第17 第五章 シリウスの思惑 (3)

第五章 シリウスの思惑

(3)


ルテル星系防衛戦、マキシム星系防衛戦から一年が経ったWGC三〇四八年四月。シリウス星系軍は、ルテル星系内ウォルフ星系方面跳躍点に三個艦隊を布陣させていた。ジョージ・ハウエル中将率いる第二艦隊、コンラッド・モリス中将率いる第三艦隊、カーネル・モートン中将率いる第四艦隊、ルテル星系軍は、星系内維持艦隊を同跳躍点方面のカイパーベルトの内側に布陣させていた。一個艦隊当たり戦闘艦とその補給艦を含む六四八隻以外に強襲揚陸艦六〇隻と陸戦隊三〇〇〇名、輸送艦三〇隻、工作艦三〇隻、特設艦二四隻の七九二隻として、この一艦隊編成を各艦隊毎に構成する総数二三七六隻の大艦隊で有った。

第二艦隊司令官であり、この三個艦隊の総司令官ジョージ・ハウエル上級中将は、第二艦隊旗艦ベルムストレンの司令官公室にて他二艦隊の司令官、主席参謀、副参謀の他将官以上を集め、これから始まるウォルフ星系攻略の為の最終確認を行っていた。全員が緊張した面持ちでいる。

「ウォルフ星系攻略の為の最終確認を行う。今回のウォルフ星系攻略は、彼の星系の武力を削ぐ事にある。ウォルフ星系軍の艦隊は勿論だが、軍の工廠、工業施設、備蓄施設等の軍事施設を破壊し、今後ウォルフ星系軍の横暴を許さない事である。戦闘後は、一個艦隊と六千人の陸戦隊を駐留させ、軍備の回復をさせない事も計画に入っている。ウォルフ星系軍は、我が軍が侵攻することは、既に知られている。強襲となるが、計画通りに進めてくれ。主席参謀、跳躍点突入後の計画を説明してくれ」

ハウエル上級中将の指示で第二艦隊主席参謀が、

「今回の作戦は、強襲です。ウォルフ星系軍も跳躍点にて待ち構えているはずです。跳躍後、すぐに工作艦にEMCバリアを散布。敷設されているはずのパッシブモード型の指向性宇宙機雷の無効化します。その後に短距離ミサイルをパッシブモードで発射し、宇宙機雷を全滅させます。指向性宇宙機雷が敷設されていることを前提にすれば、敵艦隊は、有効射程内で布陣していることはないので、その後、全艦艇を跳躍させ、敵艦隊と対峙します。後は、各艦隊が、計画通りに敵艦隊と戦闘に入ります。情報では、まだウォルフ星系軍は、先の戦闘から回復しておらず、現在の戦闘可能艦は星系内維持艦隊を含めても、二個艦隊、乗員は、戦闘経験のない兵士です」

主席参謀の説明に第三艦隊の主席参謀から

「ウォルフ星系軍は、正規艦隊が、不足していると言っても、ステルス機能を有効にしたまま主砲を撃てるスナイパーガンシップという戦闘艦を有する狙撃特務大隊がいるぞ。それへの対応はどうする。跳躍点の近接で撃たれたら、我が軍の被害も無視できないぞ」

「EMCバリア散布を行えば有効範囲二百万キロ以内の電子機器は無効になります。その段階でスナイパーガンシップも姿を現します。その時に仕留めれば良いと考えます」

第二艦隊主席参謀の説明に第三艦隊主席参謀が納得した顔で頷くとハウエルは、

「全艦隊、一時間後、一三〇〇時に跳躍点に突入する。以上だ」

その声と共に各艦隊の司令官、参謀、将官が、敬礼と共に3D映像から消えた。


ルテル星系政府外務大臣ボーヤン・コマリ―は、外交部主席部員カルロス・グリーンと共にルテル星系内統合作戦本部室内にあるスコープビジョンで、ウォルフ星系方面跳躍点付近の監視衛星から届くシリウス星系三個艦隊の同行を見ていた。四時間前の映像である。

 コマリ―は、膨らみすぎた頬、緩んだ顔に似合わない、突き刺すような眼で映像を見ながら

「シリウス星系政府から、今回の話が来た時は、話半分で聞いていたが、こうしてあの大艦隊を見ていると、計画が成功するように思えて来るな」

その言葉にグリーンは

「成功して貰わなくては、困ります。カイパーベルトの内側に、我星系軍を布陣させているとはいえ、もし、ウォルフ星系軍が、シリウス星系軍を破り我星系に侵攻してくれば、我星系軍はひとたまりもありません」

