第1話 驚きの出会い

学校を出ると空が赤く染まっていた。


ぼんやりと電線に止まるカラスを見上げながら帰路につく。


おそらく家には誰もいない。忙しいと言っていたから今日は帰っても来ないだろう。


―今日のご飯どうしようかなぁ。冷蔵庫の中何があったかな


夕飯のことを考えながら大通りから小道に行くまでの横断歩道に足を踏み入れたとき





周りの景色が変わった。





気が密生し、薄暗く、じめじめしている。


―多分‥森‥かな


そう推測し後ろを振り返ったそのとき脳内に警告が走る。





“逃げろ”





―何から?


―その目の前にいる良く分からないものから。



目の前にいたのはいくつもの手が生えている異形の者。明らかに人ではない。


地面を蹴って走り出すと、案の定追いかけてきた。


走りながら考えをめぐらす。


追いかけてきてる者は十中八九【あやかし】と呼ばれるものだろう。


小さいころからこのような類のものが見えていて、追いかけられることも襲われかけるのもしょっちゅうあった。


こんな時はお寺や神社に逃げ込んでいたが、今は知らない場所に連れてこられている以上その手は使えそうもない。


密生する木を避けながら風を切って走る。


所々ぬかるみがあるせいか足を取られてしまいそうになるが気にしている暇はない。





だいぶ奥の方に光が見えた。


―もしかして出口なのだろうか。


いや

連れてこられているのだ。


この森に出口などあるはずがない。


しかしこのような薄暗い場所よりも明るい場所のほうが良いはずだ。


今も自分の状況がよく分かっていない


―取りあえず光がある方向に行こう


走るスピードを上げた。


光が近づいてくる。


後ろの状況は分からない。

見たくもないし、正直分かりたくもない。


ただぬかるみが少しずつ減ってきている。

そのおかげかスピードもどんどん上がっていく。


ついに光のところまでたどり着きその光に飛び込んだ。





そこは森の中でも開けた場所のようだった。


目の前には立派な洋館。


思わず立ち止まってしまった隙に追手が回り込んできた。

もうすぐ後ろまで来ていたらしい。





“食われる”





絶体絶命なその状況に思わず尻餅をついてしまった。


―あぁ。死ぬのか…。


そう考えていた





だが、


実際には違った。





目の前の妖が一瞬で消え…いや消滅したのだ。


そしてどこからか聞こえる声…女の人のようだ。


「言ったでしょう?この森、あるいはこの町住むのならば、人間を襲うことは絶対にするなと。そしてこの規則を破った場合、問答無用で消滅させるとも。」


聞き覚えのある声だ。

いったい誰なのだろうか。


「はぁ…。あっ!大丈夫でしたか?あぁ。やはり有末ありすえ君でしたか。」


逆光でよく見えないが彼女は僕を知っているようだ。

確かに僕の名前は有末文和ありすえふみかず。彼女の言っている人物で間違いないだろう。


その助けてくれたであろう彼女が自身に近づき、その顔を見ることができたとき驚きを隠せなくなった。





「かっ…かっ…かのうさん⁈」





彼女は自分がよく知っている人物



――クラスメイト



だったのである。
















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幻影の森 あやかし管理室 雨津 海衣 @AmeduUe

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