飛行機の苦手な男性が、実際に搭乗した旅客機の中、すぐ隣に不審な客と乗り合わせてしまうお話。
怪談です。いや小説作品ですので「ホラー小説」と言ってもいいのですけれど、でも個人的には「これぞ怪談!」と叫びたい作品。もう本当に語り口が魅力的で、溜めや引っ張りの塩梅も絶妙で、無限にずっと読んでいたい気分にさせてくれます。先が気になって仕方がないのに、その答えを知るのが本当に怖い! ただ物語の展開として恐怖を提示するだけでなく、それが恐怖をいや増す技巧に満ちた「語り」によってなされていること。これを怪談と言わずして一体なにが怪談なのかと、心の底からそう思わせてくれる物語でした。感動。
いやこれ、本当にすごいんです。だってお話の筋そのものは非常にシンプルで、語られている出来事それ自体もそう多くない。きっとあらすじにしちゃうと恐ろしく短い物語になるはずのところを、でも約11,000文字という結構な分量で語っている。なのに全然長さを感じさせず、むしろ「もう終わり?」くらいの名残惜しさすら覚える、この絶妙な話運びの技術。間の取り方や情報の出し引き、またそれらによるこちらの興味の焦らし方が完璧で、もう凄まじい勢いで物語に引き込まれていくのを感じました。魔法だ……。
大体にしてこのお話、まず航行中の旅客機という設定の時点で、先の展開をうっすら暗示しているようなところがあって。それがその通りに決着するのか、それとも予想を裏切ってくるのかはともかく(ネタバレになるので)、この「剥き出しの不穏さ」をぶつ切りのまま出鼻に転がしておくような、そしてその効力を全編にわたってじっくり使い切るような、そのお話の骨組みからしてもう本当にもう……! なんだろう、なんか他にもいろんな罠がある気がします。修辞や語感の問題とはまた別の、読み手の心理をコントロールするための、語りの技術。
最高でした。なんというかもう、ただ無心に楽しんだ、という感想です。手のひらで転がされる感覚が心底気持ちいい、語りの巧妙さの光る怪談話でした。面白かったです!