大図書館
「おお、おおおおお………!」
ニコラスは目の前の光景に驚愕していた。
霧の奥に存在した世界――。
それは自分がいた世界と同じような別の世界ではなく、おおきなおおきな図書館であった。
しかしそこは普通の図書館ではなく。
綺麗に整えられた本棚から本が自ら飛び出して浮遊していたり、文字が浮き出ていたりしていた。
「まるで魔法の図書館だ……」
ニコラスはその光景に感嘆の息を漏らした。
一方でエーミールはこの場所には慣れているらしく、複数ある道を迷うことなく進んで行った。
ニコラスがエーミールに着いていくと彼は特定の場所で足を止めてそう声を出す。
「ナーサリー」
すると、図書館内の浮いた本達が二人の前に一斉に集合し始める。
「え、え、え?」
困惑するニコラス。
それを戸惑うことなく見つめるエーミール。
その本達は白い光を放ち、その光から女性の声が聞こえてきた。
「帰還が早かったね、ルーイ。またやられたのかい?」
「あぁ。
光の収束と共に現れたその声の主は、青眼の中に吸い込まれるような五芒星を右目に持ち、水色に薄くラメがかかった髪を持つ大人というには幼く、子供と言うには成長した顔立ちをした少女だった。
ナーサリーと呼ばれていた少女はエーミールの返答にやれやれ…とため息をついてからニコラスを発見し、不思議な顔をする。
「……その子は?」
「その世界での生き残りだ」
それを聞いて、ナーサリーの顔が曇り、声も一段低くなる。
「何故連れてきた?」
「説明より見た方が早い。こいつを解析してみるといい。その間に俺は次の準備を整える」
エーミールはそう言ってそそくさと奥の部屋に入っていってしまった。
「…………」
ナーサリーは少し黙ってニコラスを見たあとに微笑んだ。
「大図書館へようこそ、ニコラス君」
ナーサリーはエーミールが奥に行ったあとにすぐニコラスに駆け寄った。
彼女が近づいた時、覚えのある香りがニコラスの意識を彼女に向けさせる。
「え――」
忘れもしない。
ルシアと全く同じ香りだった。
「親近感を感じるだろう?」
「え……?」
彼女は微笑みながら椅子に腰かけているニコラスの近くに立った。
「君が私から感じる香りは私の
「スキル……?」
彼女の説明がパッとしないニコラスに彼女は少しだけ困惑の表情を見せたが、その表情はすぐに呆れに変わった。
「ルーイの奴、なーんにも説明してないんだね……」
彼女は大きな溜め息をついてから右手を上げ、何かの合図の様なものをする。
そして、一冊の本がひとりでに彼女の元に飛んでくる。
「私が作業をしている間にこれを読んでいるといい。今君が立たされている状況が記された報告書さ。まぁ所謂私の書いたご都合書だね」
「ご都合……?」
ナーサリーはいや、何でもないと笑ってから、「作業」と言っていたものに移ったようだった。
そう曖昧な表現をするのはニコラスから見た彼女は立っているだけで特別な事をしているようには見えなかったからである。
ニコラスは指示された通りその赤紫の本を開いて読むことにした。 それは調査書のような書かれ方をした本であった。
「世界の崩壊……?」
見開きから書かれるその不穏な文字にニコラスは戸惑いを隠せなかったのと同時に、続きが気になってすぐに頁を進めた。
ライターズオブメルヒェン Ai_ne @ai_ne_kakuyo25
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