五次元 不可視を視る方法

 ハロー皆さま。


 この扉を拓いたということは、貴方は覚悟ができたということですね? いいでしょう。であれば、こちらも遠慮はしませんよ。蒼翠そうすいの存在は現実味を帯びてきましたか?



 まず、ちょっとした復習ですが、蒼翠琥珀あおみどりこはくは『翡翠かわせみの森』で人を騙すと噂されていたあの狸なのです。動物占師の診断結果を見る限り間違いありません。

 普段は『存在』を追求するべく分かりにくい小説を書いていますが、構ってくれる者が現れると、こっそりニヤけ面で尻尾をゆらゆらさせている狸なのです。


 ですから琥珀コーパルと蒼翠琥珀を同一視してはいけませんよ。


 そしてこの茶論サロンでは、『目に見えないもの』について語り続けています。



琥珀コーパル、アレを皆さんに言っておかなきゃだろ』

「ああ確かに。そうでしたね」


 そうそう。【不可視を視る方法】について。


 皆さんにお伝えする内容に「」や『』が付かないのは、皆さんの心に直接するからです。


 今皆さんの目の前に在るのはただの文字コードの羅列。しかしわたしが魅せるのは光景ヴィジョンです。わたしの姿や我々の様子、先週の【ライト・ランチャー】で紹介した白熱灯ドンパチのような、話題中の状況を心の内壁スクリーンに直接映します。


 大丈夫ですよ。


 注射の前のアルコール消毒みたいなもので、ちょっとヒヤッとするくらいです。怖くないですよ〜。ま、すぐには終わらないですけどね。



琥珀コーパル、それだとホラーっぽい』

「え? そうですか? それは盲点でした」



 ああ、そうだ。既に蒼翠琥珀めに書かせた『翡翠カワセミの森』を受講していただいた方は、このがいかなるものかということ、そしてその方法についてよくご存知かと思います。あれはストーリー仕立てのチュートリアルコースだったのですよ、実は。



 ですが、知らずに読み進めるのも一つの手だと思うのです。見てしまうと、そのことにものですから。


 それはという恐ろしい話術。



 それでももし、具体的な心象描写法について知りたいということであれば、今からチュートリアルを受講していただいても構いません。が、あまりオススメはしません。なぜなら、あれこそファンタジーの皮を被ったホラーですから。


『全く蒼翠琥珀に書かせるととロクな言霊コードにならないな』

「ええ、困ったものです」


 された光景が視えるのは本人だけ。巧みにパーソナライズされた高精細の彩描画クロムが視えてくるはず。彩描画クロムとはクロームのことです。心の内壁カンヴァスに筆を乱れ打ちしていくわけですね。

 彩度や画質はの長さに依存しますのでご注意を。



 さて、残念ながらチュートリアルに登場したはここには居ませんし、蒼翠琥珀あおみどりこはくは変人の中でも凡人なので、件の心象描写技師テクニシャンではありません。

 そういう訳で、描画はわたしが、ということなので悪しからず。


 まあ皆さんには蒼翠そうすいどころか、わたしの姿も見えないでしょうし、皆さんにとっての【わたし】をご自由に解釈してくだされば結構。



 想像してみて下さい。美少女かもしれないし、おっさんかもしれない。



 とはいえを自称するのは、月や太陽系惑星の名のもとにお仕置きしてまわる女戦士達くらいですし、を自称する人は大抵おっさんではありません。


 要は自分にとって都合のよい【わたし】を設定すれば良いのです。

 なんなら『地球』とかでもいいわけです。


 自由に創造して下さい。


 描写はコレまでに何一つ無かったはず。その上で、貴方は何を思い描くのか。もちろん人型のものを想像するのが最も容易でしょう。


 『擬人化』ほどわかりやすい例えは無いですからねえ。


 あの蒼翠琥珀がよくやる姑息な手段ですよ。おっと、口が滑りましたが、その話はさておき難解なことに出会った場合、誰しも己の知りうる事象を素に想像する。それが人というもの。

 「見る」と「視る」は全くの別物。後者は心の眼で光景を捉えるのです。



 『目に見えないもの』をとはそういう事なのですよ。



 さあて、来週の琥珀コーパルは、時々人里に下りる狸の話でもしましょうか。ちょっと春めいてきましたし。蒼翠琥珀は季節と同じく移り気な狸めですが、最近、何やら真面目にSFを書いているみたいですよ。


 ではまた来週。木曜2021に。いつも読んでくださって有難うございます。

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