「主席部員、大丈夫だ。ウォルフ星系軍が現れても、行先はシリウス星系だ。我が星系には来ないさ。勝手に通させる。先の大戦の時、彼の星系の敗残兵を見逃した事で、ウォルフ星系政府外務省外交部一等書記官ランズ・ガブリエルから感謝状が届いた。我が星系に馬鹿な真似はすまい。もし仕掛けてくれば、今、マキシム星系に駐留しているプロキシマ星系軍一個艦隊が駆けつけてくれる。増援もな。心配するな」

「分かっておりますが・・」

グリーンは、あのウォルフ星系軍が、艦数は少ないとは言え、一方的にシリウス星系軍にやられるとは思っていなかった。

グリーンの想像は、外交部の主席部員だけに結果として半分正しかった。


シリウス星系軍は、ウォルフ星系内の跳躍点に出現した時点で、工作艦よりEMCバリアを、自軍に影響が出ないように前方に指向性を持つようにして展開した。これによりパッシブモードの指向性宇宙機雷は全滅したが、狙撃特務大隊長ボロン・シュナーベル中佐は、ルテル星系方面跳躍点の後方にスナイパーガンシップ大隊を展開していた。

スナイパーガンシップは、名手ガーミン・ホイル大尉により、全戦闘艦が跳躍点から出現した段階で、後方から航宙戦艦、巡航戦艦に集中的に航宙エンジンを狙い撃ちした。この狙撃大隊を壊滅させるまでに三個艦隊二四〇隻の主力戦艦の内、半数の一二〇隻が被害を受けた。航宙不可能になるだけで、撃沈はしていないが、この後の戦闘継続は出来ない。この事によりシリウス星系軍総司令官ジョージ・ハウエル中将は、作戦計画の大幅な変更を余儀なくされた。

また、ウォルフ星系の陸戦部隊は頑強に抵抗し、シリウス星系強襲揚陸部隊の九千名の内、千五百名が戦死、負傷する結果となった。結局、一か月予定の作戦が終了せず、シリウス星系より戦闘物資を追加要請することで、作戦を継続させ、作戦終了までに三か月を要した。


「ヘンセン、シリウス星系軍は、ウォルフ星系軍を破ったようだな」

プロキシマ星系軍総参謀長ステファン・アレンバーグ大将は、星系軍総参謀長室で星系軍作戦本部長カレラ・ヘンセン大将を迎え、シリウス星系軍のウォルフ星系軍壊滅作戦後の話をしていた。

「聞いている。しかし、あのウォルフ星系軍がシリウス星系軍に敗れるとはな。シリウス星系軍三個艦隊に対してウォルフ星系軍二個艦隊とはいえ、自星系内だ。地の利はあったはず。シリウス星系軍跳躍後の戦闘でも、例のスナイパーガンシップ大隊が勇戦したと言うではないか」

「物資の途切れたウォルフ星系軍と、ルテル星系軍を味方に付け、物資輸送の利を得たシリウス星系軍の差が出たというところだろう。戦闘艦が有ってもエネルギー、ミサイルがなくては戦いに勝てまい」

「その通りだな。ところで、シリウス星系とウォルフ星系に対するプロキシマ星系としての対応をコードウェル外務大臣が相談したいそうだ。プロキシマ王に説明する為にな。」

「そうか。これで我が星系は、従来のエリダヌス星系、マキシム星系、ルテル星系、コーテル星系、ルノー星系の他、シリウス星系とウォルフ星系までもが我が星系内にマップに入る訳だ」

「ところで、王室から第一王女マリアテレーゼ様を星系内治安維持軍総司令官にするよう話があった。第一王女はお代わりになったな。軍など全く興味なかったようだが」

「第一王女を中心とする箱庭星系軍と言ったところか」

総参謀長ステファン・アレンバーグ大将は、作戦本部長カレラ・ヘンセン大将は、統合参謀本部ビルの総参謀長室から見える王宮を見ながらつぶやいた。

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プロキシマ・ケンタウリ 箱庭の中の宇宙戦争 @kanako_01

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