第2話

 キングダム、このゲームの醍醐味の一つである国作りの土台となる物。本来であるならば、PCの多くはどこかの辺境や辺鄙な寒村の若者という設定なんだが。

 僕は何の因果か、波打ち際で遭難していたコビットと言った感じのスタートだ。

他のクラスメイトについてを男に聞いてみれば、それぞれ協力して街や村を見つけていたり、自分達で国を作る事に前向きなんだそうだ、いずれは再開してお互いの無事くらいは確認したいもんだ、僕は別に彼らが嫌いじゃないんだ。

 よくあるけど、追放されたとか、ぼっちだったからだとかで復讐とか報復とか馬鹿らしいよな、人様にかまけるくらいなら、自分の幸せ探すよ僕は。さてと。


「僕は後、何度九死に一生を得る事に執心せねばならないのかな、GM」

『GMではないけど答えていいなら、この先もまだまだ森は続くよと答えておくよ』

「新しいキャラシートをもう三枚ほど用意しておいてくれたりは?」

『しないよ、もしそんな事態に陥ったら、私がサポートするから』

「そりゃ、助かるね」


 依然として、僕は森の中をさまよい歩いていた、そして目の前には根を巧みに操り自走している巨大植物がいる、粘液がべったりついた蔓がそこかしこに伸びており今も僕の目の前を掠めて行った、その粘液のついた蔓はその先にいた兎を掴む。

 するとどうだろう、ウサギは泡を吹き干からびていき、ミイラとなり、それも骨と皮だけまで溶けてしまうと、バラバラと地面へと捨てられるではないか、アグアドの触手は基本的にエグイ、エロとは遠い存在だ、服どころの騒ぎではないのだからな、捕まったらPC総出の早急な救出劇が始まる、それ程にヤベー存在だ、今の僕は筋力がたったの1。捕まれば、抜け出せずに奴の餌になる事だろう。

 幸い、植物系の知性も基本的に1とか2だから、見つからないと思うけど。


「しんどいなぁ、遅々として歩みが進んでない気がする」

『そんな君に朗報だ、この先、右へ曲がり数メートル先に河がある』

「飲料に耐える水か?」

『残念ながらそのまま飲めば腹を下すだろうね、だが煮沸すれば飲める』

「それが聞けただけで十分」


 少し男の言ったことが分かった気がする、ゲーム内では他のプレイヤーと遜色なく一緒に移動をこなしているが、コビットの平均身長は小学生も同然なのだ、その歩みが遅いのは当然だが、疲労もかなり厳しいというものだ、それでも何かを求めて行くしかないと思っていれば、嬉しい報告が上がった、僕は駆け足で水場へと行く、そこには。


「なんであんなのいるんだよぉ」

『あれは、ワイルドボアか、一応倒せると思うよ』

「僕と貴方の想定通りに行けばですけどね」

『やられても、サポートはする、やってみるんだ』

「分かりましたよ」


 木の裏の陰に急いで隠れ水場で悠々と水を飲む、太った猪を見るアグアドでは害獣の類もモンスター扱いされてたりする、ちなみにデータ名は害獣。

 アグアドはこういう所あるんだよな、具体的な名前を出さずにその部分をGMの裁量に任せるエネミーデータ作りをしている所が節々に存在する。

 一応、男が言うには倒せる相手、僕もそう思う、というかここまで出て来たのも実を言えば、倒そうと思えば倒せる敵ばかりなのだ、さてと、やるか。


「猪ってどこが急所何だっけ? あれ、光ってる? 技術の効果的な物か?」


 背中に担いでいたボウガンをなるべく音を立てないように構える、ボルトを装填し猪の何処を狙おうかと思っていると、前脚の付け根辺りだろうか、そこが光った。

おそらく習得している技術の効果か何かだろうか、とにかくあそこを狙えばいいか。

 よし、落ち着け、……本当に僕に殺せるのか? 別に殺さずともアイツが去るのをここで眺めて、その後に水を飲めば……


『君は、私の招いた物で申し訳なく思うが一人だ、今は一人で全てを解決しなければならない、サポートはするが全てに便宜を図る様な過保護をする気は無い、引き金を絞れ、その手で生きていくんだ』

「…………っ!」


 男の言う通りだ、僕は今一人だ、厳密には男が話し相手になってくれるから一人ではないのだが、所詮、男は話し相手にしかならない、僕は自分の身をある程度自分で守る必要があるんだ! 瞬間、僕は引き金を絞った、耳をつんざく風切り音がしてから、そのボルトは猪の胴体に命中、光っていた部分には当たらなかったか! 猪はどこから射撃が来たのか分からないと言った感じに辺りを見て嘶いている、気づいてない、気づいてない筈だ。


 シモヘイヘビルドの真骨頂はここにある。隠密状態の僕を看破しない限り、敵は僕がどこから攻撃してきたのかが分からないのだ。更に言えば隠密状態からの攻撃は回避不可の攻撃になる、防御されてダメージそのものを軽減はされても当てる事さえ出来ればダメージを恒常的に与える事が出来る、つまるところ。


「へへ、このシモヘイヘビルドは僕が考えた最高傑作の一つなんだ、猪ぐらい……」

『調子には乗らないで置くように、ほら、捌くんだ』

「そ、そこまでやらないとなの、うえっ……無理」

『まぁ、血を早々見ない日本人じゃ血抜きや解体は酷か、仕方ない』


 もう一発、嘶く猪に向けてボルトを撃ち込み、今度は足の付け根部分に見事命中。

必殺が出たと言う所か、必殺が出た場合はダメージが一律10点になる。アグアドのHPと言える概念は例外が無ければ、基本的に10点だ、さっきのダメージもあったに決まってるので、倒す事は用意だった。

 

 まあ、解体は男頼みだったが、その日は猪のステーキを食べた。

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