第六話 それからの皆さんです!
激動の時代、戦火の時代。
人類と魔族が相争い、長く続く戦争を、人々は〝終わらない大戦〟と呼び怖れた。
そんな戦いの中で、いくつもの命が巡り会い、別れ、そして繋がっていった。
かつてエイダ・エーデルワイスが所属していた烈火団は、いまや影も形もない。
不死身の英雄ともてはやされた彼らは、静かに歴史の表舞台から姿を消した。
「ちょっとガベイン、しっかり足下を支えてよね」
「これはすまぬのだニーキタ。しかしドベルクが」
「俺の所為かよぉ? それにしても、色艶がいいんだなぁ、これが!」
未開地の開拓に向かう民草の中に、彼らとよく似たものたちの姿を見た――という噂がある。
憑き物が落ちたように明るく、朗らかになった彼らは、いまリンゴを栽培しながら暮らしているという。
それは、エイダ・エーデルワイスの好物であるアップルパイの材料であり、贖罪のために作り続けているとも語られるが……真偽は不明なままである。
あくまでも、風の噂に過ぎないのだ。
エルク・ロア・ページェントは、大いに反省をすることとなった。
自らが敵陣に踏み入ることで、軍部を総動員させるという彼のもくろみは成功に終わったが、一方で家族を悲しませるという結果が、エルクの企図したものとは正反対だったからだ。
「ぼくは、非力でしたね。思っていたより、かしこくもなかった」
死地を超えて猛省した彼は、いま肉体の鍛錬に勤しんでいる。
自らの父と同程度の武力を手にできるように、いざというとき、大切な人たちを守れるように。
なによりあの瞬間に見た、奇跡のような黄金の輝きへと手が届くように。
「レーアさん、いずれ成長したぼくをご覧に入れます。きっと一軍の将になって、戻ってきますから」
この頃から、エルク・ロア・ページェントは万が一の場合を想定し、冒険者を選り抜いて〝私兵〟を構築しはじめる。
この私兵が、魔族との一大決戦において意外な活躍をすることを、まだ本人も含めて、誰も知りはしない。
ヨシュア大佐は、ひたすら仕事に追われていた。
持ち前の有能さと、人当たりの良さは彼にとって不幸なことに、便利屋としての認識を確固たるものとした。
亜人部隊の人員補給、選抜試験、衛生兵を志願する者たちの調整、各種部隊からの応援要請の判断……おおよそ、人事課としてトップクラスの職務内容のなか忙殺されていた彼は、それでもエイダ・エーデルワイスや223連隊を蔑ろにすることはなかった。
どこまでも誠実に、どこまでも公正に。
ヨシュアという軍人は、己の役職のうちにおいて戦い続けたのである。
慢性化した胃痛はいよいよもって耐えられないものとなっていたが、のちに彼はひとりの聖女と出会い、この病から解き放たれることになる。
ベルナデッタ・アンティオキアは依然として教会からの出向を続けていた。
大聖女へと推薦がいくつもあったにもかかわらず、彼女は現場にこだわり続けた。
一説によれば、それはレインの地に忘れ去られた天使の姿を見いだしたからだとされている。
彼女の奇跡行使者としての腕前は日々成長を続け、その蘇生率は九割を超えたという記録も残されている。
ベルナデッタについての逸話は多いが、側近が用意した紅茶を彼女がうっかり飲み溢してしまったとき、それに触れたものの傷が癒えた、というものがある。
嘘か誠かはわからない。
だが、いかに彼女が将来を嘱望され、教会や他の聖女、回復術士たちからの信頼が厚かったかは、どこまでも明らかだった。
世界中から物資が集まり、野戦病院だけでなく、多くの医療が改善されたのち。
かの聖女は、教会へと凱旋することとなるが、そのおりに大規模な改革を行ったとされる。
このとき教会が動いたことこそ、〝終わらない大戦〟の分水嶺であったとされている。
新設された衛生兵は、もはや人類軍にとってかけがえのない存在となっていた。
あらゆる戦場でどれほどの惨禍にあいながらも、降りしきる魔術の雨をくぐって、傷ついた友軍を必ず連れて戻る。
はじめこそ
汎人類連合軍の人的損耗は大きく抑えられ、結果として戦局は有利に展開。
魔族は衛生兵の着る白い衣を恐れ、率先して攻撃を加えたが、彼らは決して折れることなく、絶対に仲間たちを助けた。
その死を恐れず、死を遠ざけるさまから、彼らは戦場での信仰の対象となっていった。
「すべてはグランド・エイダの教練がたまものであります」
数々の戦場で功績を挙げたカリア・ドロテシアン兵長はこのように語っており、近々勲章を授与される予定であるとされている。
そして。
そして、223独立特務連隊は――
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