第3話

「これ、どうしようか、思えば大量のアイテムってどう持っていたのかね」

『そこはゲームの仕様だから、まぁ、今回は、私が干し肉に加工しよう』


 一夜明けて、僕は目の前のブロック肉、先日倒した猪のそれを前にして苦心した。

コビットの体躯と非力さでは全てを持って行くなんて出来る訳が無い、思えばアグアドは、アイテムの制限とか無かったが、リアルじゃそうも言ってられない。

 そんな風に苦心する僕の前で肉が光ったと思うと笹に包まれた何某になり、開いてみれば、水分が抜けて大分小さくなった干し肉がそこにあった。これ幸いと笹に包み直して袋に無造作に入れて再出発、目的地なんてものがある訳でもない、宛ての無い冒険、ずっと、川を上り続けて進む以外に道は無い。


「この先、森を抜ければ何か見つかったりするのかな?」

『森を抜けなくても何かあるみたいだ、建物の……あとだな』

「建物?」

「川から外れるが、案内しよう、私の言う通りに歩きなさい」


 相も変わらず、恐ろしいモンスター達を木の裏、草葉の陰に隠れてやり過ごしていれば、男が何かを発見してくれたようだ、これ幸いと、僕は川を離れて男の案内に従い、森の中へ入って行く。


「今度は狼かよ……しかも3体とか」

『……やつら、猪と違って《嗅覚》の種族特徴があるぞ、対策を練った方がいい』

「マジかよ、とりあえず、木の上かな、くそっ、人数さえいれば雑魚だってのに」


 森を歩き続ければ今度は狼と出くわす、狼という魔物はいないので害獣のデータだとは思ったのも束の間、《嗅覚》持ちと聞き急ぎ行動を始める。一部のエネミーは

GMの裁量で種族能力を有しているかを決める事が出来る。

 そして、この狼たちはそれを持ってると言う訳だ。《嗅覚》の種族能力は知性判定を筋力の値で判定できるようになるという物、害獣の筋力は高めに設定されているので見つかるかと思ったが、幸いにして僕の方が上手だったようですぐには気づかれずに済み。気づかれる前に狼では登れそうもないそれなりに大きな木の上に上り、難を逃れる、建物址に行くだけでもこんなに大変だとはな。

 頭数さえいて各個撃破をすれば、害獣の3体程度倒せる所謂雑魚モンスターの一種だ。それに困らされるとは、やっぱりソロプレイはきつすぎる。


「さてと、ついたか……ここどういう所なんだろ」

『木造民家が大半だが、どれも盛大に破壊されているね』

「何かモンスターが襲ったとかかな?」

『その割にはに壊されてる、おそらくわざとかもね』

「わざと? というかどうやってみてるんだ?」

『君の視界を通したり、飛んでる鳥の視界を借りたりして見てるんだよ、あ、プライベートは見てないからね』

「見られたらたまったもんじゃない」


 狼が僕を見逃してくれた所で、ようやく到着した建物址、どうやら一件と言う訳では無いようで、いくつも建てられていた、男の人が言うには元々村だったのであろうとの事、ただ、つい最近何者かが宣戦布告かこの村を襲う予告をした。


『それで、村人は持って行けるだけの物をかたっぱしから荷車やら何やらに乗せて』

「この村自体はその宣戦布告して来た何某が拠点にしない様にぶっ壊したと」

『そういう事、残骸は放置されてからそこまで経ってないから建材としてまだ使えるのが残ってると思うよ、君が拠点にするには丁度いいと思う』

「そうだね、その宣戦布告した敵何某もいないみたいだし、それ以外に何か住み付いてたり…………っひ!?」

『悲鳴を上げてる場合じゃない、早く隠れろ!』


 僕はいくつもの廃屋を覗き込んでは中にあるまだマシな家具に座ったり撫でたりしてしばし探索をしてから、男の提案を飲んでここからキングダムを作ろうと思っていた矢先だ、そいつらは現れた。


 咄嗟に廃屋の陰に隠れた、僕はその姿を今一度確かめる為にゆっくり見つからない様慎重に顔を出す、そこにはやはり見間違いでは無い、その存在はいた。

 コビットである僕よりも小さな体躯、頭と腹ばかり大きく他は貧相な肢体、頭髪が無い禿げあがった頭、これだけであれば、栄養不足のどこかの難民の少年かと思う者が大多数だと思う。

 だが、その肌の色は黄色人種でも白人でも黒人でもないをしていた。

複数いたそいつらが辺りを見渡した時に、その顔が伺えた。

 尖った鼻頭と長い耳、目は丸く顔の半分程を占める大きさ、白目ばかりで黒目が無い様に見える、顔全体にニキビやそれを潰した後が残っている、複数いるその存在の一匹が手に持った兎を掲げながら、他の奴と一緒にゲラゲラと笑い合っている。

 その笑った顔の口端からのぞかせる象牙色のボロボロの歯、今この世でもっとも醜悪な存在はと聞かれた暁には、彼らと答える事が出来よう、そいつらは。


『ゴブリンだね』

「うっ……きもちわるっ、アグアドでも《醜悪》持ちだけど、これほどとは」

『まだ気づかれてないけど、ここで戦うかい?』

「いえ、夜を待ちます、アグアドのゴブリンは《暗視》がありません、あの兎を見るに今から夕飯と言った所でしょう」


 吐き気がした、ゴブリンの種族能力は相対した時に精神判定に失敗した時見た相手の気力をその場にいる《醜悪》を持つ敵の数だけ減らす能力を持っている。

 ちなみに何故か巨大な昆虫類にはこれが設定されていない、まぁ彼らには生物特有の美しさがあるもんな、ゴブリンはもう生理的に無理なビジュアルだ。

 僕はそのゴブリン達から目を逸らし、森の中へと一旦逃げ戻る、時間は既に夕方。


彼らを狙うなら……夜だ。





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