その頃、勇者(仮)一行は (3)
その後、拠点へと戻ったドベルクは、いの一番で聖女を呼び出した。
そうして、回復処置を受けるよりも先に、彼女へとわめき立てた。
「おまえなんだよねぇ! 俺たちが恥辱を受けたのは、全部おまえが戦闘に着いてこなかったからなんだよねぇ、これが!」
思いつく限りの悪罵を。
行き場のない罵倒を。
彼は聖女に浴びせかけ、そしてニキータたちも追従した。
「献身が足りないんじゃないの、あんた? 信仰が足りない似非聖女じゃない?」
「よくもそれで聖女が名乗れたな! 我が輩なら恥ずかしくて実家にこもるレベルだ!」
「パーティーを癒やせなくてなにがヒーラーかねぇ! えらい聖女だと聞いていたが、所詮はこけおどしって訳だなぁこれが! 戦闘に同行しなかったせいで俺たちが死にかけたんだから、その名も地に落ちるよなぁ!」
彼らの罵声を、聖女は黙って聞いていた。
そうして、息継ぎにドベルクが言葉を止めたところで、
「解りました。では、お暇をいただきます」
さくりと、致命的な一言を言い放った。
「は――はぁ……?」
なんとも言えない表情で、首をかしげるドベルク。
そんな彼をまっすぐに見据え、聖女は頭を垂れる。
「短い間ですが、お世話になりました」
「待て」
「勇者に選出されるほど高名な皆様方のためならとお思い、ヒーラーを引き受けましたが、どうやらこちらの見込み違いだったようです」
「待てって」
「まさか、ヒーラーに戦闘へ参加しろ、などという無知蒙昧な台詞を口にするような連中とは思いもよりませんでした。見抜けなかったわたくしの、不徳のいたす限りです。では、失礼」
「待てよ!」
きびすを返す聖女の肩をドベルクが掴んだ瞬間、
「くどい!」
聖女が、激発したように一喝をした。
「あなたがたのような常識を弁えないパーティーなどこちらから願い下げだと言っているのです! 聖女を仲間に遇したいというパーティーなど星の数ほどいます。もっとも――金輪際あなた方の仲間になりたがる回復術士など、ひとりもいないでしょうがね!」
それはつまり、烈火団の悪評を彼女が広げると宣言したに近かった。
そして、それを阻む手段が自分たちにはないと気がついたとき、ドベルクたちは崩れ落ちるしかなかった。
「……では、今度こそ失礼します。せめて見捨てられたあなた方に、棄てられたものすべての味方、堕天使レーセンスの導きがあらんことを」
祈りの印を儀礼的に切り、そして聖女は姿を消した。
あとには。
「……ふざけやがって……ふざけやがって……くそ……糞が……糞がアアアアアアアアアああああ!!」
聖女にすら見限られたドベルクたちの、悲痛な怨嗟の叫びだけが、むなしく響き渡っていた。
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