城壁前ーお猫様との別離~その5
「まぁなんだ、おっさんも少し大げさに言いすぎた。いや、やっぱり最初のインパクトが大事だと思ってな?」
「それ、インパクトでかすぎてこれまで逃げられてきたんじゃないの?」
「そうか?いや、俺のことはどうでもいい。とりあえず1から説明する。」
—はぁあ
そういうとおっさんは大きなため息をついた。まるで疲れ果てた中年のおっさんだ。いや、最初からおっさんではあったが。
「まずさっきも説明したが、この街では10年ぶりに聖剣の適合者選抜の祭典がある。ここまではいいな。」
そこからのおっさんの話はまぁ何というか想像していた以上に重い話だった。
――――――
10年前、俺がまだおにいさんだった時も同じようにここで祭典があったんだ。若かった俺ももちろん参加した。俺と、知り合い達と一緒にな。まぁ普通なら選ばれるわけもねぇ、半分以上が冷やかしみたいなもんだ。若い奴は誰でも1回は参加するもんだ。だが、普通じゃなかったのは俺の連れたちがその時の適合者として選ばれたんだ。もちろん俺は驚いたし、少しばかり嫉妬もしたがそれ以上に喜んだぜ?当然だ。思いもよらない名誉が知り合い達に降り注いできたんだ、喜ぶに決まってる。
だが、なぁ。
これは選抜が終わった、さらにそのずっと後に知ったんだが……過去に選ばれた適合者たちで帰ってきた、生きてる状態でも死体としても帰ってきたことはない、らしい。
知り合い達が適合者として城に連れていかれて、最初は俺もなんとか会おうとしていたんだが、まぁ家族ですら会えないんだ。ただの知り合いが会えるわけもねぇ。だがな、俺達にはちょっとした特技があってな。簡単に言うと口笛で会話ができるんだ、と言っても簡単な単語のやり取りだがな。
それでも下手な暗号よりずっと気付かれにくいし、たとえ気付かれても内容は正直わからんだろうな。
そんなわけで、会えない中でもちょっとしたやり取りはできていたんだよ。ん?城の中まで口笛が届くのかって?風の向きとかでな、音を届けるのもこの会話のちょっとした秘訣なんだ。普通の声なんかよりずっと遠くまで届く。と、そんなことはどうでもいいんだ。だからまぁ知り合い達ともある程度情報共有していたわけだ。
最初のうちは別段変わったことはない。お互いの近況報告みたいな感じだった。何ならふつうは知ることのできない城の中のことを知れて浮かれてたぐらいだ。だが、だんだんそのやり取りも頻度が減って行って、俺一人寂しく報告している事が増えていった。数年もたてば俺も惰性で行って惰性で報告していたぐらいだ。
そんな時、突然返事が返ってきた。いや、返事というよりは一方的な伝達だな。何回も同じことばかり。
—剣
—危険
—命
—吸う
それから……
—助けて
俺は、その情報を聞いて怖気付いちまった。
ろくに返事もせず逃げたんだ。逃げて逃げて、ある年の祭典で知り合いの一人が聖王の隣にいるのを見つけたんだ。
もちろん平民の俺と聖王の隣に立ってるような立場になった人間だ、直接会えることなんかあるはずもない。俺としても逃げた手前会いに行くのも違うな、って思ってな。あいつらが元気ならいいか、と思うことにしたんだ。まぁ最後に自己満足で一言だけと思って祭典の場で口笛を吹いてみたんだがな。ちっとも反応しねぇ。俺が逃げたからしょうがないと思って立ち去ろうとしたんだが、そんな時にフーキ会の教主に拾われたわけだ。
教主はこの会話方法を知っていて声をかけてきたみたいだった。
そこでいろいろと話をして、俺が逃げた話もした。そうしたら教主から適合者が一切帰ってきていない話を聞いたわけだ。
そうなると、あの時のあの子の口笛は……なにかとても重要なことを伝えてきていたのかもしれない。今日、姿が見えないのも何か理由があるのかもしれない、とな。
フーキ会っていうのは基本的に適合者の家族や近しい人間が集まったものだ。まぁいろいろ思ったわけだが、結果として俺はフーキ会に入った。
フーキ会ではこの祭典の意味や適合者のことを探っていたんだが、なかなか進展がないようだった。そんななか俺のこの情報と特技が役に立ちそうってわけだ。
最初はこの特技を適合者になりそうなやつに教えて、諜報員を育ててたんだがな。なかなかうまくいかない。うまくいった奴らも次第に連絡が取れなくなる。そうこうしているうちにこの特技もばれて、晴れて俺は追われる身になったってわけだ。
まぁ追われる身って言っても街に入ったり一所にとどまらなければ特別危ないことはないがな。とはいえ、街では暮らせない。今度は街の外で別のアプローチをしてるってわけだ。
今度は祭典をめちゃくちゃにしてくれる奴を探してる。祭典には聖王が必ず姿を見せるし、その護衛にそれなりの数の適合者が出てくるからな。混乱に乗じて適合者を手に入れたいと思ってる。
話ができるかどうかはわからないが、これまで誰も適合者に会うことはできなかったことから考えればそれは前進だろ?
――――――
「とまぁ、聖剣を抜いてほしいっていうのは半分冗談、半分本気だ。それができれば1番騒ぎになるからな。」
「あー、おっさん。なんかいろいろあるのはわかるけど……そんな重い話を初対面の俺にされても困る!」
「え?」
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