第終章:還る者
急に今までよりもグッと顔が強張ったオルを前に泣きはらした顔のエダも涙を拭いて覚悟を決めたような顔つきをする。
実はオルが他の人に心の記憶を見せるのはエダが初めてだった。そのオルが約束してもらいたいこと。
「一つ、僕は救世者ではありません。どちらかというと、コートニー家は黒魔術の家系でした。僕はその血を引いていますし聖協会と対立する陣営です。
それを公表しないで欲しいんです。二つ、聖協会に僕の存在を知らせないでください。昨日から僕の情報をかき集めている人間がいることを知っています。僕は聖協会の名を騙っていますが、それを見逃して欲しいんです。三つ、この魂は陛下に返すことはできません。この日限りのものです。それも見逃して欲しいのです」
「なら母の魂はどうなるの……?」
「僕が供養します。管理ができない魂はさまようことになるので、陛下に返すことはできないんです」
「わかったわ。あなたを信じて……約束します」
「ありがとうございます。陛下……。それでは目を閉じてください。今から陛下の闇を払います」
キュポンっと栓が抜かれ放たれる綺麗な光。オルもまたエダを信じ心の記憶を見せている。エダは気づいていないがこれはオルと交わした一つの契約である。破られれば当然罰がある。眠るエダの横でオルはエダが約束した三つを裏切らないことを願うばかりだった。
グリスタの心の闇を見ることができたエダ。目が覚めた瞬間彼女は酷く取り乱した。それは懺悔の気持ちだった。「ごめんなさい。ごめんなさい」と泣き崩れるエダにオルはゆっくりと声をかける。
「深呼吸をしてください。大丈夫です。陛下は何も悪くありません」
「ありがとう、私は大丈夫よ。オル。私、母の苦しみを理解したくてたまらなかった。でも母は私が想像しているよりもっと苦しい思いをしていたのね。それを私に見せたくなくて母が自ら人払いをしていたんだわ」
エダとグリスタがどう対峙したのかはオルにはわからない。それでもどこか晴れた顔をするエダを見て、オルは自分の判断は間違っていなかったと確信したのだった。エダはオルに再度「約束は絶対に守ります。このことは墓まで持って行くわ」と約束をしてくれた。
「ありがとうございます。陛下。どうかこれから陛下の心が健やかでありますように」
「また、なにかあれば呼んでもいいかしら……?」
「もちろんです。手紙をくれればすぐに飛んでいきます。併せて約束いたします」
「ありがとう」
エダに見送られながらオルは城を後にする。城外ではバロンがオルを待っていた。宿屋に戻ったオルとバロンは今日の報告会を始めた。
「いかがでしたか? うまくいきましたか?」
「うん! 大成功だったよ! でも僕のお願い言うの忘れちゃった。僕たちの存在を隠せるようにしてもらうことでいっぱいで……」
「……左様ですか」
「バロンは?」
「申し訳ありません。あと寸でのところで刺客を取り逃しました」
「そっか……でも陛下は僕たちを黙認してくれた。これで少しは動きやすくなったね! あとこれ、ありがとう。必死に探してくれて。これはバロンのものだよ」そう言ってオルが小瓶に再びしまわれた綺麗な光をバロンに手渡すと、バロンは取り逃がしたことで腹の虫が収まらないのか栓を開け、もぐもぐと口に入れた。
「浄化された魂は味が少々落ちるようですね。あんまりこの手は使わないで欲しいものです。闇に塗れ狂い落ちた魂の方が私は好きなようです」
「人間の心の闇はソウルトメアが喰べ、そのソウルトメアを悪魔が喰べる。なんか不思議な食物連鎖だけど、バロンの力がでないとまた協力してもらえないもんね。あんまり使わないようにするよ」
「飢え死にだけはごめんですね」
クスクスとオルが笑っていると宿屋の女将がオルに手紙を届けにやってきた。
「陛下からだよ! あんた陛下とお近づきになれたのかい!? 宿屋暮らしからは想像もできない快挙だねぇ!」
「あはは……ありがとう女将さん」
さっと女将から手紙を取り返すと、そこには一言。
−親愛なるオル・コートニーへ
宰相からコートニー家と王家の関係を聞きました。王家が預かっていたコートニー領と爵位を貴殿に返還いたします。エダ・ルフニア−
と綴られていた。
ソウルトメアー始まりの話ー 蓮草 悠さ @yusya
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