第5話 〈旅空企画〉
そう、僕は、決めたのだ。
詐欺まがいの転生稼業を捨て、僕も一緒に、異世界へと生まれ変わることを。
いまや、シフォン君のアフターフォローが僕の生き甲斐だ。簡単なことではないが、日々は充実している。
あのとき思い切って、本当によかった。
本当に――。
「……で、どうです、タクト君は」
画面をのぞき込んで、ひとりの青年が尋ねた。
「ばっちり転生生活、満喫してるっすよ」
若者がにやっと笑って、親指を立てる。
「転生者のフォローをする相棒になりたいって希望はわりとレアでしたね」
眼鏡をかけた女が、少し面白がるように言った。
「シナリオ班は喜んでたな。珍しい依頼は息抜きになるって」
それらを見回しながら、年嵩の男が両腕を組んだ。
「しっかし、我が社を悪徳企業みたいにする設定、よく許可出たっすねえ」
「それでお客が喜ぶならかまわないとさ」
「でもさ、相方が実は女の子ってのは盛り過ぎじゃない?」
「そこはシフォンさんの希望だからな。性別は隠して、できる限り少年で通したいと」
――ここは、通称・転生屋、屋号は〈旅空企画〉。
異世界で新しい人生を送りたいと言う顧客の要望を細かく聞き、適切な世界を見つけて送り届け、アフターフォローも手厚い、転生業の老舗だ。
タクトは〈旅空企画〉の熱意ある新人だったが、アフターフォローが最長で一年間であることに不満を持っており、誰かの転生に最後までつき合いたいという希望を抱くようになった。そこで、彼自身が転生をすることになったのだ。
契約のことは、本人は覚えていない。そういう仕組みだからだ。タクトは、〈旅空企画〉を安易な金儲けに堕ちた会社だと思っており――だがそれはそういう「シナリオ」だから、社の誰も不服に思っていない。
シフォン君ならぬシフォン嬢はごく普通の顧客だが、長期間のフォローを希望していた。そこでふたりを合わせたのがシナリオ班の好プレー、であったかどうかは、まだ判らないところでもある。
「はーい、雑談そこまで。次のお客様のプラン練るよー」
ぱんぱん、と手を鳴らして、髪の長い女が書類を掲げた。
「ういーっす」
「ほーい」
「次はどんなんすか?」
「何々……吸血鬼の恋人になりたい? おーい、オカルト班とロマンス班ー!」
評判のいい転生会社〈旅空企画〉は、まだまだ忙しそうである。
異世界転生、承ります 一枝 唯 @y_ichieda
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