
(――――メリアさん、必ず町へあなたを連れて帰ってもう一度修行の続きをやってもらいますからね・・・!)
ちらりと見やった視線の先、青いドレスの女性の閉じられた目を見つめ、僕は心の中でそう言った。
「グゴオオオォォォッッ!!!」
何発も攻撃を加え、傷だらけのはずの肉体を平然と動かし尚、立ち向かってくるアルプトサウラー。その動きは最初に比べればかなり遅い。度重なるダメージが確実に蓄積している証拠だ。だが、それは僕も同じだった。
(――――ボクもギリギリだ、でも勝機はある・・・!!)
そして僕はアルプトサウラーの右足を見つめた。右足の付け根、不自然に癒着したような痕のある足首の部分を。
(さっきから攻撃の時、右足を軸にする度にふらついてる・・・、あれはきっとメリアさんが与えたダメージに違いない・・・!!)
それこそ僕が見付けた一つの突破口。ヤツに大きな隙を作らせ、あの力を確実にぶつける為の唯一の方法だ。
長いようで短い命の削り合いの時間。ムーニャが時を止めていた事もあり、現実に戦っていた時間は5分にも満たないだろう。だがその5分に自分とメリアという、二人分の命が懸かっているのだ。
(一か八か・・・、でも絶対負けられない・・・!!!)
そしてボクは決死の覚悟と共に飛び出した。間違いなく、今までで最高のスピード。体力的にもギリギリ、チャンスは一度きりだ。
――――――狙うは癒着し、脆くなっている右足・・・!!
「うぉぉおおおおーーーーっっっ!!!!」
猛進。まるで猪か何かのように僕はヤツの左足へと一直線に駆ける。
「グゴオオオオオオオオォォォォーーッ!!!」
迎え撃つように咆哮。アルプトサウラーの剛腕が姿勢を低くした僕へと繰り出される。その動きは傷を負って尚、早い。
「くっ・・・!
咄嗟に僕は
「ガアアァーーッッ!!!」
その瞬間、アルプトサウラーの剛腕が再び叩き込まれた。尋常ではない力が大盾を軽々と後方へ吹き飛ばす!
「くっ・・・・・・!」
完全にヤツの間合いの外へと吹き飛ばされてしまった僕は体勢を立て直し、再びアルプトサウラーの懐へ・・・、などともし考えていたとすればそれは相対していたヤツだけだろう。
「ここだぁっ!―――来いっ!”
そう叫んだのはアルプトサウラーの股下へと潜り込んだ僕。剛腕によって吹っ飛ばされたのは大盾のみ、僕は殴られる瞬間に脱出し、ヤツの死角へと潜り込んでいたのだ。
そしてそんな僕の両手に見慣れた
(やった・・・・・・、賭けだったけど出来た!
本来、武器を手放すのは戦闘において自殺行為に等しい。だがそれを僕は、もう
「これでもくらえぇっ!!!」
無防備となっているアルプトサウラーの右足へと僕は両手持ちにした
生身の肉というよりはゴム質の何かを切り裂くような奇妙な感触が僕の腕を伝う。
「グゴオオアアァァッッ!!?」
絶叫、そして右足を再び失ったアルプトサウラーがバランスを崩して地面へと倒れ伏した。
「やった・・・!!メリアさんにしごかれた
それを見た僕はすぐさま後方へ飛び退き、次の行動へと移る準備を始める。ヤツは治癒能力もある。時間はあまり無い。
「ふぅぅぅぅ・・・っ!」
戦いによる身体の痛みや疲労、メリアを助けたいと逸る気持ちを切れ切れの呼吸と共に飲み込み、深く深く息をする。そしてやっと見慣れてきたこの世界の空を僕は見上げた。
(――結局、この世界に来た理由も良く分からないしとんでもない事ばっかりだ・・・)
いつものように空へと預け、空っぽにした心で僕はそう考える。
(どこだか分からないし父さん、母さんやクーコにも会えない・・・。でも、確かな事が今はある・・・)
「”天幻解放”・・・・・・っ!!!」
心に流れる思いをそのまま乗せ、強く強くボクは願う。
(この世界にはボクの守りたい物がもう既にあって、今のボクにはそれを守るだけの力が備わってるって事だ・・・!!)
そう、無力に白装束のようなベッドへ横たわっていたあの時とは違うのだ。周囲の人の苦悩を、涙を歯を食いしばり、ただ痛み分けしたような気になっていたあの頃とは。
(ボクにだって・・・、ボクにだって人の幸せを願ってそれを守る権利はある・・・!!!)
