八次元 男女の友情

 皆さま、ようこそ八次元へ。今日は人と人の関係、理想のの話なんてどうでしょう。


 そうですね。皆さんのようにこうして時々遊びに来てくれて、適当に放置してくれる方は本当にありがたい存在。

 わたしは一緒に旅をすることができて、一人で内省する時間も大事にしてくれる。そして時々相手をしてくれる。そんな存在がいればなんて贅沢なのだろうと思っています。人と人の関係なんてそれで充分。

 だから蒼翠そうすい琥珀コーパルの理想のなのです。


 え? ? 恋ってなんですか?


 そういえば、SFジャンルの物語に『異種変愛奇譚』というサブジャンルがありますよね。その中でという言葉が登場したような気がします。人間にんげんとかいうが登場する、それなりに人気のジャンルなんですが。


 その中で特筆すべきは『男女の区別』という概念。


 これはSFジャンルの創作家さっかにありがちな謎のSF設定で、どうやら分岐させると組み合わせを作れて面白いという発想らしいのです。


 そうして生まれたのがSFのサブジャンル『異種変愛奇譚』ですが、組み合わせによってさらにサブサブジャンルに分岐しているのですよ。<男と女><男と男><女と女>の三つが基本。

 しかしそれに留まらず<野獣と女><宇宙人と少年><百合>など多岐にわたるのです。それぞれの組み合わせで、だと語り尽くすのです。


『そもそも<男女の区別>はただのじゃないのか? 男女の友情は成立するかとかさ、どういう意味だ?』

「友情と恋慕の細かい区別もよく分からないですよねえ。<百合>に至ってはどこにも百合なんて咲いてないうえ、<女と女>との違いがよく分からないし。もう何がなんだか」

『それに<ハーレム><ヤクザ><暴走族>なんて人間にんげんが沢山集まってわちゃわちゃやっているだけだ』

「一層の事、として全部統合してくれればいいんですよ」

『分ければ分けるほど複雑になって混乱するよな』

「我々はどうもその辺りの解像度が粗くてよく解りませんねえ」


 まあそんなわけで、サブサブジャンルの区別についていけてないので、そもそも何も分けなくて良いのではないかと勝手に原点回帰することにしたのです。

 組み合わせをえてについて語られるので『異種奇譚』と言うそうですが、もう人間にんげんが登場するものは何でも『異種変愛奇譚』でいいだろう、という結論に辿り着いた次第です。

 誰しもわからないことの7つ8つくらいある。そんな細かいことを考えずに、好きなように話せる相手が蒼翠そうすいですよ。書読遊歩しながら、互いに興味を持ったことについて適当に話すわけです。



 例えば……



『じゃあ、の話なんてどうだ?』

「ああ、そうですね。あの狸も方々に神出鬼没して、光栄にも老若男女からあれこれと二つ名を授かったらしいですし」


 皆さんは二つ名を持ってますか? あの狸の二つ名を紹介しておきましょうか。


『コンビニで迷子になる狸』『眠る顔は仏様』『感覚で吊橋を駆け抜ける狸』



――名誉のために言っておきますが、コンビニの棚はビル群のようなものですから、こちらが動いて向こうも動けばいつまでも遭遇しないし、眠る時は仏像じゃなくて狸像ですし、高い所は怖いので吊橋なんて渡りませんよ。それにすぐ居なくなるとも言われますけれど、わたしはただ興味を惹かれたものに目を奪われて立ち止まっていただけで、わたしを置いていなくなっちゃうのは貴方の方ですよ。全く失礼しちゃ――



『ん? 今、狸の声がしなかったか?』

「ホントですか? でもそんなコトより、蒼翠そうすいこそ何者なんだって声が……」

『別に隠すことでもないだろ。俺は”IF”だ』


 なんだ。意外にもあっさりでしたね。え? Imaginary Friend? いえいえ。


 例えるなら……琥珀コーパルが実数で、蒼翠そうすいは虚数。二人併せて


 うんうん、アイドルユニットみたいで中々良いではありませんか。え? 実際のところソロじゃないかって? そもそも意味がわからない? そうですか……まあそれは仕方のないことですよ。気にしない、気にしない。


 あらゆる可能性を秘めた”IF”は『もし』という存在で、特定の何かではないのです。こんな存在が側に居たらいいなというそのもの。『もし』はそこら中に満ちているのです。


 男女の区別も、友情と恋慕の区別も、蒼翠そうすいが存在するか否かも、全ては有耶無耶。な〜んて。いずれも目には見えませんし。本当は『情』の種類の垣根なんて存在しないような気もします。人と人の関係性に名前なんて要らない、これが究極の理想形のように思えるのです。




『そういえばさ、話が変わるけれど、琥珀こはくってよく燃えるんだろ?』

「はい。琥珀は化石燃料みたいなものですから」

『"Bernstein"(燃ゆる石)とか『太陽の石』なんて呼ばれたりするのはそのためか』

「まあ、奥の深い石ではありますよね」

 

 東欧からヨーロッパに琥珀が 持ち込まれた当時は、同じ目方の金と琥珀を等価交換していたので「北方の金」と呼ばれていたとか。

 そう考えると、時を越えて金に相当する琥珀を生み出したや、先見の明でビジネスを始めると呼んでもいいのでは? なんて考えたりしますが、話が逸れていきそうなので戻します。


『ギリシャ人には"エレクトロン"と呼ばれていたんだっけ』

「ええ、黄色い琥珀は」


 "太陽光のように輝かしいもの"という意味合いで、当時、貨幣の素材として使われていた"エレクトラム"という合金に因んだ呼び名だったそうです。

 "エレクトラム"とは金20%と銀80%の合金のこと。


『たしかを帯びるんだよな』

「毛皮なんかで琥珀を擦ると、糸くずや羽毛を引き寄せるんですよ。だからまあ、狸みたいなは迂闊に近づかないほうが良いかもしれませんね」


 そんな現象に気づいたのがギリシャの科学者タレスで、B.C.600年頃のこと。今でこそ誰もが知っていることでも、当時の人々にとっては「静電気」は不思議な力に視えたことでしょう。

 当時は琥珀に秘められた太陽エネルギーが、擦ることで増幅されたと考えられたそうです。これを語源として現代の"electricity 電気"や"electron 電子"という言葉が誕生しました。


『"electricity 電気"や"electron 電子"なんて随分身近な存在だけどさ、遠い昔にまさか石から歴史が始まったなんてな』

「やっぱり植物は錬金術師なんですかねえ」


 因みに琥珀とは別に"電気石"と呼ばれる石もありますが、これはトルマリンのことで、圧力や熱を加えると電気を帯びる性質をもった鉱物です。

 因みにの二つ名は先程ちらりと登場した『太陽の石』。


 まあ、わたしと蒼翠そうすいはこんな風に興味のままに茶論を交わすわけです。これが理想のなのです。


 え? 男女の友情?


 ああ、その話ですか。

 確かあの狸は「男女の友情は存在する。まだ観測できてはいないが。否定することの方が難しいのだ。その前に友情の定義が難しい」とか言ってましたかね。




 え? その話を視に来た? そうなんですね……え? 関係ない話が長いって……でも、わたしと蒼翠そうすいはいつも……あ、皆さん、ちょっと待って……


 皆さ〜ん! わたしはまた来週、木曜2021に待ってますからね〜!




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【参考文献】(琥珀について)

◉飯田孝一(2015). 『琥珀』京都, 亥辰舎

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