第3話

「…………うう」


 二度目の暗転から目を覚ます、最初に目についたのは目前に広がる青い海。

次に辺りを見渡せば、後ろには森が広がっていた、そして自分を見てみれば、バスに乗っていた僕の姿であった、話が違うぞ。僕の肉体はバスの転落事故で無くなった筈じゃ?


『それは仮初めの肉体だ、今から君にはこの世界での肉体を作って貰う』


 僕の頭に声が響く、あの時の男の声だ、この体は一時的にこの世界の様子を見て貰う為に作られている仮初めの肉体で、数時間のうちに崩れてしまうのだそうだ、なら、早く新しい肉体を作るべきだ、作るにはどうすればいいのか。


『シート閲覧と声に出すのだ』

「シート閲覧…………って、これ」


 男の声に従いながら、僕は目の前に展開された羊皮紙の様な物を見る、全ての欄は空欄であったが、書体や書かれている物、それらは。


「アグアドのキャラシート?」

『ほう、どうやらこれについて君は知識があるようだ、私の世界は地球の界隈で流行っていた、てぃーあーるぴーじーのとある作品を踏襲しているんだ』

「ファンタジーなら、もっといいのがあった思うんだけどなぁ」


 アンダー・グラウンド・アドベンチャー、通称アグアドと呼ばれるこの作品は、他のファンタジー系のTRPGの陰に隠れがちで、ぶっちゃけ不人気な作品である、僕の知り合いでも遊んでいるのはコアなファンくらいという物だ、まぁ、僕もその一人な訳だが。


 アンダー・グラウンド・アドベンチャーは、大地震により突如生み出された広大に広がる地下世界を仲間と共に冒険するゲームである。

 一つだった大陸は大地震による地殻変動によりいくつにも別たれてしまった、人々は再び大陸同士の繋がりを作ろうと奔走する時代。地下世界を探索し、その手に財宝を手にし、村を作り街へ発展させる“先導者”となり、自分だけの国を作り上げよ!


 と言うのが裏表紙にかかれた内容である、冒険の要素もあると同時に国作りをする要素も混じった感じである、しかし、アグアド、アグアドかぁ。


「アグアドのソロプレイとか鬼畜以上の何物でもないじゃん」

『それは、本当に済まないと思っている』


 アグアドは最低3名のPLでやれるが、ほとんどのアグアドPLは5人以上でやるのが絶対条件と言う。僕もそれが最も望ましいと思っている、それほどまでにこのゲーム多人数が優位になるゲームなのである、と言うのも、やれることを一人一人が特化させてかないと。冒険でまともに攻略が進まず、躓き、結果国作りも遅々として進まなくなるのだ。つまり今の僕の状況は、絶対絶命という奴だ。


「まぁ、アグアドをする訳じゃないしね、どこか国を探してひっそり暮らすとかね」

『君の今いる、大陸に国と呼べる者は、その……無いんだ』

「さてと、別のゲームのキャラシートを用意してくれ、死ぬから」

『諦めるのが早く無いか!?』


 ああ、どうやら、ハードを通り越してエキスパートな第二の人生を送るしかない事が決まったみたいだ、人生に本来は別の世界のキャラシートなんてもの無いよな。

こうして与えられてるだけ奇跡なんだよな。覚悟を決めて、ソロでなんとかこなせそうなキャラを作るしか無いか。となると、和マンチも辞さないとするとしよう、さてさてキャラ作成……まぁ、僕の最高傑作のあのビルドにするとしよう。


「あ、種族能力、修正してる? それに職業二つ目選択していいの?」

『うむ、デメリットになりそうな物は排除している、いっただろう、生きやすい様に便宜を図ると、職業二つ目は君が一人だから君だけの特典としてだ、他の子達は職業は一つだよ、考えて選ぶようにね』

「なら、これを……こうして……一応、一人でも何とかなるかな? まぁ完成」

『それでは、これを元にして、君の魂を受肉する、目をつぶりなさい』


 僕は男の命令に従い、目を瞑る、そうすれば、不思議な感覚、宙に浮いている様な目の裏で何かが光るようなものを感じ取り、男が目を開けてもいいと言った後に目を開ける、目の前には姿の確認用に鏡を一時的に用意したと言うので僕を見る。


 身長は小学生くらいしかないのではと思う程の小ささ、設定上125cmに設定したし当然なのだが、元の塩顔が女性的な丸みを持った感じになった気がする、女装をした日には少女に見える事だろう。服装はこの世界の一般的な服装に加えて腰にポーチをつけてる他、フード付きのポンチョを装備している、このポンチョに隠れているが、背中にはクロスボウとその弾丸たるボルトを仕込ませて貰っている。

 まぁ職業が射手だからね、技術の構成も射撃攻撃で優位に立てる物を選んだし。

 そして目の前には野宿に必要な物があらかた入っている袋、アグアドにおいて探検セットの名前で呼ばれる物だ、具体的な中身は? と聞かれても、アグアドの説明文がこれなんだから、そう言うものとしか言えない。まぁ色々だよ、色々。


「うん注文通り、ただ、ちょっと顔は更に童顔になった感じがするけど」

『そうかい? まぁ気にしないでくれたまえ、しかしコビットか、他の子達は選ぶ事をしなかったね、低身長は嫌なんだと』

「アグアドは本来ソロを想定してないけど、貧弱が無いなら、僕はコビットを選ぶ。隠れ逃げ続ければ一番生存率高いし」


 まぁ僕個人がコビットが好きと言うのもあるが、さて、コビットとは何ぞやの答えだが、所謂小人である、指輪物語で有名なトールキン先生の著作でしばしば重要な役を与えらえられる存在としてご存じの方もいるのではなかろうか、というかTRPGのファンタジー系の作品はトールキン先生の作品に大なり小なり影響されてる節がある

 アグアドも例に漏れずそんな小人的ポジション種族がご用意されている。

 平均身長130cm程度、足裏の皮膚が硬く裸足でも荒れ地を歩くことを苦としない。それ以外に特徴は手先が器用で身軽。半面、糞雑魚な筋力という感じだ。これ以外にもアグアドには多種多様な人間以外の亜人が沢山いる、他の種族についての説明は出会った時にでも。


 亜人やモンスターには人間が持たない種族能力という特殊な能力をいくつか持つ、コビットならば《身軽》《小柄》《暗視》《貧弱》この4つである、《身軽》は敏捷と言う能力値を使った判定に補正が入る。

 《小柄》は敵のこのキャラクターに対しての知能判定にペナルティがつく要は舐められてるとか、小さくて気づかないとかそんな感じなんだろう。《暗視》は読んで字の如く暗闇でも視界良好になる。

 最後に《貧弱》これが最もきついもので。体力という0になると死んでしまうステータスが常に-3され、更に武具の装備に制限がかかる、具体的には筋力の半分以上(切り捨て)の重さが設定された武具は装備不可。ちなみにコビットの初期筋力は1なので、実質成長させないと武器が持てない。


「《貧弱》さえ無ければ、コビットは優秀なんだよ、アグアドのシモ・ヘイへと呼ばれた事さえあるコビットを作成したことのある僕が言う」

『そうか、まずは向かいの森で敵を倒したり、探索をして成長点を得てみよう、さぁ君の冒険を始めよう』

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