城壁前ーお猫様との別離~その6

「え、って……いや、困るでしょ?突然そんな重い話されても。ただでさえ俺、よくわかってないのに。」


おっさんの話はよく分からないながらもいろいろな後悔や懺悔や、まぁ色々な感情が渦巻いていたことはよくわかった。

分かることはわかったが、普通の17歳日本男子には重い。重すぎる。それに正直初対面のおっさんの重い過去を知ったとて、俺にできるのは表面上の同情だけだ。

さすがに同情だけでおっさんの話には乗れない。まだ純粋に頼まれただけのほうが行動しやすかったと思う。


「え……」


「いやいや、おっさん考えてもみ?同情なんぞで行動したら引き際がわからなくなりそう。もしかしたらおっさんはそれを狙ってるのかもしれないけど。それに自分で判断するにも情報が少ない上に一方的過ぎる。」


「えー!ハヤトが説明しろっていうからおっさん説明したのに?!」


話を聞くとは言ったけど、説明しろとは言ってない……よな?というかここまで重い話になるとは思ってなかった。


「話聞くとは言ったけどまさかおっさんの壮絶な過去話聞くとは思わなかった。というか、俺初対面のおっさんの壮絶な過去に共感して同情して力になります!といえるほどお人よしじゃねぇの。しかもこんな右も左もわからないところでさぁ。」


チッ


舌打ちしたぞこのおっさん。


「はぁああああ。んだよ、流されやすそうなガキだと思ったのによ。」


あぁ、やっぱりただのお人好しで情けないだけのおっさんではなかったか。そりゃそうだ。でなけりゃまるきり不審者の俺に声かけたりしないだろう。実際、おっさんが声かけるまでに遠巻きに俺の事みて見ぬふりして通り過ぎた人間もいたわけだしな。裕福そうな人間も子供連れの親子もガラの悪い奴も商人のような奴も。みんな俺の近くに寄ろうともしなかった。ということはこの世界は他人に興味がないまたは下手に知らない人間に関わると自分の身が危なくなるような世界、あるいは俺の見た目に何かある、ということだ。というか自分でも思うが、このよくわからない状況でよくこんな考察してるな、俺。


「おっさんが声かけてくるまでに何人か俺の事みてた奴がいるんだ。でも誰一人として声はかけてこなかった。そんな中で声かけてきて、しかもなんか俺にとって利のある話してくる人間なんて、物語じゃあるまいし、現実にそう現れるわけないだろ。しかも絵にかいたような人の良い、ちょっと情けなくて親しみやすいおっさん。だからさっきの話も正直半分ぐらいしか信じてない」


「ほんとに頭の回るガキだな。」


さっきまでの様子を一変し親しみやすいおっさんから一気に裏の世界のおっさんに変わった。―裏の世界なんて俺の想像の中の、だが。


「で、おっさんは結局俺に何をさせたいんだ?」


「あ?なんだ?結局手伝ってくれるのか?」


おっさんが驚いたようにこっちを見る。確かにおっさんお話が重いとは言ったし半分しか信じていないとは言ったが、何もしないとは言っていない。

おっさんの話に同情して行動するのは難しいが、俺にとってリターンがあれば話し合うのもやぶさかではない。


「おっさんの言うがままに動く気はねぇけど、そういったって俺にはおっさん以外にこの街の中に入る伝手が今のところないからな。同情で動く気はないけど、おっさんが俺の事を助けてくれるならその分は働くぜ?」


「なるほどな。なんだお人よしっぽかったからな、同情ひいて恩着せてやろうと思ったんだが……じゃあここからはビジネスってことだな」


「あぁ。まずはお互いの希望を明確にしようぜ。」


おっさんの話が本当だとは思わないが、やらせたいことはおそらく本当だろう。ならば俺もおっさんを利用する。








「じゃあまずはハヤトからだな。俺の話はしたが結局お前の話はよく分からないままだ。お前、本当はあんなところでしゃがみこんで何してたんだ?」


おっさんが心底不思議そうにこちらを見てくる。さすがにあの苦しい言い訳を信じてくれるわけがないか。


「あー何から言えばいいのか……あ、その前におっさん、水もらえない?ここまでいろいろ緊張して忘れてたけど俺、朝?からなんも飲んでないし、食べてもないんだ。」


「うん?よくわからんが、まぁ水ぐらいなら。……ほらよ」


そういっておっさんは瓶に入った水を俺に投げてきた


「っはぁ!生き返った!ありがと、おっさん。で、実は俺異世界の人間なんだ。」


「はぁ?おまえなぁ、まだ最初の言い訳のほうがましだぞ……」


「……」


「……」


「……」


見つめあう俺とおっさん。なかなかシュールな光景だ。


「なんだ、本当なのか?」


「たぶんな。俺が長い夢を見てて、現実の方の記憶をなくしてるっていうなら別だけど。」


その可能性も無きにしも非ずではあるが。


「はぁ。まぁお前が異世界とやらの人間だったとして、俺に何をしてほしいんだ?」


「いや、そんな大それたことじゃない。俺ここの知識なんもないし、とりあえず死にたくはないから衣食住を確保したい。で、できるなら元の世界に戻る方法を見つけたいと思う。」


「あくまでその設定引っ張るんだな。じゃぁ俺から提案だ。まず1つ

、当面のハヤトの衣食住を保障する。2つ、俺達に協力してくれるならいろいろな街へ連れて行ってやる。そこで手掛かりでもなんでも調べればいい。悪くはないだろ?」


「この上ない条件だな。それで?結局おっさんは何をして欲しいんだよ?」


「説明した通りだ。祭典で騒ぎをおこしてほしい。異世界人ってことなら別段お前がお尋ね者になったとしても困る知り合いもいないだろ?もちろん、おまえが捕まったり殺されたりしないように俺たちがフォローする。」


「まぁ、それがどこまで本当か信じられないけど。はぁあ。実際俺に選択肢なんてあってないようなもんだよな。おっさんからうまく逃げられたとしても、どうもこの世界の人間は俺に関わりたくないってオーラが出てるし。一人でサバイバルする知識もないしな。」


それに、あの猫が俺をこの街に連れてきたのも何か理由があるのかもしれないし……


「なるほど、なら交渉成立ってことだな。よろしく頼むぜ、ハヤト。」

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お猫様との異世界珍道中 葉月卯平 @pharm23101

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