第27話 未来へ
「……大丈夫ですか?」
竜牙騎兵の胸の中で、スノウが心配そうに声をかけてくる。
「……大丈夫だよ。ちゃんと、生きてる」
全身が無茶苦茶痛いけど。
無茶なエーテルの解放のせいで、全身の筋肉や神経がズタボロだ。生きてるのは幸運だろう。
俺が答えると、スノウはとても安堵した顔を見せた。そして、「良かった」と言い、ゆっくりと目を閉じる――
「お、おい、スノウ?」
「すみません……なんだか、眠くて」
そうか、スノウもずっとエーテルを吸われていた上、その状態で力を貸してくれた。
彼女も限界に近いのだろう。
俺はゆっくりと、彼女をでき締める。
【アジ・ダカーハ】が崩壊し、俺たちの乗っている竜牙騎兵はそのまま宇宙に投げ出された。
もう機能停止したのか、ぴくりととも動かない。それはそうだろう。これは【アジ・ダカーハ】の端末兵器みたいなものなのだ。
そして、赤血球竜牙兵も……
「……」
すでにぴくりとも動かない。
こいつには、ずいぶんと助けてもらったのに、恩返しも出来なかったな。
俺は小さく息を吐く。そして改めて周囲を見渡した。
【アジ・ダカーハ】の崩壊に巻き込まれ、無数の竜牙兵たちが燃え尽きている。
俺の竜牙騎兵にも、あちこちから煙が出ていた。よく保ったものだ。
(さて……)
この機体はこのまま大気圏に突入する。そうするとただでは済まないだろう。大気圏突入の機能があるとも思えない。
だが、もはや動けないのだ。俺の竜牙騎兵も、
あるいは……流れ星と消えずとも、このまま宇宙の藻屑として漂うか。
「ショウゴさん……」
スノウが心配そうに言う。俺は彼女の頭を優しく撫でて安心させてから、
「大丈夫だよ」
と言った。
「そうですね。二人なら――どうなっても」
スノウは静かに覚悟を決めたようにいう。
だけど、違うんだ。
「見ろよ、あれ」
俺は、視線である方向を指す。
「あれは……」
宇宙に浮かぶ残骸、瓦礫。
その向こうから――光が。
そして、
『――大丈夫!? 生きてる?』
声が響く。
宇宙船スター・サファイア号。
それを操っているのは、アーシュ。
そして宇宙船の甲板にいるのは――ユーリ師匠だった。
ああ、師匠も無事だったんだな。
そしてその後ろに――見える。
艦隊だ。
『勇者どの!』
『ご無事でしたか!』
『フン、しぶとい奴だ』
宇宙トルーパーのアルとベイの声、そしてザナージの憎まれ口。
みんなも。
ちゃんと――生きている。
「ああ――ショウゴさん」
「ああ」
俺たちの――
『ボクたちの、勝利だよ!!』
師匠が、笑顔でそう言った。
***
あれから。
軍の宇宙戦艦に回収された俺たちだったが、俺はそのまま病院送りになった。
最新の宇宙医術でも、回復にはしぱらく時間が必要だとのことだった。
そして、俺の見舞いに来たのは……
「よう、生きてたか」
宇宙冒険者仲間の、ヴァークとメイグー。
こいつらも生きていた。
星が破壊され【アジ・ダカーハ】が現れた時に死んだと思っていたが、オーラとサッサの海賊船に救われたらしい。
いわく、アーラフを助けるのはほとぼりが冷めてから、だそうだ。そのほうが色々と上手くいくとか。
なので、ヴァーク達に同行していて、そして宇宙船で間一髪脱出できたらしい。
もっとも、衝撃で惑星に墜落してしまい、色々と大変だったらしいが。
「そっちもな」
ベッドの上で、俺は言う。
あのあと、事後処理で宇宙冒険者ギルドも大変だったらしい。
もちろん、軍のほうも。
「つーか、むかつくよなああのクソ貴族」
「ガリアードの事か?」
「いや、功労者ヅラして後から全部かっさらっていきやがった、ザナージとかいうクソ貴族だよ」
「ああ……」
彼か。
別に後から手柄全部かっさらっていった、というわけではないと俺は思う。
彼がいなかったら、彼の指揮が無かったらやはり解決はしなかったか、もっと遅くなっていただろう。
「ふんぞりかえって口出すだけで手柄独り占めかよ、あーこれだから貴族様は……」
「そうかそうか、それはすまんな。で、そういう貴様は誰かね」