「来いっ・・・!! ”
そして光と共に手の中に収まったのは、真紅の柄から伸びる水色の刀身が煙の様な空色のエネルギーに包まれた一振りの刀。鍔の無い、その姿はまさに一点の曇りも無く、ただ切り裂く事だけを追及したような見た目だった。それを見た僕の頭の中にムーニャの言葉が蘇る。
『―――
「――――解放した
両手持ちで構えた僕の身の丈もある程の刀から放たれる青い光がより一層強くなる。煙のようだった光は今や燃え上がる炎のように揺らめき、刀を伝って僕の全身を包んでいく。
「――――これがボクの全力・・・っ!!」
「グッ・・・、ゴアアァァッッ!!!」
そんなボクの刀から発される力の大きさに気付いたのかアルプトサウラーがこちらを向いて咆哮を挙げる。何をするのかと思った時にはその巨大な口を大きく開いてこちらに向けていた。
そして口の中でエネルギーが収束を始め、光を発する光球となって拡大していく。圧縮された高エネルギーの塊が僕の前で生成されていた。
(なんてエネルギー・・・、あれを放つつもりなのか・・・!!)
脅威を感じ、追い詰められたアルプトサウラーもまた、奥の手を隠し持っていたということだ。
(でも、ボクのやる事は変わらない・・・)
ただ己の力を極限まで高め、全力でヤツの技ごとヤツを打ち砕く。それが僕に出来る今、唯一の事なのだから。
「その技ごとお前を倒すっ!!――――くらえ・・・、天幻技巧―――――”夢幻断”ッッッ!!!!」
「ゴアアアアアアアアァァァァァーーッッッ!!!!!」
ただただ纏うエネルギーを刀身に乗せて放つ全身全霊の一振り。振り下ろした僕の
「く・・・うぅ・・・・・・っ・・・うおおぉっ・・・!!!」
ジリジリと肌が焼け付く様な熱が僕の刀の先で暴れ狂う光弾から伝わってくる。間違いなく、あの怪物の渾身の一撃だ。
(――――まだだ・・・!もっと研ぎ澄ませ・・・、力強く・・・ただ一点に・・・!!この弾もあいつの身体も全部貫けるくらいに・・・っ!!!)
僕の想いに応えるように刀身が輝きを増し、青いエネルギーが刀の先へと薄いベールのように収束していく。それを見た僕は本能的に感じ取っていた。
(―――――これなら・・・いけるっ!!)
「いっけえぇぇーーっっっ!!!」
一閃。
刀が光弾をすり抜け、青い斬撃波が僕の振るった軌跡をなぞるように一瞬でアルプトサウラーへと飛来し、そのまま消えた。
「ゴガ・・・・・・・・・ッ!!?」
否。消えたのでは無かった。僕の太刀筋の軌道の地面に深い亀裂が空き、そして・・・。
「グ・・・・・・ガギュ・・・ッッ・・・ァ・・・ッ!!?」
その延長線上にいたアルプトサウラーの頭の左右がゆっくりと離れていく。
「ガギッ・・・ギィ・・・・・・!??」
そして、ズルン、と。
呆気なく不死身のはずの怪物の胴体が真っ二つに分かたれた。そして、己に何が起きたのかも分からないままに白い異形の怪物は崩れ落ち、完全な物言わぬ屍と化したのだった。
「ハァ・・・、ハァ・・・・・・。やった、倒したぞ・・・・・・!あとはメリアさんを街に連れて・・・いったっ!?」
それを見届け、くるりと振り返ろうとした途端、膝がかくんと折れて僕は思い切り転んでしまった。
「うわ・・・、ヤバいかもこれ・・・・・・っ」
痛みに呻く事も出来ないくらいに全身の力が抜け、悪寒と共に歯がカチカチと鳴る。心無しか身体も冷たい気がする。
(―――――ダメだ力尽きちゃ・・・、メリアさんが、メリアさんがまだ助かるかもしれないんだから・・・!!)
ブラックアウトしそうな意識の中で僕は必死にそう考えて自分を奮い立たせようとするが一向に身体に力が入ってくれない。
(――――ダメだダメだダメだ・・・!!起きろボク・・・ん?)
「・・・・・・・・・・・・ぃ・・・・・・。・・・・・・・・・おーい・・・・・・!!」
(あ、この声は・・・、間違いない・・・・・・!)
そんな僕の耳に遠巻きから入ってきた声。聞き覚えのあるその声に僕は安堵して身体の力がすっと抜けていく。
(よ、かった・・・、きて、くれたんだ・・・)
そして僕の意識はどこか遠くへと霧散していくのだった――――――。
―♢―
どーも、優夢です!
とてつもなく更新が遅れましたが最新話、そして物語の中の一つの章がここで終了しました。
一話の文字数が増え、かなり長い戦闘展開となってしまったのですがここまでどうだったでしょうか?
初めての作品なのでもしこの話まで読んでくれた方はコメントを頂けると今後書いていく参考になるのでお願いします!!
また更新頑張っていくのでこれからもどうかよろしくですm(_ _)m
少年、夢中を征く 〜叶いし夢々の結末世界 End of Fairytale〜 優夢 @unknown-U2
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