第4話 僕だけ知っている世界
結局3人で回ることになったのだが僕は楽しそうな二人について行くことが出来なかった。
「すまん、用事を思い出したから帰るわ」とそれだけ言って、踵を返した。
「おい、いきなりどうしたんだよ」とか静止の声が消えた気がするが無視してその場を離れる。
受け入れたくない。あんな現実。如月先輩は僕の初恋で生きる意味でもあったのだ。だからかなりのショックを受けのである。
家に帰る気分なれなく街中を彷徨う。路上に植えられてる桜は緑へと色付き、春の匂いも感じない。桜といえばこの街には不思議な都市伝説がある。6月に桜の花びらを掴むと願いが一つだけ叶うと言った、ありふれた話が今に伝わる。ちなみに根拠も証拠もなく、そもそもこの時期に桜が咲くなんて科学的にありえない。僕は街の中心地からどんどん離れて、人気のない公園まで来てしまった。この公園は常に人気がないわけではなく春には綺麗な桜の名所として、秋には紅葉の名所として賑わう。
「何やってんだろ」そんなため息じみた声が漏れる。親友に嫉妬しすぐに諦めてしまう。昔から僕はそういう性格なんだ。それに如月先輩のあの笑顔を見せらたら僕と彼どちらが優勢かなんて一目瞭然である。如月先輩は僕と話すよりも彼話した方のがとても楽しいそうだった。周りに人がいないことを確認する。もう限界だった。溢れる涙は地に落ちていく。当然、拭ってくれる人なんて誰もいない。僕は彼女のことを想ってただ涙を流す。
「これが失恋というものか」初恋は夢のように覚めてしまう。泡のようにそっと消えてしまった恋を直ぐに忘れるなんてできっこない。
ふとそこに1枚の花びらが舞う。涙で視界が滲みなにか分からなかったが、ピンク色をした花だった。
「桜が何故ここに」都市伝説を思い出す。6月桜を掴むと願いが叶う。そんなものを信じている訳では無いけど、藁にもすがる思いでこう願う。
あの二人を幸せにしてくださいと。
「その願い確かに聞き届けた。では代償を頂こう」
そんな声が聞こえてくる。当然だ。願いなんて簡単に叶うそんな話があるわけない。
「代償はなんだ」
「その2人とやらからお前の記憶を消す」つまり出会わなかったことにするってことか。でもそれなら僕にとっても好都合だ。きっと僕も如月先輩のことを忘れられるから。
「分かった」答えた瞬間に目の前が真っ暗になり、目覚めたら自分の家のベットだった。
時計は3時を指している。
「なるほど時間が戻ったということか」日付は変わらず3時間程戻されていた。
家にいても暇なだけなので街に向かう。ビルや駅、マンションが連なる風景、所々に植えられている街路樹、歩道橋の上から見える忙しなく走る車両、そして少し歩けば大きな川がある。これらの風景は僕の心に安らぎをあたえてくれる。この街は田舎とも都会とも言い難い不思議な街。すれ違う人はスーツ姿の社会人や少し着飾っている女の人、好奇心旺盛でワンパクな小学生、幸せそうな恋人など様々だ。
「なにか大事なことを忘れている気がする」朝から少しモヤモヤとした感情が渦巻くのだ。大切な人を忘れてしまっているような心にポッカリと穴が空いている気分になる。彼女との初デートだというのにどうしたんだろう俺。
「いきなりどうしたの陸斗」
「いやなんでもない。それよりもどこに行く?」
「だったらあの喫茶店行ってみない」
「ああ、新しく駅前のショッピングモールにできたあそこか」
「そう、あそこのパンケーキ美味しそうなんだよね」なんて嬉しそうに言う紗夜華。歩きながらたわいもない会話を繰り広げる。恋人になってもならなくても関係せいは変わってない。なのになんでこんなにモヤモヤするのだろう。この感情の正体は不明のまま歩道橋を歩く。
「僕の分まで幸せになれよな」ふと、そんな声が聞こえてくる。その声を聞いた時、不明の感情はすっと消えた。どこかで聞き覚えがある優しい声色である。その人に声をかけようと振り返って見るがそこには誰もいなかった。
春の夢は泡沫の恋情 華月夜桜 @k3141592
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