「あ?俺は宇宙冒険者のヴァーク様だ……よ……」
声の主に振り向いてヴァークは固まった。
そこには、宇宙トルーパーを従えた、ザナージ卿がおられたからだ。
「ザナージ卿、どうされますか」
「処しますか? 処しますか?」
傍らの宇宙トルーパーが言う。しかしザナージはただ笑いながら、
「なぁに、ここは病院、騒ぎは良くない。それに名前と顔はしっかりと覚えたからな」
そう告げた。彼の目は笑っていなかった。
ヴァークよ、つよく生きろ。
「それで何用ですか、ザナージ卿」
メイグーが問う。
「いや何。英雄の労いに来ただけだ」
労いね……。
「俺は、やるべきことをやっただけですよ」
「そうだ。だが、やるべきことをやれる人間など、意外と少ないのだよ」
ザナージは言う。
「そういうものを得てして歯車、と揶揄する連中も多いがな。
各々が自分にできる事、やるべき事を果たすからこそ、組織や社会は円滑に動く。
軍も、冒険者も、貴族社会も同じだ。
だから貴様は賞賛されるべきなのだよ。宇宙勇者ショウゴ・アラタ。
もっとも……与えられるのは賞賛と栄誉、勲章と金銭ぐらいだがな」
俺は宇宙勇者だ。宇宙勇者ギルドに所属する見習いだ。
軍人ではない。
だから、今回のガリアード討伐、宇宙要塞【アジ・ダカーハ】の破壊、そして帝都襲撃の阻止……それらの功労者として褒められはするものの、地位や爵位や土地といったものは貰えないという事だ。
ガリアードの所有していた財産は全て没収され、爵位すらも剥奪。ファットマンの一族は処刑あるいは追放されたらしい。
そしてそれで利権を手に入れたのが、このザナージ卿だ。
爵位も、騎士爵から男爵へと上がったとか。なるほど、ヴァークが文句を言うのも仕方ない。
まあ、俺は別にそういうのが欲しかったわけじゃない。
俺が欲しかったものは、ただ――
「ショウゴさん。起きてましたか。
それに、御仲間の方々に……えっと、ヴァルハーヒ卿」
扉を開けて、欲しかったもの――助けたかった人、スノウが現れた。
「えっと、御邪魔だってでしょうか」
「なぁに、我らも挨拶に来ただけです。すぐに撤退しますよ議員殿」
そう言って、ザナージ卿は宇宙トルーパーを引き連れて、病室を去る。
最後に、振り返ってこう言った。
「貴様は実に使える、いい駒だよ。ショウゴ・アラタ。
これからも精々励みたまえ。都合よく便利に使ってやるよ、ククク……はーっはっは!! ゲヒャーヒャヒャヒャヒャ!!!!!!」
……。
前から思ってたけど、この男って三流悪役っぽい台詞を言わないと気が済まないのだろうか。
やってることはまっとうだし、信頼も出来るのに。
随分と世話になったし、彼に命も救われた。なんというか、嫌いにはなれそうにないな。
そう言ったら無茶苦茶怒るだろうから、言わないでおくけれど。
「ああいうの、つんでれ……って言うのでしょうか」
「どっちかっていうと偽悪とかそんなんじゃないかな」
俺とスノウは言う。ちなみに、ヴァークとメイグーもザナージに引きずられるように退室していった。
ヴァークに関しては宇宙トルーパーに連行されたと言ってもいいのかもしれない。
投獄されることはないと思うが、まあ強く生きろ。
「外、出ようか。散歩ぐらいなら出来るし」
「はい」
俺たちは外に出る。
といっても、宇宙病院は、衛星軌道上にある。
そこから見えるのは、青空ではなく、暗黒の闇だ。ただし、星々が宝石のように煌めいている。
そして眼下には、銀河帝国の帝都惑星、セントラルーン。
そこには多くの人々が住んでいる。
――俺たちが守った、とうそぶくつもりはない。この星には俺たちよりも強い戦士、軍人、冒険者、勇者たちがいる。
だけど、それでも。
「少しは、守れたと言って、いいんだろうな」
「……はい」
俺の隣で同じように喜んでいる人がいる。彼女は泣いていて、微笑んでいた。本当に嬉しそうに、笑っていて。
これで、良かったのだと思った。救うことが出来て、俺は俺なりにやり遂げたのだ。
そして俺はスノウを見る。
――彼女と目があった。
