朝王〜朝を支配する者〜

朝王

第一話

 朝王あーさーおう


 それは吾輩わがはいに与えられた称号だ

 その名の通り吾輩は、朝を支配する者


 時刻は午前五時前。今の時期はまだ、日の出前だ


 朝のりんとした空気は魔法がかかっている様な不思議な感じだ

 昼のゴミゴミした空気感と違い新鮮で爽やかであり

 夜の一日終わりの様な空気感ともまた違う


 街はまだ眠っている、聞こえるのは新聞配達のカブの音ぐらいだ



 吾輩がこの街の朝を支配する!


「コケコッコー!」

 吾輩の声が街に響き渡る


「コケコッコー!」

 朝を告げる吾輩の叫びがこの街の朝を支配する


 吾輩の声を合図に街が起きてきた


 二丁目の山田さんのお父さんが犬の散歩をしている

 一丁目の佐藤くんの家から出て来た彼女が名残惜なごりおしそうにしている。朝帰りだな

 五丁目の五十嵐さんはもう出勤だ。がんばれー


「コケコッコー!」

 吾輩の叫びが今日も朝を支配する


「うるせーぞ!」

 まぁ、最近は時代のせいか、そんな声も聞こえるが吾輩は朝王あーさーおう!朝を支配する者だ


 運命とは時に残酷な物だ

 この街の朝に突然、危機が訪れようとしていた


「しょうがねぇな、こんな時代だからな!」


「ごめんね、可哀想だけど、こんな時代だからね!」

 吾輩にそう話し掛けているのは吾輩の飼い主である菊池家のお父さんとお母さんだ。


「令和の時代にお前は合わないんだ許してくれ朝王あーさーおう!」


「苦情が多いの。美味しい唐揚げにするから許してね朝王あーさーおう!」


 革命が起きて吾輩は処刑されようとしているらしい

 大変だ!吾輩が処刑されては明日からこの街には朝が来ない

 お父さんが我が城の扉を開けたその時、吾輩は城外へと逃げた


「お父さん!逃げたわ!朝王あーさーおう!待ちなさい!」


朝王あーさーおう!待たんか!痛たたた、ダメだ。歳には敵わん。」


 追っ手の声が聞こえなくなった、どうやらまいたらしい

 さて、これからどうしたものか?

 当てもなく街を彷徨いさまよい歩いていると山の入口が見えた


 吾輩は閃いた!

 頂上に登ってみると素晴らしい世界が広がっていた

 この街が一望できる!

 今日からここが吾輩の城だ!

 


 朝は空気が美味しい

 朝帰りは何だか小恥ずかしくてニヤけてしまう

 朝になると嬉しい、大好きなあの人にもうすぐ会えるから

 朝一のコーヒーが美味い

 学校休んで見る朝の教育テレビは背徳感がヤバイ

 朝には誰しも色んな思い出があるはずだ


「コケコッコー!コケコッコー!」

 吾輩の声がこの街の朝を支配する


「コケコッコー!」

 今日もまた、この街に無事、朝がやって来た


「コケコッコー!」

 吾輩は朝王あーさーおう!朝を支配する者!


「うるせーぞ!」

  さ〜て、いつまでここに居れるやら?

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