第2話

「…………ここは?」

「初めまして、全員、目を覚ましたようだね」


 意識が回復する、直近の記憶の内容を思い出す、ゲームマスターにシーンの移行を伝えたんだっけか? いや、そこじゃない、確か。


「君達は、対向車線から来た暴走車を避ける為にブレーキをかけ曲がろうとしたバスの乗客だった、そのバスは丁度山中を走行しており、その山中にあるガードレールを突き破ってしまいそのまま森の中に転落、本来であれば、君達○○高等学校2年生33名及び教員そして運転手とバスガイドは不幸な転落事故で死去な訳だが……」


 目の前にいるサスペンダー姿の胡乱そうな男が口を開けば、それはここにいる全員の身に起きた出来事であった、そうか、僕達は死んだという事か、ではここは天国か地獄なのだろうか?

 ただ、僕以外の生徒はこの事実に顔を赤くして憤慨する者、青ざめて泣き出す者と三者三様十人十色な反応を見せていた、僕の様に冷静でいる方がレアケースか。


「まぁ待ちなさい、その怒りも悲しみも私には大層分かるから落ち着いて私の話を聞いて欲しい、そもそもが君達はあの場で死んでいい様な魂では無く。素晴らしい可能性を持つ若者なんだ、だからこそ私が拾い上げたのだからな。地球の神はときにこうして悪戯半分で人を殺す。そして笑い転げ悦に浸るような性悪なんだ。そのくせ格は誰よりも高い、神界の住民が全員、頭を抱える程の問題児なのさ」


 胡乱な男はどうやら神様とかそういう存在で、僕達をこの場に呼んだのは生徒の怒りや悲しみに寄り添う為なのだとか、さて、どう寄り添うつもりなのかと言うと。


「肉体は失われてしまっているからな、魂のみで、私の世界に君達を転生させようと思う、その方法もこちらで提示するよ、私の世界で生きやすい様に便宜も図る」


との事だ、つまるところ。


「異世界転生って奴か! 俺達スゲー奴なんじゃね」

「うおー、ちょっと燃えるじゃん! まぁ、死んだのは癪だけど」

「日本と違う世界って奴でしょ、不安なんだけど、化粧品とか美容品とか」

「そこは現代知識チート的な感じで、頑張ろうぜ!」


 異世界転生か僕の読むライトノベルでも定番ともいえる展開だ、よもやそれに自分が関わる事になるとは思わなかったが、先ほどまで三者三様に怒りや悲しみやらを言っていたクラスメイトは、若干の不安を抱えるものもいるが、おおむね興奮している模様だ。さて、そんな皆の姿を満足げに眺めながら目の前の男は問題発言をする。


「皆肯定的な意見が多くて嬉しい限りだ、それでは4~6人で組むといい、気心知れた者同士で転生する方が協力も話し合いも円滑に出来るというものだろう」


 こうして、修学旅行の班決めの悲劇が再び始まった、この転生にはバスの運転手やガイドさんもいない、何故いないかと生徒の数名が問いたが、全員拾い上げると地球の神がご立腹になるそうだ、いくらかはわざと拾い上げず、地球の神の笑いの種にしてやらねばなと来たものだ。その中でも若いとは言い難い、運転手とバスガイドさんが選ばれてしまったという事か、無事成仏してくれるといいのだが。


「うむうむ、では集まった者から順番に送っていくので、健やかな生を生きれる様に願っているよ」


 もともと、修学旅行の班決めがあったので、それを中心に決まっていく。やがて何も無い空間には、目の前の男と僕以外に残っていない様に見える様になってしまう。


「ふむ、残りはきみだけかな? やはり出る物だな、孤独、孤高の者とは」

「過去に何度かこういう事を貴方はしたので?」

「私では無いが、別の神などの経験談を聞かせて貰ったことがある」


 二人だけになったという事もあり、僕は胡乱な男に話しかける。わりと他の神とも付き合いがあるらしく、別の世界の神様の話を聞いた所、その中には全員を一斉に転生させたら一人が放逐され、惨たらしく死んでしまったという事件があったとか。

 逆に追放された事に憤慨して復讐だと称して、クラスメイト全員を最終的に惨殺し更にはその世界の国やら何やらを崩壊にまで陥れ魔王と呼ばれるようになったとか。

 なんというか、どこの小説の話ですかと問いかけてしまいそうだ。

まあ、今の僕の状況もその小説の様なというか、そのものなわけだが。


「ああして、気心知れた人物で分かれるようにいったのは、現地で追放等が起きない様にする為だ、私は人の心程度なら察する事も出来るしな」

「で、一人の僕はどうなるのですか?」

「うむ、他の物も最初のうちはいくらかサポートする予定だったが、君の場合はいくつかの救済措置も視野に入れてサポートしようと思う」

「わかりました、とりあえず、送っていただければと思います」

「うむ……向こうでは短い生と言えどあまり報われぬ生を生きていた様だな、今生においては幸福な人生を送れるよう願っているよ」


そして、僕は再び気を失い、二度目となるシーン移行を味わう事になるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る