俺が笑顔で見つめ返すと、スノウもまた笑う。
(ありがとう)
そう思った。俺は彼女の手を取り、そして強く握る。
「ショウゴさん?」
スノウが驚いた顔を見せる。
「痛いですよ?」
と言いつつも少し嬉しそうな顔で。
「ああ、ごめん」
俺は慌てて離した。
「ふふっ」
スノウは楽しげな顔を見せてくれた。そして、「もう、大丈夫ですね」と言った。
何がとは訊かない。「大丈夫だよ」と答えると、また彼女が「はい」と返してくれる。
「退院したら……また忙しくなるな」
俺はまた宇宙勇者として戦線復帰する。冒険者として、宇宙中を飛び回ることになるだろう。
だけど、その隣には――
スノウは、いない。
彼女は、銀河帝国の元老院議員なのだから。
だけど、寂しくはない。
「いっぱい、通信しますね。それに、いつでも会いに来てください。
来てくれた時は、すぐスケジュールあけますから」
「議員は多忙だろうに」
「いいんです。銀河帝国の英雄の接待も、議員の務めですよ? ものすごくサービスしちゃいます。」
そういうことなら、いらないと思っていた栄誉も称号も大いに欲しくなってくる。
「ずっと――一緒ですから。何光年離れていても」
前の俺のいた世界だったら、何光年の距離とか言われたら、それは絶望的な距離の別離を示していた。
だけど、この宇宙では、宇宙転移魔法航法とか、そんなものを使えばすぐだ。
「ああ、そうだな――」
俺とスノウは見つめ合う。
スノウは、何を思ったのか、そっと目を閉じた。
……いや、さすがにそれは俺も理解できる。俺は、スノウの小さ肩に手を乗せて――
「あーっ、二人ともここにいた!! やっほー!!」
師匠の元気な声が、廊下に響いた。
病院ではお静かに。
「なにやってんのよ。ショウゴはともかく、雪エルフもまだ本調子じゃないのよ」
アーシュも師匠の隣にいる。
「創造主も元気でなりによりです」
そして、復活した赤血球竜牙兵もいる。
竜牙兵そのものはマジックアイテムから作られるゴーレムであるので、なんとか直すことも可能だった。
これもアーシュがやってくれた。流石は腕利きの宇宙ドワーフだ。
みんな、俺たちの見舞いに来てくれていたのだ。
「あー……」
俺は思わず頭をかいてしまう。そう言えばそうだった。すっかりと忘れていたけれど。
スノウも気恥ずかしくなったらしく、俯いていた。その様子もなんだか愛おしい。
そう思っていたら。
「えーと、そういうことはせめて家でしてね?ね?」
と、顔を赤くしながら言うのであった。
まあ……確かに病院でやる事ではなかった。というか、そもそもここはそういうことをするところではないと思うのだが。
でも、それもまあいいかと思ってしまったのだから、きっとこれは病気の一種だと思う。
この病は、きっと一生――治らない。
***
「あれから、一年ですね」
「ああ」
宇宙オークをひとまず撃退し、俺たちは話す。
あの事件から色々あった。
俺もまだ見習いという文字が取れていないが、それでも立派に宇宙勇者をやっている――と思う。思いたい。
気が付いたら死んで、遠い未来か異次元か、見知らぬ宇宙で転生し、復活した。
言葉もほとんど通じないし、21世紀初頭の知識なんて何の役にも立ちゃしない。
おまけに監視の意味も兼ねて勇者に弟子入りされられ地獄のシゴキを受ける始末だ。
それでもやっていけたのは――
この娘がいたからだ。
だから俺は頑張れる。
この娘が、スノウが銀河の平和を求めているのなら。そして、俺を必要としてくれているのなら。
俺はきっと、なんだって出来る。
「再会を祝して乾杯――は、仕事を終わらせてからだな」
「はい」
そして俺たちは歩き出す。
宇宙エルフたちとの交渉の場へと。
俺たちの、未来をつかむために。
異宇宙転生した俺は宇宙エルフのお姫様や宇宙勇者、宇宙奴隷の少女たちと共に宇宙冒険を駆け抜けてチート宇宙魔力で銀河帝国で成り上がる! 十凪高志 @unagiakitaka
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