第4話

「呑気にウサギを丸焼きにして、悠長な奴らだ」

『ゴブリン相手に徹底してるね』

「万が一、見つかったら、明日のアイツらのディナーは僕だからな」

『その通りだ、初めての人型モンスターだが、撃てるか?』

「あれと僕達を一緒にしたくないな、撃てる」


 すっかり日が落ちて月が登った森の中、僕は廃村の一画をクロスボウを構えて睨みつけていた、そこには夜になった森を唯一照らし出す、赤い光、炎が緑色の化け物達を照らしながら、そいつらの夕食であろう、ウサギを焦がしていた。

 皮を剥ぐとか血を抜くとか、部位ごとに分けるとかしてない、枝ぶりのいい棒に串刺しで焼く、ワイルド通り越して馬鹿みたいな調理法だ。


「この距離で樹上の僕を見つけるには《暗視》かそれ用の技術が必要、後は精密射撃

と必殺射撃を組み合わせて、奴らのやたらとでかい頭を……撃ち抜く」

『お見事、一体に命中だ、残り二体』


 僕の今いる所は廃村から少し離れた所にある大木でクロスボウを構える余裕のある幹に跨るように座っている、事前に隠密判定をしている僕、更にはこの暗闇が僕を隠してくれている、負けは無い、このまま、全員撃ち抜く。


『二体目撃墜、成程、こりゃシモヘイヘだ』

「成長して仲間もいれば、殺戮の丘だって作ってやれますよ」

『三体目、着弾、まだ立ってるね、こっちには気づいてない』


 一体目を撃ち抜いてすぐにボルトをつがえて二体目を撃破、案の定、彼らゴブリンはどこから飛んできたかも分からない射撃に怯え、炎を背に辺りを見渡している頭の上はお留守の用だけどな、しかし三体目だけはやけに硬かった、ボスマーク付きか?

 アグアドのクライマックスや戦闘の中にはボスマークがついてると言う敵をGMが出す事を選択できる、ボスマークがついてる敵は気力を使用して体力を回復させる、根性や第二形態、まぁ名前はGMの趣味で色々だがそういう特殊な技能を持つ。

 ただ、これによる回復方法は。


「ゴブリンはレベル2だ、気力での回復は二度しか出来ない筈」

『3発目、着弾、当てるねぇ、ようやくくたばったみたいだよ』

「ふぅ、ゲームでもコビットの、命中判定ダイスは多い、文字通り、数撃ちゃ当たるって、訳だ」

『うんうん、でも君がいるここは……今日くらいはいいか、お疲れ様』


 男は僕にここはゲームの世界では無いという事をもう一度言おうとしたが、途中で止めた。勝利に水を差すような真似はしたく無いと言う所か。とにかく倒し終わったという事を確認するべく、樹から降りて廃村の方へ向かう事に。


「本当に死んでる……よな」

『ああ、近づいても平気だろう、とりあえずボルトを回収しなよ』

「ひ、引き抜かなきゃいけないのか」

『使い過ぎれば、王国の無い今、弾丸は浪費していくばかりだよ』

「う、うう……たとえ、ゴブリンとは言え、成仏してくれよ」


 男と一緒にゴブリンの死体が転がる所までやって来る、ゴブリンが点けていた焚火が彼らの死体を赤く照らしている、いや、赤いのは血の色か、深く刺さったボルトが、彼らを殺したというの事実を僕へ教えてくれる、本当に殺さなきゃいけなかったのだろうか、彼らだって闇雲に誰彼襲う訳でも無いだろうに。


『ここを拠点にするのならば、ゴブリンを殺す必要はあったよ、そうでなければ君は逃げても良かった、だが、この選択を後悔するのはもう遅い、覚悟を決めるんだ』

「ちょくちょく、心を読むよね、アンタ」

『プライベートは読むつもりは無いよ、ただ悩んでるなら声はかけるさ、ほら、死体の方は処理してあげるよ』

「ありがとう……寝るとするか」


 男が話しかけて来る、覚悟……か、ゴブリンは見目がアレだったから躊躇なく倒す事が出来た、だがこれが人間だったら? こんな事が出来るか、こちとらつい先日まで平和ボケした日本で暮らして来た高校生なんだ。


『別に殺せとは言わない、ただ生きる為には、手段は選べないよ』

「選べるように、早く文化的な生活を送りたいですね」

『私も君達がその域まで達する日が早く見たいねぇ』


 こうして、僕のひとまずの戦いが終わった。



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