第六章 今度は前線から追放です!
第一話 前線から追放されました!
「エイダ・エーデルワイス、恥ずかしながら戻って参りました!」
ここは戦火咲き乱れる最前線。
彼方にて着弾した高射魔術は、エイダの宣言と同時に大輪の火花を咲かせる。
轟音は地を
赤々と双眸を燃やし、颯爽たる表情を見せる彼女には、まさしく戦場の天使という二つ名がふさわしい。
永久氷結魔族領アシバリー凍土。
しかし、この地に居合わせた223独立特務連隊の面々は、ただ唖然と目を見開くこととなった。
戦闘中であることすら忘れ、
何故?
エイダの神々しさに
答えは否である。
「……正気か?」
エイダと旧知の間柄である特務大尉、レーア・レヴトゲンでさえ当惑とともに咥えていたタバコを取り落とす。
そんな微妙極まりない反応を受け、白き衛生兵がこてんと首を傾いだとき、
「あ、いた!」
「こっちだこっち!」
「見つけましたよ、
大声とともに、一目で衛生兵とわかる者たちがエイダの元へ殺到してきた。
屈強な男どもに、抵抗する間もなく担ぎ上げられてしまう少女。
これにはさしもの彼女も取り乱す。
「なにをするのですかあなたたち!? ザルク少尉まで加担して! 放してください。私にはやるべきことが――」
「寝ぼけたことを仰らないでください!」
ザルクと呼ばれた士官が、悲鳴をあげるように彼女の言葉を遮った。
「まさか、ご自身の立場が解らないのですかっ?」
「……あなた方の、上司では?」
「中将相当の、が抜けてますな!」
士官たちは、蒼白な顔色で頷き合う。
「常識で考えてください。最高司令官が最前線に、出張ってよいわけがないでしょう!?」
「しかし」
「後方での視察だけという約束でした」
「ですが」
「しかしも、ですがも、へったくれもありません!」
さらに言い募ろうとした少女の声は、衛生兵たちの懸命極まりない声にかき消される。
彼らは必死だった。
上官を無事に連れ帰りたいただ一心だった。
「エーデルワイス閣下、ご帰還を願います」
「閣下はやめてください。分を弁えていないようで恥ずかしいので」
「恥を知るというなら、自分どもの首が飛ぶことを恥じて下さい。だいたい、あなたの教えを待っている者は山といるのです。さあ、軍学校へ戻りますよ……!!」
「待って、待ってください! まだ貴重な情報の収集が、衛生と防疫、兵站の管理が――」
なおも言い募るエイダだが、もはや聞く耳を持つ者は誰もおらず。
わっせわっせと神輿を担ぐようにして、彼女は後方へと連行されていった。
嵐じみた一連の出来事に遭遇したレーアは。
「……戦場の狂気よりも、あれのほうがよほど狂っているのではないか?」
無情な世界へと、哲学的な問いを投げるのだった。
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